ファンダメンタルズ分析の基礎①:財務諸表の読み方と分析方法
ファンダメンタルズとは?
ファンダメンタルズとは、企業や国などの経済状態を表す基礎的な要因を意味します。英語の「fundamentals」を由来とし、日本語では「経済の基礎的諸条件」と訳されます。
ファンダメンタルズは、国や企業の財務状況を把握したり、株価や為替の値動きを予測したりする際に使うデータです。企業の業績や財務状況から、現在の株価が適切であるかを判断する分析手法を「ファンダメンタルズ分析」と呼びます。株価が企業の価値と一致しているとは限りません。実際の企業の価値より過小評価されたり、過大評価されたりすることも十分ありえます。そのため、ファンダメンタルズ分析を用いて、過小評価されている株を買ったり、過大評価されている株を売ったりするのです
【関連記事】ファンダメンタルズ分析とは?分析方法の基本をわかりやすく解説! |
国のファンダメンタルズとは?
国のファンダメンタルズとは、金融・消費・労働など国家の経済活動に影響する指標です。その国の経済状況を把握することに役立ちます。
具体的には、以下のような指標が挙げられます。
・経済成長率(GDP) ・物価上昇率 ・国際収支 ・失業率 |
企業のファンダメンタルズとは?
企業のファンダメンタルズとは、株価に影響する企業の業績や財務状況などの指標です。企業の本質的な価値を判断するために用いられます。
具体的には、以下のような指標が挙げられます。
・株価収益率(PER) ・自己資本利益率(ROE) ・株価純資産倍率(PBR) ・株価キャッシュフロー倍率(PCFR) ・総資産利益率(ROA) |
財務諸表で企業のファンダメンタルズが分かる
企業のファンダメンタルズを判断するときによく用いられる資料が「財務諸表」です。言い換えると、財務諸表を読み解けば、企業のファンダメンタルズを理解することにつながります。
財務諸表とは
財務諸表とは、企業の1年間の財政状況や経営成績をまとめた書類です。一般的には「決算書」とも呼ばれます。決算書は、金融商品取引法では「財務諸表」、会社法では「計算書類」と、定められた法令ごとに呼び方が異なります。
上場企業は金融商品取引法にもとづいて有価証券報告書を開示しなくてはなりません。財務諸表はその有価証券報告書に含まれる書類の一つです。
財務諸表は何のためにある?
財務諸表は、企業の関係者に財政状況や経営成績を報告するために作られます。企業の関係者とは、経営者はもちろん、従業員、投資家、取引先、税務当局などさまざまです。企業関係者の立場によって、それぞれ違った視点から財務諸表を見ています。
経営者:財務状況の分析や最適な経営戦略を立てることに利用
従業員:これからもこの会社で働いてもよさそうか、減給や倒産のリスクはないか
投資家:投資してもよいか、投資を続けても問題ないかを判断
債権者:融資した資金や売上債権を回収できるかを判断
取引先(顧客・業者):取引しても問題ない企業かを判断
税務当局:利益が正しいか、法人税の申告・納付額に間違いがないかを確認
財務諸表の中身
財務諸表は、以下のようなさまざまな書類で構成されています。
・貸借対照表 ・損益計算書 ・キャッシュフロー計算書 ・利益金処分計算書 ・附属明細表 ・株主資本等変動計算書 |
これら書類で特に「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」の3つをまとめて「財務三表」と呼びます。
財務三表はそれぞれで作成目的や読み解ける内容が異なります。企業の経営状況を数値で客観的に把握する材料となる資料が、この財務三表です。
貸借対照表(B/S)
貸借対照表には、企業の財政状態を客観的に把握するという目的があります。
次の章では、貸借対照表について詳しく解説します。
貸借対照表とは
貸借対照表とは、決算日時点の企業の財政状態を表す書類です。どのように資金を調達し、その資金をどのように運用しているかが読み取れます。
貸借対照表は、以下の3つの要素から成り立ちます。
・資産 ・負債 ・純資産 |
財務諸表において、「ストック」と「フロー」という言葉を目にすることがあるでしょう。
ストックは、英語の「stock」が由来で、日本語で「在庫、物を蓄える」という意味です。会計用語における「ストック」は、「ある時点での蓄えられている量」を表します。
つまり、貸借対照表は、会社の資産・負債とその差額である純資産のストックを表した書類ともいえます。
フローは英語の「flow」が由来で、「流れる・流動する」という意味です。会計用語における「フロー」は、「一定期間に流れた量」を表します。
損益計算書は、収益・費用とその差額の利益であるフローを表しています。
左側(借方)と右側(貸方)
貸借対照表は図のように、左側に借方(資産)、右側に貸方(負債と純資産)を記載するというルールがあります。
左:資金の運用先右:資金の調達元
負債:返す必要のあるお金
純資産:企業のお金、返す必要のないお金
資産:「現金」または「現金化できるもの(土地や建物、機会設備、商品など)」「将来利益を生み出す可能性のあるもの(売掛金、受取手形など)」など、企業が所有する財産。
負債:「銀行から融資された借入金」「未払いの仕入れ代金」「社債」など、他者から借りて返済の義務があるもの。
純資産:資本金や資本剰余金など、総資産から負債を除いたもの。返済の義務がなく、「自己資本」とも呼ばれる。
貸借対照表の左側の合計値(総資産)と右側の合計値(負債+純資産)は、最終的に必ず一致します。つまり、「資産=負債+純資産」の方程式が成り立ちます。このことから、英語では「Balance sheet(バランスシート)」と呼び、略して「B/S」と表記されることもあります。
損益計算書(P/L)
損益計算書は、1年間で「出ていったお金」と「入ってきたお金」を表す書類です。英語では「Profit and Loss Statement」と呼ぶことから、「P/L」と表記することもあります。
この章では、損益計算書とは何か、そして、損益計算書の基本的な見方について解説します。
損益計算書とは
損益計算書は、企業の1年間の収益性・成長性などの営業成績を示す書類です。企業が「費用を何に使い」「どれほど売上が上がり」「どれほど儲かったのか」が把握できます。
以下の3つの構成要素から成り立ちます。
・収益:どれだけ売上が上がったか ・費用:収益のうち、どれだけ費用を使ったか ・純利益:収益から費用を差し引いた額 |
トップラインとボトムライン
損益計算書の一番上の項目は、売上高(営業収益)を表し、「トップライン」とも呼ばれます。対して、一番下の項目は、最終利益(当期純利益)を表す「ボトムライン」と呼ばれます。
損益計算書では、売上高(トップライン)からさまざまな費用を差し引いた当期純利益(ボトムライン)が、どの程度残っているかを見て、企業の財務状態を把握します。
損益計算書の利益は、以下の5つの区分に分けられます。
・売上総利益:売上高から売上原価を引いたもの。「粗利」とも呼ばれる。
売上総利益=売上高-売上原価
売上高:サービスの提供や商品の販売で得られる収益
売上原価:商品の仕入れや製造にかかる費用
・営業利益:本業の営業によって得られた利益。
営業利益=売上総利益-販売費(広告費)および一般管理費(給料、交際費、オフィスの賃料など)
・経常利益:株の売却益や本業以外で得られた収益。経常利益で営業利益の占める割合が少ないことは、本業の儲けが少ないことを意味します。
経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用
営業外収益:受取利息や有価証券の配当金、雑収入など財務活動による収益
営業外費用:利息や社債発行にかかる費用、株式の売却損など、本業の営業活動以外で継続的にかかる費用
・税引前当期純利益:税金を支払う前の利益を指します。
税引前当期利益=経常利益+特別利益-特別損失
特別利益:本業とは無関係のところで一時的に発生した利益。例)不動産や長期保有株式の売却益、債務免除益など
特別損失:本業とは無関係のところで臨時的に発生した損失。例)不動産や長期保有株式の売却損、火災、自然災害、盗難などによる損失など
・当期利益(純利益):決算期の最終利益。当期利益がマイナスなら「赤字」を意味する。
当期利益=税引前当期利益-法人税等
法人税等:法人税、法人住民税、法人事業税の総称。
キャッシュフロー計算書(C/F)
キャッシュフロー計算書は、会社のお金の流れを把握するために重要な役割があります。この章では、キャッシュフロー計算書とは何か、なぜキャッシュフロー計算書が重要であるかについて詳しく解説します。
キャッシュフロー計算書とは
キャッシュフロー計算書とは、「キャッシュ(お金)」の「フロー(流れ)」という名前の通り、会社のお金の流れを表す書類です。英語で「Cash flow statement」と書くことから、「C/F」とも呼ばれます。
以下の3種類の活動によりキャッシュの出入りを把握します。
①営業活動によるキャッシュフロー ②投資活動によるキャッシュフロー ③財務活動によるキャッシュフロー |
①営業活動によるキャッシュフロー
営業活動によるキャッシュフローとは、会社が事業でどの程度お金を稼いだかを示す項目です。プラスであればあるほど、資金が豊富で経営状態がおよそ良好であるといえます。マイナスであれば、資金の流出が多く、経営状態が不安定な状態であることが分かります。
②投資活動によるキャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフローとは、会社が投資した資金の流れを示す項目です。固定資産や有価証券の売却、貸付金回収などで現金を得るとプラスになり、固定資産や有価証券の取得や設備投資にお金を使うとマイナスになります。
成長期の企業は設備投資にお金を使うため、投資キャッシュフローがマイナスに転じることがよくあります。
③財務活動によるキャッシュフロー
財務活動によるキャッシュフローとは、資金調達や返済の流れを示す項目です。借入金や社債・株式発行などで資金を調達すればプラスになり、借入金返済や社債返還、自社株式の取得、配当金の支払いなどでお金を使えばマイナスになります。
キャッシュフローの重要性
キャッシュフロー計算書の分析は、企業の経営状況がどのようであるかを把握するために重要です。損益計算書ではプラスでも、キャッシュフロー計算書でマイナスであれば、黒字倒産する可能性もあります。売上があっても、入金されるまでの間は手元に現金がなく支払いができないためです。
キャッシュフロー計算書を把握し、将来の資金計画を立てることで、こうした事態を防ぐことに役立ちます。
財務諸表の分析
前章までは財務諸表の内容について解説しました。この章では財務諸表で分かることと財務諸表の分析方法について解説します。
財務諸表で読み取れること
財務諸表は、企業の経営成績や財務状態などが読み取れます。財務諸表を分析する方法は、主にどの性質を調べるかによって以下の4つに分けられます。
・収益性 ・安全性 ・生産性 ・成長性 |
それぞれについて次の章で詳しく解説します。
収益性分析
収益性分析は、企業がどの程度稼ぐ力があるかをはかるための分析です。収益性が高いほど稼ぐ力が強いということです。以下のような指標が用いられます。
・売上高営業利益率 ・売上高総利益率 ・総資本回転率 ・自己資本利益率 |
たとえば、売上高営業利益率は、売上に対して効率良く利益を残せているかが分かる指標です。売上高営業利益率が高ければ、会社の商品やサービスなどの営業能力が高いことを表します。
売上高営業利益率(%)=経常利益÷売上高×100
安全性分析
安全性分析は、企業の財務状態が健全であるかを見るための分析です。安全性が高いほど、支払い能力が高く、倒産リスクが低いことがいえます。安全性は貸借対照表の数値の比率を活用して分析します。安全性分析に使われる指標は以下のとおりです。
・流動比率 ・当座比率 ・自己資産比率 |
これらの指標で最も基本となる指標が自己資本比率です。自己資本比率を見れば、会社の借金が多すぎないかどうかを判断できます。自己資本比率が高いことは多くの資金を自己資本(返済の必要のない資本)から調達できていることを表します。つまり、経営状態が安定しているということです。
自己資本比率は以下の計算式から求められます。
自己資本比率(%)=(自己資本-新株予約権)÷総資本×100
効率性分析
効率性分析は、資産を効率的に活用できているか見るための分析です。効率性が高いほど、少ない投下資本で大きな利益を生んでいるといえます。
効率性分析に使われる指標は以下のとおりです。
・総資産回転率 ・売上債権回転率 ・棚卸資産回転率 ・仕入債務回転率 |
効率性分析の総合的な指標として、総資本回転率が活用されます。総資本回転率は、売上高÷総資本で求められ、単位は「回」です。売上高に対して「投資 → 販売 → 回収」というサイクルを何回転できたか示し、資産全体の活用度を図ることができます。小売業・卸売業・賃貸業などは除きますが、総資本回転率は1.0回あたりが目安であり、下回る場合は改善が必要な状況であると読み取れます。
生産性分析
生産性分析は、企業が投じた経営資源に対して付加価値を効率良く産み出せているかを判断するための分析です。付加価値とは、売上から材料費や人件費、外注費などの外部購入費用を差し引いたものです。
生産性分析には次の3つの指標が用いられます。
・付加価値比率 ・労働生産性 ・労働分配率 |
たとえば、労働生産性は、従業員一人あたりがどの程度会社に貢献しているかを表す指標です。労働生産性が高いということは、従業員が効率良く利益を産み出しているといえます。
労働生産性は以下の計算式で算出できます。
労働生産性=付加価値額÷従業員数×100
付加価値額=売上-費用総額+給与総額+租税公課
成長性分析
成長性分析とは、この1年間で企業がどの程度成長したかを判断し、この先1年でどの程度成長するかを予測するための分析です。企業の成長性は、以下の6つの指標を用いて分析します。
・売上高増加率 ・経常利益増加率 ・従業員増加率 ・営業利益増加率 ・総資本増加率 ・純資本増加率 |
成長性分析最も基本となるものが、「売上高増加率」です。売上高増加率が前期よりプラスであれば企業が「成長」、マイナスであれば「衰退」を意味します。
売上高増加率は以下の計算式で算出できます。
売上高増加率(%)=(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100
財務諸表はどこで入手できる?
企業の経営状況を判断できる財務諸表ですが、どこで入手できるのでしょうか?
次の章から財務諸表の入手方法を紹介します。
各期の有価証券報告書など
財務諸表は、「有価証券報告書」から参照できます。有価証券報告書とは、企業の概況、事業の状況、経理の状況など、投資判断に必要な企業の情報が開示された書類です。上場企業は金融商品取引法により有価証券報告書を開示・提出する義務があります。そのため、上場企業の財務諸表はオンラインで簡単に閲覧・入手ができます。一方、非上場企業の場合は、一定の条件を満たしていなければ開示義務がないため、一般公開している企業はそれほど多くありません。
過去5年分の有価証券報告書は金融庁のサイト「EDINET」にて無料で閲覧やダウンロードができます。
企業サイト
財務諸表は、企業サイトの「投資家向け情報」や「IR情報」のページからでも閲覧できます。「IR」とは、企業が投資家や株主に向けて経営状態や財務状況、業績などの企業情報を公開し、自社への投資を促す広報活動を指す言葉です。投資家向け広報という意味の「Investor Relations」の頭文字をとった名称です。「〇〇(調べたい企業名) IR」とオンラインで検索すれば簡単に見つけられます。ただし、非上場企業の場合はIR情報を掲載していないこともあります。
まとめ
企業のファンダメンタルズは企業の業績や財務状況などの要素を財務諸表を分析することによって判断できます。財務諸表は企業の関係者に財政状況や経営成績を報告するために作られ、そのなかでも「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」の財務三表が特に重要な書類です。これらの書類を分析することで投資先の企業の財政状況を分析できます。
株式投資は、株価の値動きも重要ですが、現在の株価が適正かどうか調べることも重要です。企業の財政状況が傾きつつあっても株価が下落していない場合は、今後下落することも予想されます。ファンダメンタルズ分析を行うことで、リスク回避または今後成長が見込める株の発見につながるでしょう。
>>ファンダメンタルズ分析の基礎①:財務諸表の読み方と分析方法
>>ファンダメンタルズ分析の基礎②:貸借対照表(バランスシート)の見方
>>ファンダメンタルズ分析の基礎③:損益計算書の見方
>>ファンダメンタルズ分析の基礎④:キャッシュフロー計算書の見方