株式取引をする上で、もし企業の従業員が内部情報を用いて株式取引を行うと、他の投資家よりも早い段階で売買を判断することが出来るので、有利に取引することが可能になってしまいます。
そのような不正取引をなくしていくために、「金融商品取引法」でインサイダー取引のための規制が定められています。インサイダー取引は犯罪なので重い罰則が与えられてしまいます。
今回は、インサイダー取引について解説していきます。
菅原 良介
Finatext サービスディレクター・アナリスト。日本テクニカル協会認定テクニカルアナリスト。早稲田大学 政治経済学部 経済学科卒業。
Finatextグループで展開される投資・証券サービスのディレクターを担当する傍ら、アナリストとしても活動。グループで展開するコミュニティ型株取引アプリSTREAM内で開催されるイベントのモデレーターなども務め、国内メディアへの寄稿も行う。
インサイダー取引とは?
インサイダー(insider)は英語で「組織の内部の人、部内者」の意味があり、インサイダー取引とは未公開情報を知った上で株式等の売買を行う取引の事を指します。 インサイダー取引は証券市場の公平性と健全性を保つため、金融商品取引法で禁止されています。
金融商品取引法166条では「上場会社等に係る業務等に関する重要事実については、当該子会社の業務等に関する重要事実であって、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け、合併若しくは分割による承継又はデリバティブ取引をしてはならない。」と定められています。
インサイダー取引の対象者は、上場企業の役員や従業員である「会社関係者」と会社関係者を通じて情報を得た「情報受領者」です。会社内部の人でない場合も対象となるので注意が必要です。
インサイダー取引ってどうやってバレる?
インサイダー取引は結論から言うとほぼ確実にバレます。会社の従業員が赤の他人に重要事実を漏らしてしまった場合でも情報受領者として規制の対象とされることも考えられます。ここでは、インサイダー取引がどのようにして摘発されるか、罰則はどのようなものなのかを解説していきます。
インサイダー取引がバレる仕組みと取り締まり方
インサイダー取引は、東京証券取引所や証券取引等監視委員会という機関が証券取引について常に監視しています。重要事実が公表された銘柄について、市場の公正性・透明性の確保及び投資者保護の観点から監視、調査を行います。
流れとしては、株価を大きく動かすような重要情報の公表が企業からされる前に該当企業の株を売買した人は監視対象になります。 監視対象者が過去の記録から株価が急騰、もしくは急落する直前にだけ注文を出しているという場合、これは明らかにインサイダー取引が疑われ、投資者の属性情報や取引履歴が捜査されます。捜査結果によって違反行為が認められた場合には、金融庁長官等に対して課徴金納付命令を発出するよう勧告、又は金融商品取引法違反行為に対して裁判所への申立てを行います。
また、内部告発からインサイダー取引が発覚したケースも多くあるため、親族や仲間内だからバレないだろうと考えるのはとても危険です。
*証券監視委の取組み(https://www.fsa.go.jp/sesc/actions/index.html)
インサイダー取引の罰則は?
インサイダー取引を行なった者は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰則(又は懲役と罰則の両方)が科せられ、インサイダー取引によって得た財産は没収されます。 法人の代表者や役員などが法人の計算でインサイダー取引を行った場合には、犯罪を行なった法人関係者である個人だけでなく、法人そのものにも罰則がかけられることがあり、この場合はその法人に対して5億円以下の罰金がかけられます【金融商品取引法207条1項2号】
実際どれくらい取り締まりされているか
証券取引監視委員会は毎年1,000件前後の内部者取引に関する取引審査を行っています。実際にどれくらいの件数が取り締まりされているかを以下の表に記載します。
年度 | H28 | H29 | H30 | R1 | R2 |
件数 | 30 | 19 | 23 | 34 | 5 |
(ここでは、内部者取引、重要事実に関する伝達と推奨行為に対する課徴金納付命令件数を件数としている)
参考:https://www.fsa.go.jp/policy/kachoukin/05.html
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インサイダー取引とはどこまでが対象者?規制内容は?
インサイダー取引自体は禁止されていますが、インサイダー取引を未然に防ぐためにインサイダー情報を得る立場によって取引が制限されたり、禁止事項が存在したりします。
①上場企業に属している人の場合(自社株売買)
上場企業に属している人の注意点は2点あります。
1点目は、自社株売買です。基本的に、自社株売買は可能です。しかし、決算発表前などの重要事実公表前の期間の売買には注意が必要です。 例外として、従業員持株会の買い付けはインサイダー取引の対象外となります。売却時にはインサイダー取引の対象になるので、従業員である以上は売却タイミングについて、注意する必要があります。
2点目は、公表前の重要事実を外に流す行為です。うっかり家族や友人に情報を流し、そのような外部の人が売買を行うと、情報を流した人も罰則対象ですので注意が必要です。
未然防止策としてまずは、未公表の重要事実を知っているかを確認しましょう。知っている場合に取引を行うとインサイダー取引になってしまいます。 もし、知っている情報が未公表の重要事実か判断が難しい場合は、会社の該当部署などに確認・照会するようにしましょう。
また、自社の株式の売買に関する社内ルールがある場合はルールに従い、必要であれば所定の手続きをとってから売買を行うことが重要です。
注意事項として上場企業に属している人とは社員とはパート、アルバイト契約社員も関係者として含むことを留意しましょう。
②金融機関に属している人の場合
イメージとして金融機関に所属している方は株式投資に対して非常に有利になるのではないかと考える方も多いと思います。そこで金融機関に属している人の場合も紹介します。 まず、金融機関で働いていると、信用取引・先物取引は禁止されます。 証券会社や銀行に勤める人も基本的に、現物株に対する株式投資はできます。しかし、この現物取引にも制限があります。社内規定による規制があり、投機的利益を追求する取引は禁止され、株を売買する際には申請しないといけないなどかなり厳しい条件が設けられています。
③家族の場合
社員の家族が内部情報をもとに株取引を行なうことは禁止されています。 重要事実を知って株取引を行うことが問題ですから、たとえ内部情報を知っていても株取引をしなければ、インサイダー取引にはなりません。
インサイダー取引の事例
一体今までどんなケースでインサイダー取引が取締りを受けたのか、事例を紹介していきます。
従業員と第1次情報受領者が取り締まりされた例
Aさんは、社員であるBさんから、Bさんの属する企業の当期純利益について、公表された直近の予想値と比較して、新たに算出した未公表の業績予想値において、投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとなる差異が生じた旨の重要事実を知った上で、事業年度の業績予想が公表される前に、株式を買い付けました。
Aさんが行った上記の行為は、金融商品取引法第175条第1項に規定する「第166条第1項又は第3項の規定に違反して、同条第1項に規定する売買等をした※」行為に該当し、犯罪であると認められました。
※金融商品取引法第166条「会社関係者が上場会社等に係る業務等に関する重要事実を当該各号に定めるところにより知ったものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け、合併若しくは分割による承継又はデリバティブ取引をしてはならない。」
第1項「当該上場会社等の役員(会計参与が法人であるときは、その社員)、代理人、使用人その他の従業者の職務に関し知ったとき。」
第3項「当該上場会社等に対する法令に基づく権限を有する者の当該権限の行使に関し知ったとき。」
社員のBさんは勤務する自身の企業の業績予想について、公表がされた直近の予想値と比較して、新たに算出した未公表の業績予想値において、投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとなる差異が生じた旨の重要事実を、Aさんに対し、公表がされる前に株式の買付けをさせることにより、Aさんに利益を得させる目的をもって内部情報を伝達しました。
Bさんが行った上記の行為は、金融商品取引法第175条の2第1項に規定する「第167条の2第1項の規定に違反して、同項の伝達をし、又は同項の売買等をすることを勧める」行為に該当し、犯罪行為であると認められました。
海外ではNFTのインサイダー取引で起訴されるケースも
株式投資にかかわらず日本では「特定有価証券」及びその「関連有価証券」が取引対象です。すなわち、株以外のデリバティブ商品と言われるような金融商品も対象になります。米国では最近話題のNFTによるインサイダー取引が注目されています。 大手NFTマーケットプレイスOpenSeaのプラットフォーム上で特集されるNFTを選択する役職に就いていた同社の元社員が、2021年6月から9月にかけて対象となるNFTが掲載される前にそれらを多数購入し、同プラットフォーム掲載により値段が上がったところで売却して利益を得ていました。2022年6月に米司法省はこの件について元従業員をインサイダー取引の疑惑で訴訟を起こしました。
NFTは現在、金融商品ではありません。しかし、今回の件で株式市場でもブロックチェーン上であってもインサイダー取引は違法であることが明確化される可能性が大いにあります。
実際のところ、インサイダー取引の規制の境い目とは?
実際のところインサイダー取引は規制がどこまでされているのか分かりづらいです。また、インサイダー取引は白黒の線引きが極めて難しいです。どこまでがイン サイダー取引に当たるか、解説していきます。
たまたま知った情報はインサイダー取引になるのか?
たまたま知った情報でも、金融商品取引法に定められている重要事実等に該当すれば、その事実に基づいて株の取引したかどうかで判断され、どんな小さな取引でもインサイダー取引の取り締まり対象になってしまいます。
そうとは知らずに、たまたま買った株の値段が大幅に上昇したら疑われるのか?
何度もそのような取引を行った場合には疑われる可能性が大いにあります。しかしながら、重要事実を知りながら有利な取引を行う事が違反であり取引履歴など捜査された上で取り締まられるので、偶然買った株の値が大きく上昇したとしても罰せられることはありません。
まとめ
インサイダー取引は違法行為です。故意に行うとバレます。わずかな金額でも許されるものではなく、課徴金命令が下されたり、刑事罰に問われたりすることもあります。インサイダー取引と疑われるような取引も監視対象になってしまうので公正な取引を心掛けましょう。 インサイダー取引を未然に防止する為に、社内規定の確認、知った情報が重要事実ではないかなど注意しておきましょう。
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よくある質問
Q | インサイダー取引の重要事実ってなに? |
A | 主に3つあります。決定事実、発生事実、決算情報があります。情報の内容によって基準がつけられています(重要事実と軽微基準等の一覧)。 【関連記事】:インサイダー取引における規制内容とは?罰則事例もご紹介 |
Q | インサイダー取引はなぜダメ? |
A | インサイダー取引を許すと一般の投資者が不利に取引を行うこととなり、証券市場の公平性、信頼性が損なわれかねないため、金融商品取引法で禁止されています。 詳しくは「インサイダー取引ってどうやってバレる?」を参照 |
Q | インサイダー取引の例外ってある? |
A | インサイダー取引には例外が存在します。ストックオプションや持株による定期的な購入など一部取引に関しては規制の対象外となっています。 【関連記事】:インサイダー取引における規制内容とは?罰則事例もご紹介 |
Q | 投資信託ETFなどの取引はインサイダーにならないの? |
A | ETF、株式投資信託等は、原則として、インサイダー取引規制の対象である「特定有価証券等」ではありません。基本的に取引可能です。 【関連記事】:インサイダー取引における規制内容とは?罰則事例もご紹介 |