【第15回】米国株式の“いま”を表す株価指数「NYダウ」。専門家に近い投資手法が個人でも可能に 東証ETF

投稿日:2022/05/09 最終更新日:2022/11/01
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東証ETF・ETN活用プロジェクト [ なるほど!ETF・ETN ]

【第15回】

ETFプロバイダーに聞く——シンプレクス・アセット・マネジメント

米国株式の“いま”を表す株価指数「NYダウ」。
専門家に近い投資手法が個人でも可能に

世界でもっとも歴史のある株価指数「ダウ・ジョーンズ工業株30種平均」(NYダウ)。この指数に連動する運用をめざすETFが『Simple-X NYダウ・ジョーンズ・インデックス上場投信』(愛称:NYダウETF)です。シンプレクス・アセット・マネジメントの設定・運用で、2009年12月に東京証券取引所に上場しました。『NYダウETF』の特徴や設定の背景などについて、同社代表取締役社長の水嶋浩雅氏に聞きました。
米国の栄枯盛衰を100年以上にわたってトラック
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シンプレクス・アセット・マネジメント代表取締役社長
水嶋浩雅氏
『Simple-X NYダウ・ジョーンズ・インデックス上場投信』(愛称:NYダウETF)が連動することをめざす株価指数「ダウ・ジョーンズ工業株30種平均」。米国の株式市場を左右する業界における有力企業30銘柄で構成されています。NYダウなどの略称で呼ばれ、1896年から算出を開始。世界でもっとも歴史のある株価指数です。
「NYダウは世界でいちばん親しまれている株価指数だと思います。米国を代表する30社が入れ替わりながら、100年以上もずっと続いている。まさに米国株市場そのものといえます」。
こう説明するのは、『NYダウETF』を運用するシンプレクス・アセット・マネジメント代表取締役社長の水嶋浩雅氏。米国の株価指数としてはスタンダード&プアーズが算出する「S&P500」が有名で、機関投資家がベンチマークとして採用するのは、こちらの方が多いようです。
「専門家のなかにはNYダウのベンチマークとしての完成度に疑問をもっている方が確かにいます。しかし、例えば米国市場の“いま”を如実に表す指数として見れば、その歴史の長さを含めて非常に意味のあるものではないでしょうか」。
NYダウの直近の銘柄変更は2009年6月。シティグループとゼネラル・モーターズ(GM)の代わりに、トラベラーズ・カンパニーズとシスコシステムズが組み入れられました。1896年の設定時から継続して残っている銘柄はゼネラル・エレクトリック(GE)1社のみ。「いわば米国の栄枯盛衰をずっとトラックしているNYダウに連動するETFが日本になかったことが、当社が『NYダウETF』を設定した大きな理由のひとつです」。
図1:ダウ・ジョーンズ工業株30種平均の全構成銘柄
図1:ダウ・ジョーンズ工業株30種平均の全構成銘柄
出所:シンプレクス・アセット・マネジメント株式会社作成
販売用資料(2010年4月)
(2010年3月末現在)
機関投資家向けにETFを積極的に活用してきた実績を生かす
個人投資家にとって『NYダウETF』の最大のメリットは、日本の取引時間中に米国株式市場の上場銘柄を売買できる点にあります。「グローバル市場におけるアジアの影響力は日増しに強くなっています。従来はニューヨーク市場の動きがグローバルに大きな影響を与えていました。いまは違ってきています。アジアでの動きや出来事が逆に、欧米市場へ影響を与えるようになってきました」と水嶋氏。
アジアからニューヨーク市場を予測して取引できるツールとしてはシンガポール国際金融取引所(SIMEX)などがありましたが、機関投資家はともかく個人での投資は難しかったのが事実です。「ETFなら個人でも低コストかつ簡単に取引できます。日本の取引時間中に起こったニュースや出来事でニューヨーク市場を予想して、上がると判断すればロング(買い)、下がると思えばショート(売り)すればいいわけです」。
シンプレクス・アセット・マネジメント代表取締役社長水嶋浩雅氏
水嶋氏は『NYダウETF』の活用法として、「インターマーケットスプレッド取引」を挙げています。これは、NT倍率(日経平均株価とTOPIXの比率)を使った取引と同じような方法。例えば、日経平均株価とNYダウに関連性があるという立場から両者の割高度・割安度を検証して投資するものです。「ニューヨークが上がったら東京も上げ、というような単純な見方とは違う手法で、私たち機関投資家も使っています。つまり、『NYダウETF』を活用することで、プロに似た投資方法を実践できるわけです」。
シンプレクス・アセット・マネジメントは水嶋氏をはじめ、米国の投資銀行ソロモン・ブラザーズの債券トレーダー達が独立して立ち上げた資産運用会社です。独立の前は債券のアービトラージ(裁定取引)ファンドや中東の私募投信など、ヘッジファンドの色彩が強く機関投資家向けのビジネスが中心でした。現在は『NYダウETF』のほかにも『WTI原油価格連動型上場投信』を運用するなど、ETFには積極的な立場をとっています。
「当社は資産運用会社としてこれまで、ETFを積極的に活用してきており、その魅力やメリットを十分に理解しています。日本株の投資先は小型株が多いのですが、その特徴は“売れば下がる、買えば上がる”という流動性の低さ。例えば急な資金流入があった場合などには、TOPIXのETFを買ってベータ値(市場に対する感応度)をコントロールしてきました。ETFなら取引コストも十分低いですからね」。
図2:『NYダウETF』の基準価額と純資産残高の推移(設定来〜2010年10月1日)
図2:『NYダウETF』の基準価額と純資産残高の推移(設定来〜2010年10月1日)
出所 QUICK
取引所取引であるETFの強みが相対的にクローズアップ
シンプレクス・アセット・マネジメント代表取締役社長水嶋浩雅氏
日本のETFは2008年の改正金融商品取引法の施行までは事実上、日本株の株価指数に連動するものに限定されていました。規制緩和によって、海外の株価指数や債券、商品価格に連動するETFの組成も可能となり、商品ラインアップの拡充と多様化が一気に進んだ感があります。
「個別のETFの良し悪しはともかく、その仕組みは“金融商品における21世紀のノーベル賞”といわれているほど評価の高いものです。リーマンショック以降、カウンターパーティ・リスク(※)が取りざたされているなかで、機関投資家のあいだでは取引所取引のメリットが見直されています。その点でもETFの活用や多様化はもっと進むのではないでしょうか」。
「当社は世界中のヘッジファンドなどとグローバルなネットワークをもっていますが、ホームマーケットである日本市場の活性化が近年の大きな課題のひとつでした。そこで、日本のETF市場の拡大に向かって一石を投じたいと思ったのが、当社がETFに積極的に取り組む正直な理由です」。
また、水嶋氏は今後の米国経済の見通しと『NYダウETF』の活用法ついて、以下のように解説しています。
「米国は資本主義経済のリーダーであり、柔軟でスピーディーな動きから“市場の優等生”といわれています。マーケットを見ていると、米国市場は一時期こそ落ち込んだものの立ち直りはわりと早いのではないか、と考えています。世界中で緩和競争による流動性相場の様相が強まっているなかで、米国も過剰流動性の負の部分が今後、出てくるでしょう。問題はその負の動きがいつ表れて、FRB(米連邦準備理事会)を含めて政府がどう対処するか。ここしばらくはないと思いますが」。
「ETFは短期投資でも長期投資でも活用できる金融商品。米国経済が良くなると判断すれば長期保有できるし、悪くなると判断すればすぐに売却したり空売りすることもできます。バリエーションも増えたので、現状のラインアップでも当社のようなヘッジファンド的な投資も可能になっています。またグローバル・アセットアロケーション(資産配分)が、低コストで少額からできることは個人投資家にとって驚異的なメリットだと思います」。
(※)カウンターパーティ・リスク=契約を結んだ相手(カウンターパーティ)に債務不履行が生じたり、契約上の合意が守られなかったりするリスクのこと。信用リスクの一種といえる。

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監修者:菅原 良介
編集者:K-ZONE money編集部

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