Jリート [ 専門家インタビュー アナリスト石澤氏に聞く ]
【第3回】
REITの株価下落は海外要因 割安で投資意欲は高まる
ようやく立ち直る気配を見せていた東証上場REIT。しかし、7月後半から株価は急落。東証REIT指数は、8月11日に940ポイントまで急落しました。これまで徐々に回復してきた東証上場REITが下落に転じた理由は、何だったのでしょうか。みずほ証券チーフ不動産アナリストの石澤卓志氏に話を伺いました。
ようやく回復基調にあった東証REIT指数ですが、7月下旬から大きく値を崩しました。理由は何だったのでしょうか。
みずほ証券チーフ不動産
アナリスト石澤卓志氏
石澤氏:
今回の下落は、国内REITに起因する問題ではありません。あくまでも海外市場の混乱が、マーケットの下落につながったということです。
8月2日、米国で債務上限引き上げ問題が解決しましたが、その後も米国国債の格付け引き下げが発表され、米ドルが大きく売り込まれました。当然、株価も乱高下を繰り返し、それに連れて、日本の株式市場も大きく下げました。これによって、投資家心理が悪化し、国内REITも売り込まれたのです。
このように、外部要因によって、値崩れを起こしたわけですが、国内REITの中身自体には特に問題があるわけではありません。したがって、海外要因さえ落ち着けば、国内の株式市場の全体動向にかかわらず、国内REITの株価も回復へと向かうでしょう。
また、国内REITの購入を手控えている投資家の間でも、国内REITへの投資を再開する動きが広まってきています。中身に問題がない状態で、株価だけが海外要因で下げているわけですから、ファンド自体は割安感が高まってきています。正直、海外要因がここまで国内REITの株価に大きな影響を及ぼすのは想定外でしたが、このまま国内REITの下落が続くことはないでしょう。利回りも5%を上回っていますし、投資対象としての魅力は高まってきています。今後は増資の動きも出てくるでしょうし、少しずつではありますが、マーケットは底を固めてくると思います。
今後の動向については、株式市場の動向に左右される局面も予想されますが、前述したように、あくまでも海外要因による下げなので、国内REITへの影響は限定的だと考えています。今の水準は、下げ過ぎです。
図表:東証REIT 指数とTOPIX の推移
増資はREITの株価にとってマイナス要因になるのでは?
石澤氏:
多くのREITが増資を検討していると思います。5月から7月にかけて3つの国内REITが増資を行いましたが、ディスカウント増資が多く、また、分配金への寄与が限定される内容だったため、全ての投資家の支持を得られるまでには至らなかったようです。
増資を行うということは、1株当たりの利益が希薄化するため、需給面から言えば、マイナスの要素になる恐れがあるのは事実です。8月はREITの株価が大きく下落したため様子見ムードが広まったのですが、株価が回復してくれば、増資に踏み切る国内REITが出てくるでしょう。
確かに、増資は需給面から言えば、マイナス要因になる恐れはあるのですが、きちっとしたエクイティストーリーを描くことができる、しっかりした増資内容があれば、むしろ将来的には分配金を増加させる要因になります。REITの財務体質の改善のみを目的とした増資は、投資家の支持を得にくいのですが、ファンドへの組入物件を増やし、分配金の増加が見込める増資の場合は、中長期的に見て、REITの株価上昇にもつながります。恐らく、今後の増資は、このように、しっかりしたエクイティストーリーを描いたものが中心になるでしょう。
国内REIT市場の需給バランス、物色動向は回復傾向をたどってきているのでしょうか。
石澤氏:
決して悪くはないと思います。というのも、7月あたりから個人向けマネー誌の取材が増えており、現状、個人投資家の参入はあまり進んでいない国内REIT市場に対する関心度合いが高まってきているという手ごたえが感じられます。
また、国内金融機関についても、4月から国内REITの運用枠を増やしてきているので、前述したように、今後、きちっとしたエクイティストーリーを描けるような増資が増えて、かつ米国の株式市場などが回復傾向をたどるようになれば、こうした国内金融機関の買いも、徐々に出てくると思います。実際、6月あたりから地方の金融機関を対象にした国内REITのセミナーが増えてきていることからも、国内REITに対する国内金融機関の関心の高さが伺われます。
この他、今年から教職員共済組合が、国内REITへの投資を開始したという報道もあります。基本的には配当利回りの高い銘柄を中心にして、それらをポートフォリオに組み入れ、長期保有するというスタンスですが、いずれにしても、国内REITに投資する投資家のすそ野は、確実に広がってきていると思います。
そして、日銀による国内REITの買取についても、当初の1,000億円が1,100億円に増えました。金額的にはごくわずかな増加なので、市場関係者のなかにはネガティブな受け止め方をしたところもあると聞いてはいますが、投資枠が増えたということ自体は、マーケットの需給バランスにとってプラスに働きます。
したがって、あとは海外のネガティブな材料さえ払拭されれば、国内REIT市場は活気を取り戻していくと考えています。
東証REITが登場して10年。この間、個人投資家のREITに対する関心は高まってきましたか?
石澤氏:
現在、国内REITへの投資で、個人投資家の比率は15%程度と、決して高いとは言えない状態にあります。基本的に国内REITは、証券会社を通じて売買されますが、現状、証券会社が扱っている商品は、株式や債券、あるいはそれら有価証券を組み入れて運用されている投資信託が中心であり、不動産を対象にした投資商品は、やや特殊な存在であります。個人投資家のなかには、証券会社で不動産投資できる商品があるということに気づいていない方も大勢いらっしゃると思います。
結果的に、REIT市場への個人投資家の参入がなかなか進まないという状況になっているわけですが、一方でREITを組み入れて運用されているファンド・オブ・ファンズは高い人気を集めています。
図表:REIT を運用対象とするファンド・オブ・ファンズ等の状況
実は、これがREITマーケットでは、一時的に価格の低下要因になっている側面があります。一部のファンドが新規募集の一時中止を行ったことから、国内REIT市場に参入している投資家の間では、REITに対する需要が後退しているという見方が広がりました。これも一時的にはREITの価格下落につながりました。
ただ、この点については誤解があります。追加募集は停止されましたが、だからといって運用そのものが停止されたわけではないのです。確かに、ファンド・オブ・ファンズに新規の資金は入ってこなくなりますが、運用は継続しているため、REITの売買は行われており、需要の減少にはつながりません。
とはいえ、こうしたファンド・オブ・ファンズの人気化については、多くが通貨選択型のファンドであるなど、やや問題も感じられます。国内REITを組み入れたファンド・オブ・ファンズの場合、基本的に為替変動リスクを直接受けることはないのですが、通貨選択型という形に仕立て上げられると、直接、為替リスクにさらされることになります。現状ではブラジルレアル建てに人気が集中しており、個人投資家の関心の目が、国内REITに向いているのか、それともブラジルレアルに向いているのか、よく分かりません。つまりファンド・オブ・ファンズの人気が高いといっても、それは国内REITに対する個人の関心が高まっている証拠だとは一概に言えません。
投資信託の場合、最近は利回りの高いものを購入する傾向が見られますが、市場で売買されている国内REITに直接投資しても、5%前後の配当利回りを確保することができます。もちろん、直接的な為替リスクもありませんから、投資対象としての妙味は高まってきていると思います。
プロフィール : 石澤卓志 いしざわ たかし
みずほ証券金融市場グループ金融市場調査部チーフ不動産アナリスト。
慶応義塾大学卒業後、1981年日本長期信用銀行に入行。
長銀総合研究所主任研究員、第一勧銀総合研究所上席主任研究員を経て、2001年より現職。