ファンダメンタルズ分析とは、企業の「成長性」「収益性」「倒産の可能性」などから、企業価値を調べる方法です。分析には「営業利益」や「売上高」をはじめとした財務に関するデータを使用します。さまざまな観点から分析することで、企業の現状把握や将来の予測が可能です。
今回は、ファンダメンタルズ分析で使用する各指標について解説します。
企業ファンダメンタルズの分析は主に5種類
ファンダメンタルズ分析の主な種類は、以下の通りです。
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ここからは、企業ファンダメンタルズの分析に欠かせない5種類の要素について解説します。
収益性分析
収益性分析では「企業がどの程度の比率で利益を上げているか」をチェックするため、以下の2つに注目します。
取引収益性(売上高に対する収益性) | 「売上と利益」「売上と費用」が、それぞれどのように関連しているかを分析する |
資本収益性(企業の資本金に対する収益性) | 「総資本・自己資本と利益がどのように関連しているのかを分析する |
安全性分析
安全性分析では主に「銀行からの借入に対する返済能力」をチェックするため、貸借対照表・キャッシュフロー計算書(※)のような書類を読む会計知識が必要です。 主に、以下の2つで分析します。
ストック分析 | 会社の資金状態を記した貸借対照表に基づき「資産と借金」「資産と株主資本」の関係を分析する |
フロー分析 | キャッシュフロー計算書に基づき「財務」「投資」「営業」の観点から分析する |
※キャッシュフロー計算書:現金や預金など、資金の増減に関する書類
効率性分析
効率性分析では「企業が保有する資本金をいかに効率よく活用し、事業を進められるか」をチェックします。主に「資本から発生した売上の割合」を指標とした分析です。 企業の効率性が高ければ、少ない資本金で大きな利益を生めるため、投資する価値があるといえます。
成長性分析
成長性分析では「これまで会社が成長してきた過程」と「今後の成長性」をチェックします。分析には、以下の指標を使用します。
売上高伸び率および売上高成長率 | 前期と比較した際に、当期の売上がどの程度伸びたのかを示す |
経常利益伸び率 | 前期と比較した際に、当期の経常利益がどの程度伸びたのかを示す |
当期純利益伸び率 | 前期と比較した際に、当期純利益がどの程度伸びたのかを示す |
総合分析
ファンダメンタルズ分析には、株式市場からの評価も含めた総合分析が必要です。具体的には「株主に対してどの程度の経済的利益をもたらすか」を分析します。 総合分析では「株の配当利回り」や「1株あたりの収益率」なども分析するため、投資家に直接利益をもたらすような企業銘柄の選定に役立ちます。
収益性分析に用いる指標
収益性分析に用いる指標は、以下の通りです。
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ここからは、それぞれの指標について解説します。
ROA
ROA(Return on Asset)は、売上を生み出す力が高いほど数値が上昇します。基準となる数値は業界によって異なりますが、一般的な目安は5%とされています。
ROA 総資産利益率 |
企業が保有する資産を活用した結果、利益をどれほど効率的に生み出したのかを示す |
計算式 | ROA=当期純利益÷総資産×100 |
ROS
経常利益は企業の経営状態を表しており、ROS(Rate of Sales)の数値が大きいほど経営状態が良好であるといえます。
ROS 売上高利益率 |
企業の売上に対して、経常利益(※)がどの程度あったのかを示す |
計算式 | ROS=経常利益÷売上高×100 |
※経常利益:事業全体から得た企業の利益
ROE
ROE(Return on Equity)には、自社製品・サービスの利益率や、資産の有効活用度合い、負債に対する割合の高さが関係しています。高水準が続くほど、企業の利益拡大や株価上昇を期待できるでしょう。
ROE 自己資本利益率 |
企業が株主から調達した資金を使い、利益をどれほど効率的に稼いだのかを示す |
計算式 | ROE=当期純利益÷自己資本×100 |
ROIC
ROIC(Return on Invested Capital)は「事業に出資した金額から、どれほどの利益を生み出したか」を表します。
ROIC 投下資本利益率 |
企業や銀行をはじめとした債権者から調達した資金に対し、どれほど効率的に利益をあげられたかを示す |
計算式 | ROIC=税引後営業利益 ÷ 投下資本 |
キャッシュフローマージン
この数値がプラスであれば、企業が本業とする営業活動が順調であり、そこから現金を得ていることになります。
キャッシュフローマージン | 企業の売上高に対し、どの程度の現金収支を得られたかを示す |
計算式 | キャッシュフローマージン=営業キャッシュフロー(※)÷売上高×100 |
※営業活動に使われた経費や、企業が得た現金に関する資金の流れ
安全性分析に用いる指標
安全性分析に用いる指標は、以下の通りです。
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ここからは、それぞれの指標について解説します。
流動比率
流動比率とは、流動負債に対してどの程度の流動資産があるのかを示す数値です。流動負債と流動資産の比率から、会社の安全性を判断できます。そのため、流動比率が高いほど企業の価値は高いとされています。
流動比率 | 流動負債に対し、どの程度の流動資産があるのかを示す |
計算式 | 流動比率=流動資産(※1)÷流動負債(※2)×100 |
固定比率
一般的には、固定比率が低いほど資金力が高いとされています。固定比率の分析により、企業が正しく資金を使えているかどうかを判断できるでしょう。
固定比率 | 企業の資金力(支払い能力)を示す |
計算式 | 固定比率=固定資産÷自己資本×100 |
自己資本比率
自己資本比率の分析により、企業の倒産リスクがどの程度あるのかを判断できます。自己資本比率が高い企業は負債の割合が少ないため、倒産リスクが低いとされています。
自己資本比率 | 総資本(※)に対する自己資本の割合を示す |
計算式 | 自己資本比率=自己資本 ÷ 総資本(他人資本+自己資本)× 100 |
※総資本:他人資本(負債の部)と自己資本(純資産の部)の合計
インタレストカバレッジレシオ
この指標は、企業の年間利益が金融費用の何倍であるかを示しています。この数値が高いほど、金利負担能力が高い企業であることを表します。金利の負担能力が高ければ、他資本からの借入に対しても順当に経営を続けられるといえるでしょう。
インタレストカバレッジレシオ | 企業の借入金に対する利息の支払い能力を測るための指標 |
計算式 | インタレストカバレッジレシオ=(営業利益+受取利息+受取配当金)÷(支払利息+割引料) |
フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフローとは、企業が本業で得た利益から設備の購入や合併・買収に関する投資資金を差し引き、手元に残るお金のことです。成長途中である企業の場合は、投資がかさむためにマイナスとなることもあるでしょう。
フリーキャッシュフロー (純現金収支) | 企業が現金を稼ぐ能力を示す |
計算式 | 純現金収支=営業活動のキャッシュフロー + 投資活動のキャッシュフロー |
営業CF対流動負債比率
営業CF対流動負債比率を分析すると、企業の営業活動でどれほどの資金を稼ぎ、流動負債の返済に回せたかが分かります(※)。
※外部からの資金調達を除く
営業CF対流動負債比率 | 流動負債に対して営業上どれほどの現金を稼いだかを示す |
計算式 | 営業CF対流動負債比率=営業キャッシュフロー÷流動負債×100 |
効率性分析に用いる指標
効率性分析で用いる指標については以下の通りです。
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ここからは、上記の指標について詳しく解説します。
回転率
効率分析における回転率とは、運用資産・負債・資本が1年間に何回転売上を上げたのかを示す指標です。効率分析を行う際は、以下の総資本回転率・棚卸資産回転率・売上債権回転率にも注目します。
総資本回転率 (売上高÷総資産) |
企業の総資産額が、1年に何回「売上高」という形で回転したのかを示す |
棚卸資産回転率 (売上原価÷棚卸資産) |
棚卸資産(※)を、どの程度の水準まで効率的に減少させているかを示す |
売上債権回転率 (売上高÷売上債権) |
売上債権の回収が、どの程度効率的に行われているかを示す |
※ 棚卸資産:商品・製品・原材料など、販売することで初めて現金化される資産
回転期間
回転率に付随して、回転期間も考慮しましょう。回転期間とは、企業の資産・負債に関する回収期間を月数や日数で示す指標のことです。主に、以下の回転期間に分けて分析します。
総資本回転期間 総資本÷(売上高÷365) |
総資本を何日分の売上で回収したかを示す |
棚卸資産回転期間 棚卸資産÷(売上高÷365) |
棚卸資産を在庫として滞留させた期間を示す |
売上債権回転期間 売上債権÷(売上高÷365) |
売上の回収に要する日数を示す |
成長性分析に用いる指標
成長性分析に用いる指標については、以下の通りです。
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ここからはそれぞれの指標について解説します。
売上高成長率
売上高成長率(売上高伸び率) (当期売上高-前期売上高)÷前期売上高 |
決算期の売上高を前期と比較したときに、売上がどの程度伸びたのかを示す |
売上高成長率を分析すれば、企業の成長性や規模が拡大しているかどうかを判断できます。
利益成長率
利益成長率とは、企業が一定期間で得た利益の成長度合いを測定するものです。利益に関する成長度合いは、以下の成長率に基づいて分析できます。
売上総利益成長率 (当期売上総利益−前期売上総利益)÷前期売上総利益×100 |
前期から当期にかけた売上総利益(※1)の成長比率 |
営業利益成長率 (当期営業利益−前期営業利益)÷前期営業利益×100 |
前期から当期にかけた営業利益の成長比率 |
経常利益成長率 (当期経常利益−前期経常利益)÷前期経常利益×100 |
前期から当期にかけた経常利益(※2)の成長比率 |
当期純利益成長率 (当期純利益−前期純利益)÷前期純利益×100 |
前期から当期にかけた純利益の成長比率 |
※1 売上総利益:売上高から売上原価を差し引いた利益
※2 経常利益:企業が業務で得た利益
資本増加率
成長性分析における資本増加率は、以下の「総資本増加率」「自己資本増加率」に基づいて判断できます。
総資本増加率 (今期総資本-前期総資本)÷前期総資本×100 |
前期の総資本に比べ、当期の総資本がどの程度伸びているかを示す |
自己資本増加率 (今期自己資本-前期自己資本)÷前期自己資本×100 |
前期の自己資本と比べ、当期の株主資本がどれだけ増加しているかを示す |
総合分析に用いる指標
総合分析で用いる指標は、以下の通りです。
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ここからは、それぞれの指標について解説します。
EPS
EPSとは「Earnings Per Share」の略称で、一株あたりの純利益のことです。株主が保有する株に対して、企業が稼いだ利益額を示しています。この数値が高まるほど株価上昇につながるため、上場企業が経営計画で掲げる目標の1つとして挙げられます。EPSは当期純利益 ÷ 発行済株式総数で計算可能です。
PER
PERが高ければ、企業の利益に比べて株価が高く評価されていることになります。逆に、PERが低いと、株価の割に企業の利益が高いとされ(割安)、まだ他の投資家が注目していない企業といえるでしょう。
PER(Price Earnings Ratio) 株価収益率 |
企業の利益水準を基準に、現時点での株価が適正水準にあるのかを判断する指標 |
計算式 | PER=株価 ÷ 1株当たりの純利益 |
PBR
PBR(Price Book Ratio)は投資家が株式を売買する際、投資尺度の1つとして利用する数値です。この数値が高いと、企業の資産価値に比べ、株価が高く評価を得ていることになります。逆にPBRが低い企業は今後株価が上がると推測でき、投資先企業として選べば含み益を得やすいといえるでしょう。
PBR 株価純資産倍率 |
株価が1株あたりの純資産の何倍で買われているかを示す |
計算式 | PBR=株価÷1株あたりの純資産 |
配当性向
配当性向が極端に低い場合、企業は投資家からクレームを受ける可能性があります。ただし、ベンチャー企業のような成長期にある企業は多額の投資を必要とするため、配当性向が非常に低くなることがあります。
配当性向 | 企業が得た利益のうち、株主に対して何%を「配当金」として分配するかを示す |
計算式 | (当期純利益÷配当金支払総額)×100 もしくは (1株あたりの純利益÷1株あたりの年間配当金)×100 |
配当利回り
配当利回りは、1株に対する配当金の多さ・少なさを表しています。配当利回りの高さが全てではありませんが、配当金が多い株は注目株として期待できるでしょう。
配当利回り | 株価に対し、1年間でどの程度の配当を受けられるかを示す |
計算式 | 配当利回り=1株当たりの年間配当金額÷1株購入価額×100 |
なぜROEは重要なの?
ROE(自己資本当期利益率)が重要視される理由は、比率が高いほど少ない資本で利益を上げていることを表しているためです。そのため、株主が投資する上で重要な指標といえます。なお、ROEの一般的な目安は10%とされています。つまり、10年で利益額が投資分を超える、優良企業であると判断できるでしょう。
投資がどれだけ返ってきたかがわかる
ROEは株主が投資した資本に対して、どれほどのリターンがあるかを示す指標です。ROEを算出する際は「当期純利益(※)」と「株主資本」から算出します。
※当期純利益:売上から法人税や事業税などの費用を差し引いた最終的な利益
ROEの分解
ROEは以下の3つの要素に分解できます。
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このように、3つに分解する考え方を「デュポン分析」といいます。このデュポン分析によって、各要素がどのようにROEを増減させているのかをチェックします。
売上高純利益率
株式投資においては、この売上高純利益率が重視され、比率が高いほど優秀な投資先であるといえます。
売上高純利益率:会計期間(※)における当期純利益の売上高に占める割合のこと |
※会計期間:損益計算を行うために設けられた時間的な区切りで、通常は1月1日から12月31日までの1年を指す
総資本(総資産)回転率
総資本(総資産)回転率は「企業が保有する全ての資産が売上獲得に直接貢献した」と仮定してから算出します。回転数が多いほど、効率よく資産を活用できたことになります。
総資本(総資産)回転率:総資産がどれほど効率的に売上を生み出したかについて分析する指標 |
財務レバレッジ
レバレッジとは、レバレッジ(てこ)の原理から転じて「小さいコストで大きな利益を生み出す」意味を指します。 財務レバレッジでは、社債や借入金を活用し「自社の保有する総資産が自己資本の何倍となるか」を算出します。
財務レバレッジ:株主の出資金で企業がどれほどの資本を生み出したのかを示す |
企業ファンダメンタルズ分析の注意点
ファンダメンタルズ指標に基づいた企業分析は、企業価値を調べる方法として有効な手段です。とはいえ、指標の全てを鵜呑みにするわけにはいきません。 ここからは、分析時の注意点について解説します。
指標は万能ではない
ファンダメンタルズ分析の指標は、どのような状況でも通用するわけではありません。なぜなら、指標で示した数字だけでは企業の実態を完全に反映できないためです。定量的な分析だけでなく、社会情勢や特定企業にかかわるニュースなどの定性的な分析を行うことで、企業の実態をより把握できるでしょう。
あくまで四半期ごとの数字に基づく
ファンダメンタルズ分析で用いる指標は、あくまで四半期ごとの数字に基づいた情報から算出したものです。そのため、速報性に欠けるというデメリットを持ち合わせています。また、社会情勢に影響を受けやすい株式投資では、ファンダメンタルズ分析の結果が株価として反映されるまでに時間がかかることもあります。
マクロ経済統計にも注目
ファンダメンタルズ分析を有効活用するには、企業の財務情報を含めたミクロな情報だけではなく、マクロ経済統計にも注目しましょう。なお、マクロ経済統計とは、国内総生産(GDP)や消費者物価指数など、経済に関する国全体の動きを示す統計です。ファンダメンタルズ分析を十分に行うには、企業の価値だけではなく、経済全体の動きも把握しておく必要があります。
まとめ
ファンダメンタルズ分析と主な指標について解説しました。 ファンダメンタルズ分析は専門用語が多いため、最初は難しく感じる方もいるでしょう。しかし、この分析方法を活用すれば、中・長期投資の銘柄選びの判断材料として大いに役立ちます。ファンダメンタルズ分析と株価のトレンドを上手く活用できれば、投資価値の高い企業を選定しやすくなるでしょう。
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監修者:菅原 良介
編集者:K-ZONE money編集部