金融・貴金属アナリスト亀井幸一郎が語る「南アフリカの現場で見た金とコモディティ市場の未来」 - 著名人インタビュー - 東証ETF活用プロジェクト 東証ETF

投稿日:2018/06/24 最終更新日:2022/08/05
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東証ETF・ETN活用プロジェクト [ ETFがわかれば世界がわかる 著名人にインタビュー ]

【第2回】

金融・貴金属アナリスト亀井幸一郎が語る

南アフリカの現場で見た金とコモディティ市場の未来

亀井幸一郎氏
金融・貴金属アナリスト
亀井幸一郎氏
上昇傾向が続く金価格。新興国の経済発展にともなって、食糧や資源・エネルギーに対する需要が、今まで以上に高まると考えられています。世界的なインフレ懸念が強まるなか、インフレリスクのヘッジ手段として注目される金価格の動向はどうなるのでしょうか。今年3月、自身で南アフリカに出向き、金などの採掘現場を見て来られた金融・貴金属アナリストの亀井幸一郎さんに、今後の金価格、コモディティマーケットの行方について、話を伺いました。
− 先日、南アフリカに行かれたと伺っております。治安の悪さばかりが伝わってくる南アフリカですが、国の将来性をどう見られましたか?
亀井氏
失業率は30%とも40%とも言われており、それが治安の悪さにつながっているのは事実です。凶悪犯罪の件数については、世界でも有数といえるでしょう。これだけ治安が悪いと、殺伐とした雰囲気をイメージすると思うのですが、自分の目で見ると、意外と元気が良いというのが、正直な感想です。なぜ元気があるように見えるのか、やはり人の出入りが活発だからなんですね。何しろ、世界でも有数の資源国。アフリカ諸国のなかではインフラが整っている。これから消費の中心層に育っていく若い人がたくさん住んでいますし、自動車や家電などがどんどん売れています。もっとも、自動車が売れているというのは、鉄道による移動に治安の問題があり、多くの人が自動車移動を強いられているという現実があるのも事実です。
アパルトヘイト政策が解除されてから、きちっとした教育を受けてきた黒人層の年齢が徐々に上がってきて、今では企業のマネジャー職に就いている人も増えてきました。将来、アフリカ大陸は世界経済の需要の受け皿のひとつに育つと見られており、多くの企業が南アフリカに参入してきています。先に申し上げたように、インフラは整っていますから、雇用を吸収できる産業がもっと立ち上がれば、南アフリカの経済はきちっとワークしていくのではないでしょうか。そのような印象を受けました。
− 南アフリカの産業というと、やはり鉱業が中心ということになりますか?
亀井氏
亀井幸一郎氏
もちろん、鉱業は南アフリカの中心産業であることに変わりはないのですが、単に金やプラチナなどを輸出するだけでなく、それらを加工した製品を輸出するという方向を模索しています。たとえばプラチナであれば、それを原材料とした自動車触媒を作って輸出するというようなものです。一次産業を核にして、それを加工した産業を新しく立ち上げようというのが、南アフリカの新しい産業政策です。
こうした二次加工の産業を立ち上げるため、政府による積極的な誘致政策が行われています。この政策効果により世界中から人が集まってきているのです。ちなみに現在、南アフリカに住んでいる日本人の数は約1300人。これに対して、韓国人が約3万人、中国人はなんと約40万人も住んでいます。特に中国は資源確保を目指して、南アフリカと積極的に外交を展開していますから、今後もさらに中国人の人口は増えていくでしょう。この点でも、日本が出遅れているという印象を受けますね。
− 2007年に金の生産量で中国が南アフリカを抜きました。南アフリカの鉱山も、そろそろ埋蔵量が減ってきているということですか?
亀井氏
いえ。金やプラチナ、ダイヤモンドなどの鉱物資源の埋蔵量は、相変わらず豊富です。それは変わらないのですが、実はさまざまな理由で鉱物資源をどんどん生産できない状況にあるのです。
イメージ
南アの鉱脈は平均70センチと幅が狭く、それが何十キロにもわたり続く
たとえば金鉱床を例に挙げると、南アフリカで金の採掘が始まったのは1884年で、今では平均2900メートルの深さまで掘られています。一番、深いところだと3900メートルです。ここまで深いところまで掘ると、採掘現場は地熱で50度にもなります。そのような環境で人間が重労働をするのは不可能ですから、地上からパイプを通して1分間に数トンもの氷を送り込み、気化熱を利用しファンを回して冷風を送り込んでいるのです。そして氷が溶ければ水が溜まりますから、今度はそれをポンプで地上に吸い上げています。それでも採掘現場の温度は30度近くになり、湿度が極めて高く、労働環境は決して良いとはいえません。
昔は、それだけ劣悪な労働環境でも、安い賃金で働く黒人労働者がたくさんいました。それが金を採掘するためのコストを安く抑えていたのですが、今は民主化されアパルトヘイト政策は廃止され15年ほど経ちました。黒人鉱山労働者の賃金は大きく上がっており、コスト上昇の大きな要因になっています。また、先に触れたように採掘現場の労働環境を適正に維持するためには例えば大量の電力を必要としますから、それも金の採掘コストを押し上げています。
イメージ
地下1000メートルの現場
こうしたコストアップが、南アフリカの金の採掘量を減らしています。ちなみに金の生産量は、ピークの1970年が年間で1000トンだったのですが、今は年間218トン程度まで減少しています。2006年まで100年以上にわたって南アフリカが金の生産量で世界トップだったのですが、2007年に中国に追い抜かれました。ただ、これは中国の生産量が大きく増えたのではなく、このような事情によって、南アフリカの生産量が大きく落ち込んだのが大きな理由です。
それでも、新興国の経済発展にともなって、より多くの鉱物資源が求められていますから、コストが上がったとしても、生産量を維持していかなければなりません。金価格には、こうしたコストが織り込まれていきますから、金をはじめとする鉱物資源の価格は、持続的に上昇する環境にあるのです。
− リーマンショックやギリシャショックなど金融不安が高まるたびに、金価格が上昇しています。投資対象として、金をはじめとするコモディティに対する投資家の関心は高まってきていますか?
亀井氏
確実に高まってきています。市場経済というのは、いうなれば通貨を代表にペーパー資産を中心に回っていた経済なのですが、そのペーパー資産に対する信認が、リーマンショックやギリシャショックによって、大きく後退しています。
1989年にベルリンの壁が崩壊した時、よく言われたのは「資本主義の勝利」という言葉でした。それを機にマネー経済が膨張をし始め、ITバブルや住宅バブルを引き起こしたわけですが、たとえばITバブルが崩壊したら、景気の底割れを防ぐためにおカネをばら撒いて、結果的に次の住宅バブルにつながった。そして住宅バブルが崩壊したらさらにおカネばら撒いてなんとか傷口をふさごうとしているわけです。
今は米国での住宅バブルとそれに付随した金融バブルの崩壊を修復している途中ですが、その方法として、金利をゼロまで下げおカネをばら撒くという構図には何ら変化が見られません。おカネは刷ればいくらでも生み出すことができますが、こうしたことに対する疑問が浮かび上がってきていると思います。
1万円札の原価をご存知ですか?わずか23円程度とされているのです。原価23円のものが、1万円という価値を持って流通しているのです。まさにお札というのは、共同幻想であり、それを使っている人たちからの信認によって、価値が支えられています。カジノ経済という言葉もありますが、それが90年代以降、幾度となく生じたバブルの崩壊と修復のための通貨発行量の増大によって、揺らいできています。それだけに、価値がより確からしいと思われる資産に、人々の関心が向いてきています。それが、金を中心とする実物資産なのです。
これまで、欧米の年金基金など多額の資産を運用している機関投資家を中心に、資産の一部をETFを介して実物資産に切り替えるという動きが広まってきましたが、いよいよその動きが個人の運用にも波及しています。
− 金などコモディティの価格は、今後も上昇を続けるということでしょうか?
亀井氏
亀井幸一郎氏
そうです。今、申し上げたように、実物資産に対する関心が高まっているということに加え、それ以外にもコモディティ価格が上昇する要因はたくさんあります。
たとえば新興国経済の発展。中国やインドの生活水準が、これからどんどん上がっていくでしょう。この2国の人口だけでも約23億人います。これだけの人口の生活水準が上がっていくということ自体が、インフレ要因になります。
わが国日本にも、日本固有の問題があります。日本の財政赤字は先進国中最悪の状態にあります。この先さらに財政事情が悪化したら、通貨の信認に傷がつき円安になってもおかしくないでしょう。日本の場合、円安は輸入物価の上昇からインフレ要因になりやすいといえます。
ところが、今の日本はデフレが進行しています。なぜでしょうか?理由のひとつは、円高が進んでいるからです。世界最大の債権国という部分が評価され円高になっているわけですが、外需頼みの経済実態から環境がかわれば円安に転じてもおかしくはありません。恐らく円安に転じたら、輸入物価の上昇から、日本経済はインフレ傾向を強めるでしょう。金をはじめとする、多くのコモディティはドル建ての取引ですから、円安が進めばコモディティ価格なども上昇に転じます。
特に金は、円建てで見た場合、まだまだ上昇余地があると考えています。主要通貨建ての金価格を見ると、米ドルはもちろんのこと、ユーロ建てにしても、豪ドル建てにしても、あるいはポンド建てにしても、いずれも過去最高値を更新してきています。過去最高値を更新していないのは円建ての金価格だけです。通貨別に見ると、円建ての金価格は、世界的に割安な水準にあると考えられます。ですから、この相対的に安いうち、すなわち円高の間に円建ての金を仕込んでおく意味はあると思います。
ちなみに、過去の円建て金価格を見ると、1980年1月に瞬間、1グラムあたり6495円をつけました。もっとも、6000円以上の価格はわずか3営業日だけのことであり、この値段で取引した投資家は、ほとんど居ないはずです。そこで、1980年1月の月中における平均価格をみると、1グラムあたり5200円から5300円程度です。少なくともこのレベルは抜いてくるのではないでしょうか。
− コモディティに投資する場合、どのような投資手段を用いれば良いですか。
亀井氏
かつてコモディティに投資する場合は、先物取引か、金などの貴金属であれば現物で買うという方法しかありませんでしたが、ここ数年で投資手段は格段に増えてきています。
先物取引の場合、どうしてもレバレッジによってリスクが高めになりますし、限月という取引期限も設けられていますから、長期のインフレリスクヘッジ手段には向きません。そう考えると、やはりETFなどを用いてのコモディティ投資が、個人にとっては最も使いやすい方法だと思います。日々、取引価格が形成されていますし、金以外のコモディティに連動するETFもありますから、リスク分散が容易です。
コモディティ投資というと、どうしてもリスクが高いというイメージが強かったのですが、これからは自分の資産を守るという保険的な意味合いも含めて、コモディティ投資が必須になっていくでしょう。身近になったETFを活用して、コモディティ投資の世界を覗いてみてはいかがでしょうか。
掲載日:2010年月06月24日
亀井 幸一郎亀井 幸一郎(かめい・こういちろう)プロフィール
マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役
金融・貴金属アナリスト
中央大学法学部卒業。山一証券に8年間勤務後、日本初のFP会社で投資顧問会社MMI入社。92年世界的な金の広報・調査機関ワールド ゴールド カウンシル(WGC/本部ロンドン)入社。企画調査部長として経済調査、金市場のマーケット分析に従事。2001年マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役。「史観と俯瞰」をモットーに金融市場から商品市場、国際情勢まで幅広くウォッチしている。日経CNBCテレビ、ラジオNIKKEI、や金融メディアなどで幅広く市場分析をおこなっている。05年5月からブログ「亀井幸一郎の金がわかれば世界がみえる」を公開中)。
近著 「純金争奪時代(金に群がる投資家たちの思惑)(角川SSC新書)」2010年3月刊

 

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監修者:菅原 良介
編集者:K-ZONE money編集部

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