2023年度から出産育児一時金が現在の42万円から50万円に増額されると発表されました。2022年12月7日に岸田総理が発表し、現在最終調整中ですが、これから出産を考えている世帯にとってはよいニュースです。
実際に出産育児一時金を受け取るにはいくつかの方法があります。この記事ではその中の1つである「直接支払制度」を取り上げて解説します。直接支払制度は出産費用の直接的な支払が少なく済むことになる便利な制度ですので、利用を検討してみて下さい。
出産育児一時金の直接支払制度
出産育児金一時金の受け取り方法は、主に以下3点のどれかです。
- 直接支払制度
- 受取代理制度
- 上記のどちらも利用しない(出産育児一時金を事後申請)
受取代理制度(後述)は、基本的に年間の平均分娩取扱件数が少ない医療機関が対象となります。したがって、直接支払制度か事後請求するケースが多くなると思います。
その時になって慌てないためにも事前にどちらを利用するか検討しておくほうがよいでしょう。基本的なメリットとしては、直接支払制度(受取代理制度も同様)を利用した場合はまとまったお金を準備しなくてよいことがあげられます。
出産育児一時金の受け取り条件等についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
直接支払制度とは
直接支払制度は医療機関等が被保険者等(妊婦やその家族など)に代わって健康保険組合組合に一時金の申請を行い、(医療機関が直接)出産育児一時金の支給を受けとる制度です。
出産育児一時金(42万円)(※出産育児一時金は2023年4月から50万円に増額されることが決定)を医療機関と健康保険組合がやり取りするため、出産費用としてまとまったお金を準備することなく出産費用に充てることができます。
直接支払制度を利用するには、まず医療機関(分娩機関)に保険証を提示して、直接支払制度に関する書類を申し込みます。この時、健康保険組合への申請は必要ありません。
実際の出産費用が出産育児一時金よりも少なかった場合、被保険者や被扶養者(つまり実際に出産した世帯の人)が差額分を健康保険組合に申請(請求)することで、その差額分が支給されます。
一方、実際の出産費用が出産育児金よりも多い場合、医療機関へ差額の支払いが発生します。
参考:全国健康保険協会 協会けんぽ「子どもが生まれたとき」
出産育児一時金の他の受け取り方
直接支払制度を利用しない方法が「受取代理制度」と「事後申請」です。
受取代理制度
受取代理制度は出産する側からすると直接支払制度とほとんど変わりません。医療機関と健康保険組合間で出産一時金のやり取りが発生するので、まとまった資金を用意しなくてもよいところがメリットです。
受取代理制度は「年間の平均分娩取扱件数が100件以下の診療所・助産所や、収入に占める正常分娩にかかる収入割合が50%以上の診療所・助産所を目安として、厚生労働省へ届出を行った施設」が対象となります。
具体的な対象医療機関は以下の厚生労働省のHP(※1)をご確認ください。
※1:厚生労働省「出産育児一時金の支給額・支払方法について 受取代理制度を導入している医療機関等施設一覧(令和4年8月1日現在)」
受取代理制度を利用する場合、事前に健康保険組合に受取代理申請書の提示が必要です。この申請書には出産予定医療機関の署名と捺印が必要になります。
以降は直接支払制度とほぼ同様で、出産育児一時金よりも実際の出産費用が少なければ差額を申請して支給を受けることができます。実際の費用のほうが高ければ差額を金融機関へ支払います。
事後申請
直接支払制度も受取代理制度も利用しない方法です。つまり、出産費用は自分で支払い、後から健康保険組合に申請して出産育児一時金をもらいます。
「健康保険出産育児一時金支給申請書」を作成して申請します。その際に以下の書類も必要になります。
- 医療機関等から交付される直接支払制度に係る代理契約に関する文書の写し(※2)
- 出産費用の領収・明細書の写し
- 申請書の証明欄に医師・助産婦または市区町村長の出産に関する証明が必要
※2 医療機関等と代理契約を締結していない、もしくは医療機関等が直接支払制度に対応していない旨が記載されている
また、海外出産でも出産育児一時金の申請が可能です。海外出産の場合、通常の申請よりも書類が多くなります。市町村によって申請の条件が異なる場合もあるので事前によく確認してください。
参考:全国健康保険協会「出産育児一時金について Q9:海外で出産した場合でも、出産育児一時金の申請はできますか?」
出産育児一時金の直接支払制度の申請・手続き
直接支払制度を利用するのは難しくありません。流れを理解しておいてスムーズに利用できるようにしましょう。
直接支払制度の申請の流れ
出産育児一時金で直接支払制度を利用する場合の流れは以下の通りです。【STEP2】までが出産前に行う手続きです。難しくないので安心してください。
【STEP1】
医療機関等で出産育児一時金の直接支払制度の説明を受けます。説明を聞いて直接支払制度を利用するか検討してください。利用しない場合でも事後申請で出産育児一時金を受け取ることは可能です。
【STEP2】
直接支払制度を利用する旨の代理契約に関する文書を作成します。こちらは健康保険組合に提出する必要はありません(直接支払制度を利用しない場合でも、利用しない旨の文書作成が必要です)。
【STEP3】
出産に要した内訳が記載された領収・明細書が交付されますので確認してください。また、【STEP2】と【STEP3】の間で医療機関と健康保険組合のやりとりがされていますが、出産をする側が意識する必要はありません。
【STEP4-1】出産費用が一時金より多い場合
医療機関にて差額(出産費用の不足分)を支払います。
【STEP4-2】出産費用が一時金より少ない場合
健康保険組合に差額の申請をします。申請には「健康保険出産育児一時金内払金支払依頼書」と「健康保険出産育児一時金差額申請書」の2種類があり、差額申請のタイミングにより異なります。
どちらを利用するかは、医療機関等への支給が終了した旨を伝える「支給決定通知書」が届く前に申請するかどうかによって決まります。詳しくは以下の協会けんぽのHPをご確認ください。
参考:全国健康保険協会 協会けんぽ「出産育児一時金について Q3:出産した際、直接支払制度を利用しましたが、出産費用が42万円未満でした。何か手続きが必要ですか?」
直接支払制度の申請におけるポイント
上の説明の通り、出産前後で行うことはほとんどないところが直接支払制度のメリットです。直接支払制度をスムーズに行うために、以下の点に注意しておきましょう。
- 入院前のタイミングで直接支払制度を利用するか決めておく(入院中に申請(上記のSTEP1~2)をする必要があるため)
- 出産育児一時金の支給額がいくらなのか把握しておく(2023年度以降50万円に増額される見込み)
- 出産費用がどの程度になるか把握しておく(出産費用が一時金より少なければ差額が申請でき、多ければ支払いが発生するため)
- STEP3で交付された領収・明細書は保管しておく。(出産費用が一時金より少ない場合、差額申請で利用することがあるため)
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直接支払制度にするメリット
直接支払制度は、出産育児一時金を健康保険組合に申請する必要がなく、まとまった費用を準備する必要がない点でもメリットが多い制度です。
出産費用を立て替える必要がない
一番のメリットはまとまった費用をつくる必要がない点です。直接支払制度を利用する場合、入院中に医療機関に申請書を提出すれば、あとは医療機関が健康保険組合とやり取りをしてくれます。
出産育児一時金を事後申請する場合、一般的には振込まで2か月前後かかることが多いようです。
手続きが比較的簡易
直接支払制度は手続きが比較的簡単な点もメリットです。特に出産前に関して、健康保険組合に申請することなく医療機関に申請すればよいだけという点は非常に便利です。
ただし、差額を申請する場合には、出産後に健康保険組合に申請をする必要があります。
クレカの問題を気にしなくて良い
出産費用は保険対象外なので高額になります。正常分娩の場合の全国平均でも50万円近くするため、支払いが簡単ではありません。クレジットカード払いを利用しようとしている場合、クレジットカードの限度額や、利用したいクレジットカードでの支払いが可能なのかといった不安もあります。
直接支払制度を利用すれば、出産費用の直接的な支払が少なくなるため、クレジットカードを利用する場合でもこのような問題をほとんど気にすることがありません。
直接支払制度にするデメリット
ただし、直接支払制度が必ずしも最善ではありません。端的にいえば、出産育児一時金を利用しなくても出産費用を余裕をもって支払いできる人であれば、直接支払制度を利用するメリットがそこまで大きくないといえます(直接支払制度を利用するメリットが少ないというだけで、出産育児一時金のメリットがないということではありません)。
クレカのポイントがつかない
直接支払制度を利用する場合、医療機関と健康保険組合でやり取りがされているため、出産育児一時金分(2022年12月現在は原則42万円)が差し引かれて請求されます。出産育児一時金よりも出産費用が少なければ直接的な支払いはありません。
出産費用は高額です。クレジットカードを利用して、42万円の1%ポイント還元だとすれば4,200円分がさらに戻ってくる計算になります。
直接支払制度を利用する場合、クレジットカードのポイントが付く対象は差額(実際の出産費用が一時金を上回った場合のみ)の自己負担分のみとなります。
出産費用が一時金を上回る場合、支払いが必要
実際の出産費用が一時金を上回る場合は、医療機関に不足分の支払いが必要になります。近年は出産費用が上がってきており、特に東京などの都市圏では高額になっています。
直接支払制度があるからと安心していると、出産後に思わぬ支払いが発生する可能性があるので注意してください。事前に出産予定の医療機関で出産費用がどの程度かかるか確認しておくことが重要です。
出産費用が一時金未満の場合、申請が2回に
逆に出産費用が一時金未満の場合は、健康保険組合へ差額の支給申請が必要です。結局、出産後も必要なので、医療機関で直接支払制度を利用する申請とあわせると2回の申請をすることになります。
まとめ
直接支払制度は出産育児一時金を健康保険組合から医療機関へ直接支払うため、出産にまとまった費用を準備しなくてよくなる点でメリットが多い制度です。利用するのに健康保険組合に申請する必要がなく、医療機関への申請だけで済むので、出産前でバタバタしている状況でも簡単に利用できます。
出産後の差額申請など、直接支払制度を理解した上で利用しましょう。
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よくある質問
Q | 直接支払い制度を導入していない医療機関では、どのような支払い方法がありますか? |
A | 直接支払制度を利用していない場合、「受取代理制度」もしくは「事後支払い」が利用できます。受取代理制度は比較的小さな医療機関で利用できる方法です。事後支払いは出産後にご自身で出産育児一時金を健康保険組合に申請します。 詳しくは「出産育児一時金の他の受け取り方」を参照。 |
Q | 双子の出産の場合、手続き方法は変化しますか? |
A | 双子(多胎出産)の場合、人数分の一時金が支給されます。基本的な手続きの流れは変わりませんが、申請には医師や助産師による”多胎”の証明が必要になります。 |
Q | 出産育児一時金は、申請から支給までどのくらい時間がかかりますか? |
A | 事後申請の出産育児一時金、および出産後の差額申請は支給まで2か月前後と言われています。状況によって支給までの期間は変わりますので、支給が遅いようでしたら確認したほうが良いです。 |