ETFの「価格変動要因とは?」 - ETF活用をした分散投資・ポートフォリオ投資術 - 東証ETF活用プロジェクト 東証ETF

投稿日:2022/05/09 最終更新日:2022/07/28
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東証ETF活用プロジェクト [ ETFを活用した分散投資・ポートフォリオ投資術 ]

【第6回】

ETFの「価格変動要因」とは?

前回(第5回)のポイントは、(1)同じ連動指数のETFは、それぞれが連動指数とほとんど同じような動きをしており、価格変動性は概ね同水準であること。(2)ETFの価格変動性は、その連動指数の価格変動性から推し量れること。(3)ETFの価格変動性は、その連動指数の長期間のデータを用いて把握した方が望ましいこと。などでした。
最初に、前回のクイズの答え合わせです。
Q2 次の資産クラスの「価格変動リスク」(標準偏差)は、何%程度と言えるでしょうか?

(1) 国内株式
(2)外国株式
(3)新興国株式
(4)国内債券
(5)外国債券
(6)新興国債券
(7)コモディティ

ヒントは、前回(第5回)の図表2図表3の中にあります。価格変動リスクの水準は時間とともに変動し、長期的に低下または上昇する場合や、循環的に上昇と低下を繰り返すことがあるので、その傾向を把握することも大切です。前回(第5回)の図表2を見ると、一方的に変化する傾向が見られるのは国内債券で、1990年代は5%弱程度ありましたが、国内債券の金利水準の低下とともに価格変動リスクも低下してきています。一方、その他の資産クラスには、顕著なトレンドが見られずに、循環的に上昇と低下を繰り返しているように見えます。
これらのことを踏まえつつ、価格変動リスクは過小評価するよりも、少し大きめに評価したほうが慎重なので、次のように幅のある回答にしたいと思います。
【回答】主要資産クラスの「価格変動リスク」(標準偏差:年率)

(1) 国内株式:20〜30%程度
(2) 外国株式:18〜30%程度
(3) 新興国株式:27〜40%程度
(4) 国内債券:3〜5%程度
(5) 外国債券:10〜15%程度
(6) 新興国債券:18〜25%程度
(7) コモディティ:18〜30%程度

答え合わせの結果はいかがでしたでしょうか? 投資対象の期待リターンを推計する際に、価格変動リスク(標準偏差)を合わせて推計し、将来のリターンを幅をもって推計することがありますが、これと同様に、価格変動リスクの水準も市場環境によって変化しますので、幅をもって把握することをお勧めします。
さてそれでは、ETFの価格変動は、なぜ生じるのでしょうか?
ETFの価格変動性は、その連動指数の価格変動性から推し量れることから、今回は国内株式、国内債券、外国株式(ヘッジなし)、外国債券(ヘッジなし)といった代表的な指数の価格変動の正体を調べることにしましょう。
為替変動の影響
まず初めに為替変動の影響を調べてみましょう。図表1は、主要4資産(国内株式、国内債券、外国株式(ヘッジなし)、外国債券(ヘッジなし))について、円高ドル安局面のリターンと円安ドル高局面の平均リターンを比較したものです。為替ヘッジなしの外貨建て資産クラスは、円高ドル安局面では大幅なマイナスになっていますが、円安ドル高局面に大幅にプラスになっており、外貨建て資産の価格変動は為替レートの変動によってもたらされていることがわかります。
図表1 
図表1 国内金利の上昇局面と低下局面のパフォーマンス
では、これはなぜでしょうか?
例えば、1ドル=100円の時に米国のある株式に100ドル投資し(100ドル×100円/ドル=10,000円)、1年後に10%値上がりして110ドルになったとします。この時、1ドル=110円の円安ドル高になっていた場合、この株式の円建ての価格は12,100円(=110ドル×110円/ドル)となります。一方、1ドル=90円の円高ドル安になっていた場合、円建ての価格は9,900円(=110ドル×90円/ドル)となります。株式自体は値上がりしているのにもかかわらず、円高ドル安が原因で損失が発生したことになります。
為替ヘッジなしの外貨建てETFのパフォーマンスは、為替変動による影響が大きく、円安ドル高のときはプラス要因になる一方、円高ドル安のときは損失を発生させる要因となりますので、為替変動リスクに留意することが必要です。
金利変動の影響
次に、金利変動の影響を調べてみましょう。今後の金利水準の動向については、色々な見方がありますが、図表2では、国内金利の変動がさまざまな資産クラスのリターンにどのような影響をもたらすかという傾向を1970〜2009年のデータを用いて調べてみました。
図表2
円高ドル安局面と円安ドル高局面のパフォーマンス
金利変動の影響の受け方は資産クラスによって異なる結果となりましたが、国内債券のリターンは金利変動の影響を強く受け、国内金利が上昇すると国内債券のリターンはマイナスになり、国内金利が低下すると国内債券のリターンは高くなる傾向があります。したがって、国内債券の価格変動は国内金利の変動によってもたらされていることがわかります。
国内債券は株式や外貨建て資産と比べると価格変動リスクは小さいものの、金利上昇リスクへの備えが大切です。
国内景気の影響
株価は企業の業績に影響されるため、株式のリターンと景気動向が関連していることは直感的にイメージしやすいでしょう。では、国内の景気が良い時と悪い時とでは、国内の株式のリターンはどのくらい違うのでしょうか。また、国内景気と様々な資産クラスのリターンにはどのような関係があるのでしょうか。
図表3は、主要4資産について、国内景気の拡大局面のリターンと景気後退局面のリターンを比較したものです。
図表3
国内景気の拡大局面と後退局面のパフォーマンス
国内株式は、国内景気の後退局面ではほぼゼロと冴えない結果となっていますが、拡大局面では大幅なプラスとなっており、国内株式の価格変動は国内景気の良し悪しによってもたらされていることがわかります。
他の資産クラスを見てみると、景気後退局面において最も一番リターンが高かったのは国内債券であったことが分かります。一般的に景気後退局面においては、中央銀行が景気対策として利下げを行うなど、国内金利が低下して国内債券の売却価格が上昇する場合があるからです。
国内株式のインデックスに連動するETFのパフォーマンスは、国内景気による影響が大きく、景気が良いときはプラス要因になる一方、景気が悪いときはマイナス要因となりますので、国内景気の動向、さらには国内景気に影響を及ぼす世界の景気動向に目を配ることが大切です。
価格変動要因を先読みできるか?
ここまでの分析で、ETFの価格変動をもたらす要因が、(1)為替変動、(2)金利変動、(3)景気動向などと明らかになってきました。
では、これから先、いつ景気が良くなるか、悪くなるかを正確に予想することは出来るできるでしょうか?
過去の景気循環を見ても、不規則に循環を繰り返していますので、正確な予想は誰にとっても難しいといえます。
また、今後、いつ為替レートが円安トレンドになるか、円高トレンドになるかを正確に予想することはできるでしょうか?
過去の為替レートの動向を見ると、1980年代以降は円高傾向に推移してきましたが、近年は不規則に円高円安を繰り返していますので、正確な予想は簡単なことではありません。
このように、ETFの価格が変動する要因がわかったとしても、それらの動きを先読みすることは、容易なことではありません。
では、どうしたらよいのでしょうか?
次回以降、ご一緒に考えることにしましょう。
 
小松原 宰明氏小松原 宰明氏プロフィール
イボットソン・アソシエイツ・ジャパン株式会社 マネジング パートナーCIO
(社)日本証券アナリスト協会検定会員
http://www.matonavi.jp/
1987年慶應義塾大学理工学部卒業、日本長期信用銀行入行。長銀投資顧問システム運用部ファンドマネジャー、UBSアセットマネジメント国内株式ポートフォリオ・マネジャーを経て、2000年11月イボットソン・アソシエイツ・ジャパンを共同設立。著書に『リスク・リターンの経営手法』(共著、中央経済社)、『ポリシー・アセットアロケーションの重要性』証券アナリストジャーナル2008年9月号(第20回証券アナリストジャーナル賞受賞)、『債券の期待リターンの推計−実証分析と将来シミュレーション−』(日本ファイナンス学会第12回大会予稿集)、『ポートフォリオ・マネジメント・プロセス』(共著、証券アナリスト第1次レベル通信教育講座テキスト)などがある。


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