インサイダー取引については以前説明した通り「内部者取引」という金融商品取引法違反となる行為です。インサイダー取引が発覚すると課徴金命令又は刑事罰の対象となってしまいます。実際にどのような罰則があるのか、詳しい事例を用いて紹介していきます。
インサイダー取引の規制内容・重要事実とは?
インサイダー取引とは、投資者の投資判断に重大な影響を与える重要事実を利用して、自社株等を売買することで、自己の利益を図ろうとする取引のことを指します。重要事実とは、主に以下のようなものを指します。
- 未公表の決算情報
- 業務提携・株式発行・分割・株式交換・株式移転・合併などの決定事実
- 主要株主の異動、訴訟の提起や判決などの会社の意思によらずに発生する発生事実
- 子会社の未公表情報
他の記事でインサイダー取引について解説しているのでそちらを参考にしてみてください。
インサイダー取引による罰則は?
インサイダー取引が発覚した後、どのような罰則があるか紹介していきます。
基本的には課徴金納付命令が下される
基本的には課徴金納付命令が下されます。課徴金とは、行政庁が違反者等に対して課す金銭的不利益のことをいいます。課徴金納付命令はあくまでも行政処分の一種ですので、前科にはなりません。しかし、課徴金はいかなる場合でも払う必要があります。
課徴金の金額については、違反行為に応じて定められています。また課徴金は、審判手続により決定されます。
重い場合には刑事罰の対象に
インサイダー取引の内容によっては刑事事件として立件される場合もあります。
インサイダー取引が発覚して行為者に対し与えられる刑罰は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金です。(金融商品取引法197条の2)。インサイダー取引によって得た財産については、当然没収されます(金融商品取引法198条の2)。
インサイダー取引の内容によっては犯罪を行った者だけが罰せられるだけでなく、法人そのものにも罰則がかけられるケースもあります。法人に対しては5億円以下の罰金が科せられます。有名な事件としては2006年の村上ファンド事件が挙げられます。インサイダー取引により代表の村上氏、法人としてMACアセットマネジメントが起訴されました。
取引した会社への影響は?
インサイダー取引そのものに会社が関与していたか否かにかかわらず、役員や従業員がインサイダー取引で摘発されたとすれば、会社の信用に関わる重大な不祥事です。 投資家からの信用を失って株価が暴落したり、今後の会社経営に影響を及ぼすことになるでしょう。そのために、各企業では、様々なインサイダー取引を防ぐ対策を徹底的に行っています。会社の規定を確認してみましょう。
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インサイダー取引の罰則事例
インサイダー取引の罰則事例を紹介していきます。課徴金命令の例と刑事事件として立件された例の2件について紹介していきます。
罰則事例①
従業員Bが自社の公開買付けの実施に関する決定事実をその職務に関する公開買付者からの伝達で知った従業員Aから投資判断に影響を及ぼす事実を知りました。従業員Bがその決定事実を公表前に知りながら、上記事実の公表がされる前に知人に対し、上記事実が公表される前に自社の株式の買付けをさせることにより同人に利益を得させる目的で、同株式の買付を勧めました。被推奨者は、上記事実の公表前に、株式合計1200株を買付価額合計93万7800円で買い付けました。
証券取引等監視委員会は、従業員Bに対し投資判断に影響を及ぼす決定事実の伝達をし、買付けを勧める行為による金融商品取引法違反から課徴金納付命令を下しました。
このように、取引金額が決して大きくない場合でもインサイダー取引が発覚し摘発されています。
罰則事例②
2022年11月に東京地検特捜部が金融商品取引法違反容疑でスクウェア・エニックスの元従業員、その知人ら2名が逮捕されました。これは、容疑者がスクウェア・エニックスとAimingが共同開発していた新ゲームが配信開始を見込める段階まで進捗したことや新ゲームリリースに伴い運営していく旨の業務提携等、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす重要事実を知って、2019年12月から2020年2月にかけて、Aiming株を購入したことによる容疑がかけられています。
知人にあらかじめAimingの株券を買い付けさせて利益を得させる目的で、前記各重要事実の公表前に知人に対し、重要事実を伝達し、知人もこの情報を持って買い付けました。
容疑者2名は、Aimingの株式合計16万2000株を、4720万円程で買い付けたとされています。
インサイダー取引規制の例外とは?
証券市場の公正性と健全性を保つ取引についてはインサイダー取引規制の適用を除外しています。適用除外されている取引について解説していきます。
持株会による買付
持株会では毎月、従業員の給与・賞与から一定額を天引きし、これを集めた資金で自社株を購入します。従業員は拠出額に応じて配当金を得られる仕組みになっています。
毎月行う定額の買付け(各役員・従業員の1回あたりの拠出額が100万円未満)はインサイダー取引規制の適用除外です。したがって、自社の株式の買付けであれば、未公表の重要事実を知っていても可能であり、インサイダー取引規制違反に問われることはありません。しかし、売却に関してはインサイダー取引規制の適用除外とはされていませんので注意が必要です。
ストックオプションの行使
ストックオプションとは、株式会社の従業員や役員が、自社株をあらかじめ定められた価格で取得できる権利の事です。
会社が従業員や役員に対して、あらかじめ定められた金額(権利行使価格)で、会社の株式を取得できる権利を付与します。 株価が上昇したタイミングで株式を売却することで、差額分の利益を受け取れるメリットなどがあります。
未公表の重要事実を知っていても、ストックオプションを行使して株式を取得することは可能です。しかしながら、インサイダー情報を知っている場合、その情報が公表されるまで売却は出来ませんので注意が必要です。
知る前の契約・知る前計画
上場会社の役職員等が、未公表の重要事実を知る前に、取引を実行する期日や期日ごとの売買の数量または総額をあらかじめ定めるなど必要な記載をした契約・計画を作成するなどの手続きを踏んでおくことで、後になって未公表の重要事実を知ることになっても予定通りの売買可能となります。
未公表の重要事実を知っている場合でも、その情報が公表された後の売買を予定して「知る前契約・計画」を利用することが可能です。
まとめ:インサイダー取引の罰則事例
インサイダー取引等の違反取引は証券取引所や証券取引等監視委員会が常時監視しており、不自然な取引がされれば必ずチェックされます。罰則についても課徴金命令が下され、重い場合には刑事罰の対象となってしまいます。インサイダー情報の管理・取扱いには細心の注意を払うようにしましょう。
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よくある質問
Q | インサイダー取引で損した場合も罰則はある? |
A | 罰則はあります。インサイダー取引自体が違反行為と判断されています。 詳しくは「インサイダー取引における規制内容とは?罰則事例もご紹介」を参照 |
Q | インサイダー取引は犯罪ですか? |
A | 犯罪行為です。金融商品取引法違反に該当します。 |
Q | どこから重要事実が公表されたといえますか? |
A | 2社以上の報道機関に公開してから12 時間経過又はTDnetを用いた公衆縦覧等があります。 詳しくは「インサイダー取引における規制内容とは?罰則事例もご紹介」を参照 |