投資信託 [ 注目の投信 ]
投信フォーカス
注目度高まる南アフリカ経済の強みと弱点を第一線の専門家に聞く
——サッカーW杯開催間近。資源国・南アフリカへの注目度上昇。貧困や犯罪と企業力が同居。“虹の国”から“普通の国”に変わり経済のグローバル化が端的に現れた世界の縮図と、アジア経済研究所の平野克己氏は読み解く。
アフリカ大陸が、環境(エコ)対策や産業製品に欠かせないレアメタル(希少金属)をはじめとする各種資源の宝庫として、世界から熱い眼差しを浴びている。資源大陸・アフリカの経済を率いるリーダー格の存在が、最南端に位置する南アフリカ共和国だ。アフリカで唯一のG20(主要20ヵ国・地域の首脳会合)のメンバー国でもある。人口は5千万人弱で、黒人が8割程度、白人が1割程度を占める。公用語はアフリカ現地語や英語など11種類もあり、多民族・他部族国家という特徴を持つ。
南アフリカ経済の状況をIMF(国際通貨基金)の予測値(注1)を基に概観すると、経済規模は、2010年末の名目GDP(国内総生産)が3300億ドル程度で日本(475兆円)や中国の約6%の規模、ロシアやブラジルのGDPの2割前後、インドの4分の1程度の大きさだが、エジプトなどの北アフリカ地域を除くサハラ砂漠以南(44ヵ国)の3割強を占める。
同じくIMF予想によると、インフレ率を調整した実質GDP成長率は2010年が2.6%、翌2011年以降2015年までは3.6%から4.5%への増加基調が見込まれている。IMFの予想では、経常収支は対GDP比での赤字(マイナス)が続く。2010年末は対GDP比で5%のマイナスだが、2015年にはマイナス7%台までやや拡大。インフレ率は2010年の5%台後半から2015年の4.5%程度まで緩やかに下がるとの予想。政策金利は現在6.5%で高金利国の仲間に入る。
(注1)出所:IMF Economic Outlook 2010年4月
そんなアフリカン・リーダーの南アフリカで6月11日から1ヵ月間にわたり、世界32ヵ国の代表が競いあう“FIFAワールドカップ”(サッカーW杯)が開催される。世界最大のスポーツの祭典がアフリカ大陸で初めて繰り拡げられるだけに、南アフリカへの関心が一段と高まりそうだ。
投資信託(ファンド)でも、この6月に「野村南アフリカ資源関連株投信」(野村アセットマネジメント、販売は野村証券)が新規設定される。今年3月には南アフリカ債券のみで運用するファンド「PCA南アフリカ債券ファンド(毎月決算型)<愛称:虹の国>」(ピーシーエー・アセット・マネジメント)も登場した。
ただ、南アフリカの株式や債券を組み入れて運用している投資信託(ファンド)は既に珍しくない。ETF(上場投信)では、ヨハネスブルグ証券取引所を代表する40銘柄で構成する株価指数(円換算)への連動を目指して運用する「南ア40(1323)」<正式名称:「NEXT FUNDS 南アフリカ株式指数・FTSE/JSE Africa Top40連動型上場投信」>(野村アセットマネジメント)が、2008年7月に大証に上場。現在、南アフリカ株中心に運用している「野村アフリカ株投資」(野村アセットマネジメント)や、4月末時点で南アフリカ株の組み入れが3割程度の「日興アフリカ株式ファンド」(日興アセットマネジメント)などもある。
南アフリカを代表する株式市場がヨハネスブルグ証券取引所だ。19世紀後半にキンバリーでダイヤモンド鉱が発見されたのに続いて、金鉱脈がヨハネスブルグで見つかった。それ以来ヨハネスブルグは南アフリカ最大の商業都市として発展してきた。ヨハネスブルグ証券取引所には400社を超す企業が上場し、市場規模(合計株式時価総額)は80兆円強と東証1部(約330兆円、約1700社)の4分の1程度。ブラジルを代表するサンパウロ証券取引所の時価総額(約120兆円、約380社)の3分の2程度、中国本土のA株市場(上海と深セン合計で約290兆円、約1340社)の約3割の規模だ(注2)。株式以外にも、南アフリカの債券もヨハネスブルグ証券取引所で売買されている。
(注2)出所:ヨハネスブルグ・東京・サンパウロ・上海・深センの各証券取引所、データは2010年3月末時点。
通貨ランドに対する円相場、および南アフリカ株式相場(円換算)の価格変動リスクは大きい。南アフリカ株式相場の2年間の値動きはプラチナ(白金)と似た動き。
南アフリカ通貨・ランドの値動きは上下の振幅が大きい。資源国通貨の仲間、豪ドルに比べても大きかった。外国為替市場での円相場の価格変動リスクをユーロ誕生(1999年1月)以降11年長の期間で測定し比較すると、対ランドは対米ドルの2倍、対ユーロの1.6倍、対豪ドルの1.2倍だった。
南アフリカ株式相場の値動きの振幅も大きい。値動きをETFの「南ア40(1323)」の基準価額(円ベース)でみると、2008年7月下旬以降2年近くの間の価格変動リスクは原油よりもやや大きく、日経平均の1.6倍だった。この間の値動き自体はプラチナ(白金)と似た軌跡をたどった。自動車の排ガス処理装置に欠かせないプラチナの埋蔵量が世界の9割を占めるという、南アフリカならではの鉱物資源という点が関係しているとみられる。
アジア経済研究所の平野克己氏に南アフリカの影を聞く——国民の4割が無職で所得格差世界一。世界有数の治安の悪さ。HIV(エイズ)感染での死亡者年35万人。
「南アフリカは世界有数の犯罪天国」——こう話すのは日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所・地域研究センター長の平野克己氏(注3)。平野氏はジェトロ・ヨハネスブルグセンター所長を2004年から2007年まで歴任するなど、南アフリカの社会情勢や経済に詳しい。南アフリカ経済の弱点と強みはどんな点にあるのだろうか、平野氏に聞いた。南アフリカの厳しい現実と、それとは相反するような企業力が浮かび上がってくる。
(注3)平野克己氏のプロフィール
http://www.ide.go.jp/Japanese/Researchers/hirano_katsumi.html
平野氏:
「南アフリカでは殺人事件で亡くなる人が年に1万8千人(一日50人)。日本はおよそ千件で、実際に亡くなる人は700人弱だから、人口比での殺人発生確率は日本の百倍にもなる。失業率の高さや所得格差の激しさがこの背景にある。失業率は現在25%程度。労働意欲がなく職探しをあきらめている層も多く、この15%を加えると国民の40%が無職という状態だ。その一方で、大手企業の経営者の年俸は数十億円。年収が億単位という黒人の企業経営者も珍しくない。こうした社会では平均所得などという数値は全く無意味となる。多数の無職とごく一部の富裕層。所得格差が世界一激しい国というのが南アフリカの現実だ。それも白人と黒人の間ではなく、黒人の間での格差が広がっている」
「強盗など殺人以外の凶悪犯罪は日常茶飯事。犯罪が多すぎて警察は手が回らず、警察を頼りにすることはできない。安全は金で買うしかないというのが実情だ。警備のノウハウを生かして国際展開を図っている企業もあるくらいだ。銃器が簡単に手に入ることや、黒人の人権をはく奪したアパルトヘイト(人種隔離)政策を打倒する闘争運動の中で、暴力を肯定する文化が定着したことも犯罪を助長している。“ロスト・ジェネレーション”とも呼ばれる30代の若者に無職が多い。アパルトヘイト期の少年時代に十分な教育を受けられず、労働意欲を失った青年達を指す。こうした若者を金目当ての犯罪に引き込む犯罪組織グループも暗躍していると言われる。アパルトヘイト体制下で黒人が土地を没収されたため、農業が育っていないのも働き場を少なくしている」
「HIV(エイズ)感染者の多さも社会の負の側面だ。政府のHIV対策の遅れ、失策により、感染者は500万人以上に膨れ上がり、人口の1割を超す。年35万人程度がHIVにより死亡。死亡者が多いことも起因し、南アフリカの人口は微増が続く見通しになっている」
W杯後も負の側面は残る。企業はリスク覚悟で進出。中国のプレゼンスが大きく、南アフリカの経済成長は中国次第の面も。
平野氏:
「政府は、犯罪対策やエイズ対策に手をこまねいている訳ではないが、こうした社会の負の側面がW杯を契機に大きく改善するというのは期待できないだろう。証券投資をするにしてもビジネスでの企業進出を行うにしても、南アフリカの厳しい現実と受け止めることが必要だ。例えば、早くから南アフリカに進出したトヨタ自動車は、ダーバンにある工場を欧州向け完成車輸出の拠点として生産拡張。多くの現地従業員を雇い、労務としてHIV対策も行っている。社会的なリスクを十分認識し、ビジネスコストと割り切ったうえで、今後も南アフリカへの企業進出は相次ぐだろう」
「南アフリカの電力公社はエスコム社。電力供給が需要に追い付かず慢性的な電力不足に陥り、停電が頻発している。資源需要増による想定外の好景気となったことで、長期の電力需要を読み間違えたためだ。エスコムは火力発電の生産能力を急ピッチで拡大中だが、日本の電機メーカーも協力している。南アフリカでは原油は採掘されず、価格高騰した原油輸入が貿易赤字を招いている。エネルギーの供給不足を解決するため、石炭を液化する技術開発には世界でも最先端で取り組んでいる。原子力発電所建設も計画されている」
「今、南アフリカで存在感を高めているのは中国。南アフリカに住んでいるとあちこちで中国人を見かける。在留邦人が1300人程度なのに対し、中国人はおよそ40万人と言われる。中国の南アフリカへの入れ込みを象徴する出来事が金融界でも起こった。世界最大規模の銀行“中国工商銀行”が南アフリカの銀行“スタンダード・バンク”の株式を20%取得したことだ。スタンダード・バンクはアフリカ最大の銀行である。中国はこれを足場にして、南アフリカとのビジネス連携を強めようとしている。南アフリカ企業の中国への進出もW杯を契機に加速する見込みだ」
「世界から資源国として注目されている南アフリカだが、資源需要の源は中国だ。アフリカの経済成長も中国頼みの様相が強まっている。中国の資源需要が落ち込まない限りアフリカ経済の成長も期待できるが、中国経済が減速しだすとその悪影響は避けられないだろう」
南アフリカの光——民間企業の力に注目。企業のグローバル化、海外進出が活発。中央銀行はインフレ抑制を目的に慎重な金融政策。経済成長へのW杯効果はそれほど期待できず。
平野氏:
「南アフリカの大手企業には国際展開力が優れたグローバル企業が多く、企業の経営力に秀でている。民間企業の力が南アフリカ経済の活力源だ。第二次大戦後に遡ると、南アフリカは“先進国”として、国際的な貿易協定を定めるWTO(世界貿易機関)の前身のGATT(ガット、関税および貿易に関する一般協定)の原加盟国だった。この頃から、すでに南アフリカ生まれの白人経営者は欧州基準の企業経営力を身につけていた。多国籍での海外展開を得意とする会社が少なくないのが特色だ」
「例えば、豪英籍の資源大手として著名な“BHPビリトン”は南アフリカ出身の白人が創設に関わりCEOにもなった。そのほか、プラチナ鉱山を有する会社や石炭液化を推し進めている企業、携帯電話をアフリカ中に普及させた会社、英国での病院チェーン経営に乗り出した企業、東欧や中南米を最初の海外進出先に選んだ会社など、グローバル展開を志向する企業には事欠かない。株式交換といった先進的な手法でのM&A(企業買収)も盛んに行われている。資本調達の面では、ヨハネスブルグ証券取引所はアフリカの他国の企業が資金調達を行う場としての機能を果たしている」
「南アフリカでは基本的にインフレ率に連動して政策金利が決まる。中央銀行はインフレ率に応じて政策金利の上げ下げを行うという慎重な金融政策を続けている。南アフリカ経済は1970年代に原油高騰のあおりを受け高インフレが収まらず大不況に陥った苦い経験がある。80年代後半以降中央銀行は、インフレ抑制を主眼とした金利調整を行うという慎重なスタンスを変えていない」
「W杯後に南アフリカ経済が飛躍的に伸びるとは楽観視していない。現地のビジネスマンの多くはW杯の経済効果を冷静に捉えているように感じている。むしろ、W杯需要がはげ落ちることを心配している向きもある」
“虹の国”から“普通の国”へ。南アフリカの光と影を映しだすグローバル化は世界の縮図。
“虹の国(レインボー・ネーション)”。アパルヘイト政策打倒を首謀する政治犯として27年間に及ぶ投獄生活から釈放された後、全人種参加による初の民主的総選挙で1994年に南アフリカ大統領に就任したネルソン・マンデラ氏が、人種と民族の融和・調和を図りながら国造りを行っていくという意図を込めて名付けた言葉だ。「この“虹の国”はグローバリゼーションの波を受け、“普通の国”に変わった」というのが平野氏の見方だ。
平野氏は「アパルトヘイト体制下において南アフリカの黒人には共通の敵が存在し、アパルトヘイトとの戦いと勝利を、国際社会も称賛した。マンデラ政権下の南アフリカは“人類に対する罪”といわれたアパルトヘイトを打倒した、ある種特殊な国だった。しかし、民主化から16年を経過した現在、もはや特殊ではない”普通の国“になった」とし、「黒人の間での主義主張のぶつかりあいや価値観の多様化など、どこの国でも見られる現実に直面しながら、南アフリカの多くの人々は“南アフリカとはどんな国”と問われても確たる答えに戸惑う状況にある」と指摘する。
失業率の高さや犯罪多発という社会的負の側面と、経済成長という相矛盾するような現象が隣合わせになっているのも「世界で進行するグローバリゼーションは格差を広げる力学を持ち、その本質が南アフリカに赤裸々に表れた結果」と平野氏は読み解く。
平野氏は近著『南アフリカの衝撃』(日経プレミアシリーズ、日本経済新聞出版社、2009年12月刊)の中で、グローバリゼーションがもたらす社会的側面について「南アフリカには希望もあふれているが、危険にも満ちている。その姿は、いまわれわれが生きている世界の縮図であるに違いない」と表現している。
サッカーワールドカップのTV観戦を通じて、そんな南アフリカの光と影を垣間見ることができるのかもしれない。
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