マクロ経済統計とは?ファンダメンタルズ分析に不可欠な指標とその見方を紹介

投稿日:2022/08/17 最終更新日:2023/03/08
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テクニカル分析と並んで、証券投資に必須のファンダメンタルズ分析。企業の成績や経済動向についての分析を行い、投資対象の将来を占います。この記事では、ファンダメンタルズ分析のうち「国や経済全体の状態」を表すマクロ経済統計の見方について説明します。今の経済がどうなっているのか、どのように推移していくのかを考えるための基礎知識について学んでいきましょう。
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マクロ経済統計とは?

「マクロ経済統計」とは聞きなれない言葉ですが、簡単にいうと「ある国の経済全体(マクロ経済)の動きを表するさまざまな情報」のことを指します。GDPや物価指数、失業率などはその代表例で、これらのマクロ統計が改善していると、多くの場合景気が上向きであることを表します。

「マクロ統計」とか、単に「経済統計」と呼んだり、総称はさまざまですが、この記事では「マクロ経済統計」と呼んでいきます。

そもそも「マクロ経済」とは?

「マクロ(Macro)」とは、「巨大な、巨視的な」といった意味をもつ言葉で、マクロ経済とは経済全体の動きのことをいいます。例えば、円安・円高などの為替相場や物価の変動、外国との貿易高など、日々のニュースでもマクロ経済に関わるトピックを聞くことがあると思います。

ちなみに、マクロの対義語は「微小な、微視的な」を表す「ミクロ(Micro)」で、ミクロ経済学では「消費者」「生産者」などより小さい視点から経済を分析します。経済学の世界では、多くの場合、マクロ経済学・ミクロ経済学がお互いに補い合う関係にあります。

経済の仕組みと3つの市場

少し難しいかもしれませんが、経済の基本的な仕組みを見ていきましょう。
 

家計・企業・政府から見る経済の仕組みと市場

家計・企業・政府から見る経済の仕組みと市場

まず一国の経済には、「家計」「企業」「政府」という3つの主体が存在します。私たち家計は、企業や政府へ労働力を提供し、その対価として賃金を受け取り、その賃金を元手に企業から商品を買ったり、サービスを受けたりして生活しています。あるいは銀行に預けたり、株や債券に投資して企業へ資金を提供することもあるでしょう。

企業は商品やサービスの提供で得た収益を、賃金や利子・配当として支出します。下の図にはありませんが、政府も加わって、家計や企業から税金を吸い取る代わりに、さまざまな社会保障の提供を行います。

こうして各主体は相互に深い関係にあり、お金や財・サービス、さらには労働力をやりとりしています。それぞれ、財やサービスのやりとりが行われる場を「生産物市場」、お金とお金のやりとりが行われる場を「資本市場」、労働力のやりとりが行われる場を「労働市場」と呼び、このうちお金(資本)と労働力は企業の生産に貢献するものですから、まとめて「生産要素市場」と呼んだりします。

これが経済の基本的な仕組みなわけですが、それぞれの主体の活動や市場の動向を表しているのがマクロ経済統計でもあるのです。

マクロ経済統計で経済を概観できる

ではファンダメンタルズ分析、ひいては株価の分析において、なぜマクロ経済統計が重要になるのでしょうか。

そもそも企業の株価とは、突き詰めれば、主に「企業の業績や将来性」に左右されます。業績の良い企業は、配当や自社株買いなど株主還元を行いやすくなるため、その分投資家にとっての魅力度が増すのです。この「企業の業績」の好不調の原因には、企業独自のビジネスモデルや収益性など内部要因に加え、景気動向や市況、国の政策といった外部要因もあります。

内部要因に関しては決算資料から読み取れますが、直近の景気動向など後者の外部要因に関してはさまざまなマクロ統計や最新のニュースに注目している必要があるでしょう。

このように、マクロ経済統計によって企業を取り巻く経済・社会環境を概観し、どのような影響を与えるかを読み取ることができるのです。

注目すべき指標を紹介

マクロ経済統計を見る際、どのような指標に注目すれば良いのでしょうか。まずは「一般的に重要とされる指標」として、GDPや長期・短期金利、物価水準などがあります。

さらに「経営者が重視する指標」なら、市場環境を表す指数(原油価格や海運指数)や景気判断、のちに紹介する先行指数などが挙げられます。

また「金融当局が重視する指標」にも注目しておきましょう。例えば、失業率に改善が見られ、物価水準が上昇している局面では、「今後金融引き締め(利上げや資産の売却)に動くのでは」といった金融政策の予測を立てられます。その上で、それを見越した対応も可能でしょう。

もう1つ重要なものとしては、「景気を先行して反映する指標」があります。経済指標は、景気に先行・一致・遅行する3つのタイプの指数に分けられるのですが、そのうち先行するものを景気先行指数と呼びます。日本の場合は、内閣府作成のものが主に使われ、米国なら米国の、先進国ならOECDの景気先行指数が用いられたりします。ちなみに東証株価指数(TOPIX)も先行指数の1つです。

他にも注目しておきたい指数はありますが、この記事ではそのうちいくつかに絞って紹介していきます。

基本的な統計:GDPとは

まず最も基本的なマクロ経済統計として「GDP」があります。

GDPとは、Gross Domestic Product、国内総生産の略称です。簡単に説明すると「ある国の1年間のもうけの合計」のことで、企業でいうと「利益」のようなものです。国の経済状態の良し悪しを表すため、極めて重要な指標として扱われます。

ちなみに2021年の日本のGDP(※名目)は541.9兆円(5.4兆ドル)、米国の2284.8兆円(22.7兆ドル)、中国の1670.1兆円(16.6兆ドル)についで世界3位です。

GDPの定義

GDPの正確な定義は「一定期間内に国内で新たに生み出された財・サービスの付加価値の合計」となります。ポイントは「一定期間内」「国内」「付加価値」の3つです。

まず「一定期間内」ですから、年ごともしくは四半期ごとに集計が行われます。このような一定期間内のお金の流れを表す指標をフロー指標と呼び、例えば損益計算書も同様です。対して、ある時点で累積した量を表す指標のことをストック指標といい、貸借対照表がそれにあたります。例えるなら、ある時間内にお風呂に入ったり流れ出たりする水の量がフロー、バスタブに溜まったお湯の量がストックになります。

次に「国内」について、日本なら日本国内の経済活動がGDPの対象となります。外国で活躍する日本人の経済活動は集計の対象外ですが、日本国内での外国人の経済活動はGDPにも入ります。アメリカの大谷選手の年俸は日本のGDPの対象外ですが、神戸のイニエスタ選手の年俸は対象となるわけです。

国民ごとで見る指標としては「GNP(Gross National Product:国民総生産)」がありますが、現代ではGDPが代表的な指標として扱われます。

最後に「付加価値」です。付加価値とは「生産活動によって新たに作られた価値」のことで、簡単にいうと売上から仕入れにかかった費用を引いたものです。簡単にパンしか作らない国を考えれば、パンの生産額(≒売上)から小麦粉の仕入れを引いたものがパン屋の付加価値ですし、小麦粉屋の付加価値は「小麦粉の生産額ー小麦の仕入れ額」で、小麦が輸入品としたら「パン屋の付加価値+小麦粉屋の付加価値」がその国のGDPだとわかります。

実質と名目

GDPには「実質GDP」と「名目GDP」があります。名目GDPとはいわゆるGDPそのものですが、実質GDPとは名目GDPから物価変動の影響を取り除いたものを指します。

例えば、ある年にりんごを1個10円で100個作っていた(売っていた)国で、翌年は物価が上昇し1個20円で110個作ったとします。名目GDPで見たら、1年目1000円だったのが2年目2200円へ大きく伸びたように見えますが、物価上昇の影響を排除すれば、2年目は10円×110個=1100円とわずかしか伸びていないことがわかります。

もちろん現実はもっと複雑ですが、「名目値」とそれから物価の影響を排除した「実質値」の違いはおわかりいただけたでしょうか。
 

名目GDPと実質GDPそれぞれの意味と違い

名目GDPと実質GDPそれぞれの意味と違い

GDPはなぜ重要?

ではGDPはなぜ重要なのでしょうか?今まで説明したように、GDPとは一国の儲け、すなわち経済力だとわかります。「国の所得」であるわけですから、非常に重要な指標だと言えるのです。

また、世界のGDPを見ると長期的におよそ年率2%ほどで成長していることがわかります。GDPが成長しているということは、企業セクターも同時に成長しているともいえますから、「年率2%」という目標が株式投資をする際のベンチマークにもなるわけです。

一般的にも、株式投資という観点でも、GDPは重要であるということがわかったと思います。

消費に関する統計

ここからは他のマクロ統計についても紹介していきます。まずは「消費」に関する統計です。

そもそも「消費」とは経済の3主体のうちの家計の経済活動で、家計消費はGDPのうち50%以上を占める最大のセクターです。また、企業は消費者が欲しがる商品を作ろうと努力しますし、いわば経済活動のゴールともいえるのが「消費」です。「消費」が増えれば企業ももうかり、経済全体が活発になっていくのです。

「消費」が経済にとって重要な理由がお分かりになったでしょうか。

消費動向調査

消費動向調査とは、消費者の意識などについて内閣府が実施している調査で、「消費者態度指数」や「1年後の物価見通し」などの形で公表されます。消費者態度指数とは、「雇用環境」や「収入の増え方」「暮らしむき」など消費者の今後半年間の景気への意識を示すもので、50を超えると良好とされます。

新車販売台数

新車販売台数も景気のバロメーターになりうるものです。モノの販売動向を測る指標としては最も速報性のあるものの1つで、特に新車の販売動向というのは消費者の購買意欲(すなわち景気の見通し)や国の政策によって左右されやすいため、株式市場へもしばしば影響を及ぼします。

ただし、統計の取り方の関係から季節での変動も大きく、注意が必要です。

住宅価格指数

住宅価格指数など不動産価格に関わる指標は、投機資産としての不動産を原因として度々金融危機が引き起こされたことを背景に、国際的な取り決めとして設計されるようになったという経緯があります。

不動産の価格、とりわけ住宅の価格が上がるということは、景気が上向くことを予想し価格が上がる前に住宅を買おうと考えた消費者が多くいるということを意味するのです。日本では、日本不動産研究所の不動研住宅価格指数(旧・東証住宅価格指数)や国交省の不動産価格指数など、米国ではS&Pケース・シラー住宅価格指数などがあります。

また、「新築住宅販売件数」や「中古住宅販売件数」は景気の先行指標として有用です。まず新築住宅の販売件数について、新築の場合は着工の前に売買が成立することがほとんどですから、新築住宅販売件数が上昇すれば、それに遅れて住宅建材の需要や雇用の回復が起きるというわけです。

中古住宅の販売件数は、米国経済の先行指標として使われることが多いでしょう。中古住宅購入に合わせてリフォームがされたり家具・家電が買われるなどして、遅れて耐久財の需要が増えていくのです。

住宅の購入の多くはローンで組まれるため、住宅の販売件数が増加傾向のとき、それだけ将来に安定した収入を見込んでいる人が多いということになります。そういった意味でも、住宅関連の指数は、景気の見通しを立てるのに有用な指標だといえるのです。

企業活動に関する統計

「企業活動」に関する統計は、家計と同じく企業も経済の3主体の1つで、企業セクター全体の経済活動の動向というのは各企業の業績に直結します。また、これらの統計は企業経営者が把握・注目している場合が多いという点でも、重要な指標だとわかります。
 

鉄工業指数の種類と各指数の意味

鉄工業指数の種類と各指数の意味

鉱工業指数

鉱工業指数とは、鉱業・製造業のさまざまな活動を総合的に見ることのできる指数で、日本の場合は生産の他に出荷・在庫・設備の稼働状況や生産予測など複数の指数からなります。速報性の高さから、生産活動・景気動向を見る指標として重視されることが多くあります。

特に、生産指数は景気に対する反応が大きく、市場でも注目されることの多い指数です。

企業の景気判断の指標となる「日銀短観」

企業経営者の景気判断に関わる指数として、「日銀短観」があります。日銀短観とは、日銀が企業の景況感や景気見通し、経営状況などをアンケートで調査したもので、正式名称を全国企業短期経済観測調査といいます。

特に「景気が良いと感じている企業の割合」から「景気が悪いと感じている企業の割合」を引いた「業況判断DI」が重要で、日銀短観の場合は0を上回るか下回るかとその推移により景気動向を読み取ることができます。

米国なら「ISM製造業・非製造業景気指数」が同様の指数となります。「ISM(Institute for Supply Manegement:全米供給管理協会)」が作成・公表するもので、こちらは50%が景気の分岐点として判断されます。

企業物価指数

「企業物価指数(CGPI : Corporate Goods Price Index)」とは、企業間で売買される財の価格変動を示す指標です。原材料の仕入れなどに要するコストの変動を表すため、CGPIの上昇は遅れて消費者向けの物価の上昇を伴うこともあり、金融政策の判断材料にもなります。

また、2022年の前半のようにCGPIが上がっているのに消費者物価が上がっていない場合、企業はコストの上昇分を販売価格に転嫁できないないということを意味します。そのような状況では企業の得られる利益は小さくなり、業績は悪化していきます。

ちなみに、CGPIの対象は「財」だけで、「サービス」の価格変動を表す指標として企業向けサービス価格指数(CSPI : Corporate Services Price Index)があり、こちらも同じく金融政策の判断材料になる重要な指標です。

米国ではCGPIと同様の指標として、生産者物価指数(PPI : Producer Price Index)がありますが、PPIの場合は生産者の出荷時点での価格を対象としています。
 

企業物価指数と消費者物価指数の違い

企業物価指数と消費者物価指数の違い

労働・雇用に関する統計

労働力とは、お金(資本)と同じく、企業の生産活動に欠かせない要素ですし、また労働者とはすなわち家計のことを指すため、賃金の状況は消費動向にも影響を及ぼします。また、雇用状況は景気動向を把握するにあたって金融当局も重視しており、その意味でも重要な指標であるといえます。

失業率

労働力統計のうち代表的な指標の1つとして「失業率」があります。失業率(完全失業率)とは、労働力人口に占める完全失業者の割合のことを指します。

 失業率(完全失業率)=完全失業者/労働力人口

完全失業者とは、以下のように3つの条件を満たす者のことで、働く意欲のないニート(NEET)などは含まれません(非労働力人口として数えられます)。

 調査期間中に仕事についていない
 仕事があればすぐにつくことができる(=働く意志と能力がある)
 調査期間中、仕事を探していた・事業を始める準備をしていた

ちなみに、働く意欲のある人の割合としては「労働参加率(=労働力人口/生産年齢人口)」で確認することが可能です。完全失業率の変動要因としては、景気の悪化・上昇や人材ニーズの変化などが挙げられます。

景気が悪化すれば、企業の収益が小さくなることで、財務体質の改善・コスト削減などの目的でリストラを行うでしょうし、コロナ禍で物販店の店頭販売のニーズが減ったとすれば、店頭販売員の新たな雇用は減り、代わりに配達員などの雇用が増えることなどが考えられます。

また失業率は、金融政策の判断材料として景気動向を把握するために用いられることもあります。特に米国のFRBは、その目標として「物価の安定」に並んで「雇用の最大化」を掲げており、失業率をはじめとする雇用統計は物価指数と同じくらい重要に扱われます。

2022年3月現在の日本の失業率は2.6-2.8%ほどで、過去最悪だったのはリーマンショック後2009年7月の5.5%です(バブル崩壊後の2002年、2003年にも記録)。

米国の場合は法制・慣行面での理由から失業率が上がりやすく、コロナショック後の2020年5月には19%まで達しましたが、現在はコロナ禍以前の3%台まで落ち着いています。

有効求人倍率

有効求人倍率とは、「求職者1人あたり何件の求人があるか」を表します。ここでいう「求職」「求人」とは、いずれもハローワークに集まったもののみを指します。

 有効求人倍率=有効求人数/有効求職者数

「有効」とつくのは、「ハローワークの有効期間内の求人数・求職者数」を用いている、ということを表しているためです。ハローワークでは、求人・求職の有効期間が2ヶ月(翌々月の月末)までと定められているため、有効求人数・有効求職者数のいずれも「当月の新規求人数・求職申込者数」と「前月から繰り越された求人数・求職申込者数」の合計となります。

有効求人倍率を見るときは「ハローワークのみが対象」である点に注意が必要です。民間の就職・転職サイト内での求人・求職は含まれませんし、新卒者も対象になりません。有効求人倍率は1を上回ると「人手が不足している」、下回ると「求人が少ない」という状態を表します。

日本の過去最高はオイルショック前1973年の1.76倍、過去最低はリーマンショック後2009年の0.45倍で、2010年以降は右肩上がりで推移し2018年には1.60倍まで達しましたが、その後コロナショックの影響もあり現在は1.2倍台で推移しています。

金融に関する統計

金融市場の指標、すなわち金利も注目に値します。そもそも、金融市場とは企業が家計や金融機関から資金調達を行う場で、資金調達がうまくいくかどうかは生産活動に直結します。

また「お金の値段」ともいわれる「金利」の上昇・下落は、企業の資金調達動向や家計のローン意欲へも影響を及ぼすため、景気の変動要因にもなります。さらに、金利は金融当局の操作目標でもあり、金利の理解は金融政策の理解へもつながるでしょう。

政策金利(短期金利)

政策金利とは、各国の中央銀行が金融政策において使用する金利のことを指します。日銀やFRBなど、それぞれの国の中央銀行は「物価の安定」を主な目的におき、国民経済の健全な成長へ貢献するという役割を担っています。そのための手段がいくつかあり、その1つに「政策金利の操作」があります。

日銀の市場操作が景気に与える影響

日銀の市場操作が景気に与える影響

政策金利の上下は市中金利(銀行の預金金利や貸出金利)へ影響を及ぼすため、例えば景気がとても悪い時には、中央銀行は政策金利を引き下げて銀行の貸出金利の低下を促します。そうすれば企業や個人がお金を借りやすくなり、消費や設備投資が増えて物価は上昇しやすくなり、景気が上向くわけです。

反対に、景気が良い時には政策金利を引き上げて景気の過熱を抑制します(下の図を参照)。このように、景気や物価の刺激・抑制を行う手段の1つとして、中央銀行が政策金利を操作しているのです。

日本の政策金利は、現在は「日銀当座預金の超過準備に対する金利」とされています。「日銀当座預金」というのは民間の金融機関が日銀へ預け入れる預金のことで、各銀行・金融機関は個人や企業から預かっている預金のうち一定率(法定準備率)を日銀当座預金へ預けなければならないことになっています。

その「超過準備」とは民間銀行が法定準備率を超えて日銀へ預けている預金で、現在の政策金利である「日銀当座預金の超過準備に対する金利」とは、この部分へかかる金利のことを指しています。

2016年以降、日銀はこの金利を-0.1%としています。銀行としては、日銀へ余分に預けるとマイナス金利が適用され、利息を吸い取られてしまうわけですから、日銀へ預け入れるよりかは低い金利でも企業へ投資・融資した方が良いということになります。このように、政策金利をマイナスにして経済の活性化・デフレ脱却を狙う政策のことを「マイナス金利政策」と呼びます。

一方、代表的な短期金利として「無担保コールレート翌日物(TONA:Tokyo OverNight Average Rate)」があります。これは、金融機関どうしが短期間でお金を貸し借りする「コール市場」で、担保なし・返済期限を翌営業日(今日借りて明日返す)とした貸し借りの金利のことを指します。

このレートをもとに預金金利・貸出金利が決まるため、市場での注目度も高く、2013年までは金融政策の誘導目標になっていました。2016年のマイナス金利政策導入以降、無担保コールレート翌日物もマイナス圏で推移しています。

ちなみに、米国の政策金利であるFFレート(Federal Fand Rate)は、日本の無担保コールレート翌日物にあたります。

10年物国債利回り(長期金利)

「短期金利」というと、前述した「無担保コールレート翌日物」が代表的ですが、「長期金利」というと「新発の10年物国債利回り」を指すことが多いでしょう。

そもそも金融市場でいう「短期」「長期」は、1年未満か1年以上かで分けられます。そのため、広い意味でいえば「短期金利はこれ、長期金利はこれ」と指定することはできないのですが、金融機関がローンや融資の金利を設定する際に参考にしているなどの理由でそれぞれ代表的なものが決まっています。

「10年物国債」というのは、政府が資金調達のため発行する国債のうち10年後に満期が来るもののことで、一般的に「10年物国債利回り」とは市場で売買される新発10年物国債の利回り(=投資に対するリターンの割合)のことを指します。住宅ローン金利をはじめ、長期間の貸し借りをする際の金利は10年物国債をもとに決められるため、「長期金利の代表」として扱われることが多いのです。

景気循環と金利の関係

景気循環と金利の関係

一般的に長期金利は、景気がよくなれば上昇し、悪くなれば低下する傾向にあり、多くの場合短期金利を先取りして動きます。一方、金利上昇は企業の資金調達コストの上昇と収益悪化をもたらす上に、長期金利が上がれば債券価格は下がり、株式と比べ債券の魅力度が上がるため、株価は下がっていく、という関係があります。

ただし、これらはあくまで教科書的な理論で、状況によって株価と長期金利との相関関係は変わります。例えば、2020年4月ごろのコロナショックでは、株価の急落と金融緩和による金利低下が同時に起こり、その後の回復局面ではどちらも上昇していきました。

物価に関する統計

続いては、物価に関する指標を見ていきましょう。

物価の上昇・下落は消費者の生活に直結しますし、企業の売上・仕入れコストへも影響を及ぼします。また、自国はもちろん他国の政治・経済・社会情勢により物価が変動することもありますし、反対に物価の問題が政治・社会を動かすということも、特に途上国や新興国では少なくありません。

さらに先述した通り、金融政策の目的は「物価の安定」で、物価指数は金融当局も注視していますから、投資家としてもその基本知識についてはしっかり学んでおきましょう。

消費者物価指数(CPI)

「消費者物価指数(CPI : Consumer Price Index)」は、我々にもっとも身近な物価指標だといえるでしょう。CPIとは、消費者が購入する財やサービスの小売価格の変動について調査した指標です。日々のニュースで一般的に「物価」というと、このCPIのことを指すことが多いでしょう。

ただし、消費者物価指数といっても以下のように3種類あることに注意が必要です。

 総合指数
 コア指数
 コアコア指数

消費者物価指数では、「バスケット(=買い物かごの意味)」といって小売価格を調べる対象となる商品が選別されています。そのうち、対象品目すべての価格変動を表すのが「総合指数」です。

ただし、そのなかには季節変動の大きい生鮮食品やエネルギー関連製品も含まれています。そこで、全ての対象品目から生鮮食品を除いた「コア指数」と生鮮食品・エネルギー関連製品を除いた「コアコア指数」も算出しているのです。

3種類の消費者物価指数それぞれの意味

3種類の消費者物価指数それぞれの意味

国際収支に関する統計

国際収支の内訳と各用語の意味

国際収支とは、国と国の取引全般とそれによるお金の流れを表したものです。各企業がグローバルに展開し、国境を横断する取引が増えているなかで、国際収支はある国全体と国際経済との関わりを見る重要な統計といえるでしょう。

加えて、国際収支は国家間の政治情勢や為替レートに影響を受けたり、もしくは及ぼすこともあります。注意して動向を見ておくようにしましょう。

国際収支統計

国際収支統計とは、国際収支についてまとめた統計のことを指します。現在の国際収支統計は2014年に大幅な見直しが行われ、それまでとは項目の分け方などが変わりました。

この記事では、最新のものについてお伝えします。まず国際収支統計は、主に以下の3つの項目からなります。

 ・経常収支
 ・資本移転等収支
 ・金融収支

このうち資本移転等収支は、政府から外国への対価を伴わない固定資産の提供(港湾・橋などインフラ整備の援助)や債務免除を指します。そのため、他の2つの項目と比べると非常に小さくなります。

ここでは細かい項目までの説明は省きますが、以下を指します。

 ・経常収支:貿易などモノ・サービスの取引による収支、投資状況

 ・金融収支:対外資産(日本が外国にもつ資産)・対外負債(外国が日本にもつ資産)の差額

また、経常収支内の第一次所得収支(対外投資)についても注目しておきましょう。これはある国が他国へ投資した「生産要素」に対する報酬を表します。具体的には、外国で働く労働者への給与や、投資による利子・配当収支を指します。

理論的には、経常収支が黒字になれば為替レートは自国通貨高(円高)方向へ動きます。ただし、現実ではそうならないことの方が多いようです。

ちなみに、日本は伝統的に経常黒字国で、東日本大震災や原油高の影響を受けた2011年から2014年などを除くと、貿易収支も黒字であることがほとんどです。ただしその貿易黒字幅は次第に縮小しており、代わりにかつて行われた対外投資による配当収益が積み重なって、第一次所得収支が拡大しています。

バルチック海運指数

バルチック海運指数とは、ロンドンの「バルチック海運取引所(Baltic Exchange)」が公表している、外航不定期船の運賃の総合指数です。簡単にいうと「船賃の指数」のことで、海運市況を概観することができます。

あまり知名度は高くないかもしれませんが、「バルチック海運指数は世界経済を2ヶ月先行する」といわれることもあり、重要な先行指数の1つとなっています。

海運市況は、一般的に海運への需要があれば盛り上がります。例えば、コロナショック以降の世界経済の回復局面など、世界全体が「生産を回復させたい」「原材料が欲しい」といった状況であれば、それらを運ぶ海運業への需要が大きくなり、船賃は上昇します。

実際に、コロナ回復期の2020年の5月から2021年の10月頃まで、バルチック海運指数は上昇トレンドを示していました。ただし、2021年後半から現在にかけては、この船賃の上昇が企業の仕入れコストの上昇に拍車をかけ、世界的なインフレの遠因になったともいわれています。あくまで、「海運指数の上下動」「株価指数・世界経済の上下動」とは関連度が高いだけであり、必ずしもそれらが一致するとは限らず、その時々によって判断するよう注意しましょう。

もちろん、バルチック海運指数は海運銘柄への投資判断にも活用できます。海運銘柄へ投資している方は日々チェックすると良いかもしれません。

マクロ経済統計の注意点・ポイント

ここまで、さまざまな経済統計・指標・指数を紹介してきました。続いては、こういった数字を見る際に注意すべきこと・ポイントについて説明していきます。

速報性に欠けるものがある

まず注意すべきは速報性です。GDPなどは集計が四半期ごとであるうえ、発表も四半期終了から1ヶ月程度かかるため、速報性は高くはありません。速報性が低い統計・指標については、市場はすでに織り込み済みのこともあり、その場合はサプライズがない限り市場が大きく動くことは考えにくいでしょう。

株価指数がどの程度、実体経済の動向を織り込んでいるのか、逆にどの程度乖離しているのかについても考えるようにしておきましょう。

統計を鵜呑みにできない

もちろんですが、ある1つの統計や指数の動向をそのまま鵜呑みにして投資判断しないよう、注意しましょう。それぞれの数字を一面的に捉えるのではなく、他の数字と組み合わせるなどして、総合的にかつ分析的に判断するのが良いでしょう。

加えて、必ずしもマクロ・ファンダメンタルズの動向が全ての企業に同じ影響を及ぼすわけではありません。企業によっては、独自の対策を講じているかもしれませんし、そもそも企業ごとに行なっている事業や事業領域は異なります。個別企業のファンダメンタルズもきちんとチェックし、マクロ統計と総合的に分析するようにしましょう。

他にも統計はたくさんある

この記事で紹介したのは、あくまでマクロ統計・重要指数のほんの一部です。もちろん他にも、投資家・アナリストたちが独自に注視している統計・データもあります。

また言い換えれば、個人投資家がそのような統計を端から端まで全て読むことは非常に難しいともいえるでしょう。

他にどのようなデータがあるのか自分で調べて、「この動向には注目しておこう」という統計・指数の目当てをいくつかつけておくと良いかもしれません。

いつ発表か把握しておこう

それぞれの統計・指数の発表日時について把握しておくようにしましょう。例えば最近では、米国FRBが利上げペース加速を発表したときや、CPIが市場予想を上回っていたときに、株価が大きく下げました。

しばしば、市場が織り込んでいないサプライズが発生する場合があるので、統計や指数の発表日時には注意しておきましょう。

まとめ

この記事では、ファンダメンタルズ分析の一環である、マクロ経済統計の分析(経済全体の分析)について説明し、いくつか統計や指数も紹介しました。中には見慣れないものもあったかもしれません。

この全てを覚えたり、毎日チェックしなければいけないというわけではありません。きっと、今後の株価や経済動向を予測したり、足下の経済について正しい見方をする手助けの1つにはなると思います。この記事で紹介したマクロ統計の分析も、今後の投資に役立ててみましょう。



監修者:菅原 良介
編集者:K-ZONE money編集部

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