ストックオプション制度とは、役員や社員などが自社の株式を権利行使価格で購入できる制度です。ストックオプション制度を活用し、最適なタイミングでストックオプションの権利行使及び売却をすれば、株式投資の利益と同様の利益が得られます。
ストックオプションの権利を行使して株式を取得した場合、及び株式を売却した場合には株価と支払額の差額が給与所得扱いとなり、税金が発生します。ストックオプションには複数の種類があり、ストックオプションの税金の負担を少なくするためには「税制適格ストックオプション」がおすすめです。
税制適格ストックオプションは株式売却時に税金はかかるものの、権利を行使して株式を取得する際の税金は免除できます。
今回は、ストックオプションの概要や種類、税金対策、行使から売却までの流れについて解説します。
ストックオプションとは?
ストックオプションとは、役員や社員が権利行使価格で自社の株式を購入できる制度です。ただし、ストックオプション制度には、購入できる期間や数量には規定があります。権利行使価格とは株式を発行した企業があらかじめ定めた株式価格を指します。
ストックオプション制度を導入すれば、企業が成長し株価が上昇しても制度の対象となる従業員はあらかじめ定めておいた株価でお得に購入でき、株主優待や配当金などの利益も得られます。日本でも多くの企業がストックオプション制度を導入し始めています。
ストックオプションの仕組み
ストックオプションは以下の仕組みで成り立っています。
- 会社が役員や取締役に権利行使価格で購入できる権利を付与する
- 権利を付与された従業員は一定期間の経過後に、権利行使価格で自社の株式を購入する
- 株価が上昇したタイミングで株式を売却することで、差額分の利益を受け取れる
例えば、会社がストックオプション制度を導入し、対象者に「今後3年間であればいつでも300円で500株まで購入できる」という権利を付与した場合、権利付与後に会社が成長して株価が一株500円まで上昇すると、ストックオプション制度の対象者は一株あたり200円の利益が得られます。
ストックオプションの種類
ストックオプションには大別して「無償ストックオプション」と「有償ストックオプション」があります。無償ストックオプションとは、権利を付与する際に費用がかからないストックオプションであり、有償ストックオプションとは、権利を付与する際に費用がかかるストックオプションです。
有償ストックオプションの付与時に費用がかかります。無償ストックオプションの課税額が最大55%なのに対して、有償ストックオプションの課税額は譲渡所得の約20%です。
無償ストックオプションは「無償税制適格ストックオプション」「無償税制非適格ストックオプション」「1円ストックオプション」「信託型ストックオプション」に分けられます。それぞれの特徴は以下の表の通りです。
種類 | 特徴 |
無償税制適格ストックオプション | 適格要件を満たした場合に限り、権利行使時の課税が免除される |
無償税制非適格ストックオプション | 適格要件は設けられていないが、権利行使時に給与課税が最大55%課せられる |
1円ストックオプション | 無償税制非適格ストックオプションの一種。行使価格を一円に設定し、主に退職金として使われる。 |
信託型ストックオプション | 発行したストックオプションを信託機関に預け、期間満了後に貢献度に応じてストックオプションが交付される。税制上は有償ストックオプションとして扱う。 |
信託型ストックオプションはストックオプションを、会社への貢献度に応じたポイントとして対象の従業員に付与します。そして、信託期間の満了後にポイントに応じたストックオプションが割り当てられるという特殊な仕組みです。
最近新たに登場したストックオプションであり、権利行使額は信託契約の開始時の数値を扱うことや、割当先を後から決められる特徴があります。
そもそもなぜストックオプション制度が導入されるのか?
従業員のモチベーションの向上や資金負担なく人材の確保ができるといったメリットがあるため、ストックオプション制度はさまざまな企業に導入され始めています。ストックオプション制度はメリットだけではなく、株価下落や既存株主の株式価値の低下などのデメリットもあります。
ストックオプション制度のメリットだけではなくデメリットも把握した上で導入を検討しなければなりません。
ストックオプション制度導入のメリット
ストックオプション制度の導入には以下のようなメリットがあります。
- 従業員のモチベーションが向上する
- 優秀な人材を確保する際の資金負担を軽減しやすい
ストックオプション制度の導入には従業員のモチベーションが向上するというメリットがあります。理由は、ストックオプション制度があると、会社が成長して株価が上昇するほど自身の利益も多くなるためです。仕事の成果が自身の収入に繋がるため、モチベーションが向上しやすくなります。
また、確保したい人材に対してストックオプション制度をアピールできるため、優秀な人材を確保する際の資金負担を軽減しやすいメリットもあります。通常、優秀な人材を確保するためには相応の報酬が必要ですが、ストックオプション制度をアピールすれば将来的な株価の上昇を期待する人材の確保が見込めます。
ストックオプションのデメリット
ストックオプション制度の主なデメリットは以下の通りです。
- 株価下落の恐れがある
- 既存株主が保有している株式価値が低下しやすい
前述の通り、ストックオプション制度には従業員のモチベーション向上のメリットがあります。しかし、株価が上昇しなければ、モチベーションが低下してしまうというデメリットもあります。従業員のモチベーションが下がってしまうと、業績悪化が悪化し更に株価が下落してしまうというサイクルに陥る可能性もあります。
また、既存株主の保有している株式価値が低下しやすいこともストックオプション制度のデメリットです。ストックオプションを大量に発行すると株式の価値は低下します。株式の価値が低下すると株を売る人が増え、結果的に株価の下落にもつながります。
このような事態を防ぐためにも、発行するストックオプションの量が多くなり過ぎないよう気をつけましょう。
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ストックオプションにかかる税金は?
ストックオプション制度には税金が発生します。有償ストックオプションで税金が発生するタイミングは、株式を売却した際、約20%程度の譲渡所得税が利益に対してかかります。
無償ストックオプションでは、権利を行使したタイミングの時価と権利行使価格との差額が給与所得扱いとなるため、所得税が課税されます。その後、株式を売却した際にも発生した利益が譲渡所得扱いとなるため、譲渡所得税が課税されます。
ただし、権利行使時の課税は必ず発生するわけではありません。無償税制適格ストックオプションであれば権利行使時の税金が免除されます。
権利行使時の課税が免除される税制適格ストックオプション
税制適格ストックオプションは、税金の優遇措置の対象となるストックオプション制度です。税制適格ストックオプションの概要や要件、課税時期は以下の表の通りです。
概要 | 要件 | 課税時期 |
・ストックオプションの権利行使時にかかる税金の免除 ・株式売却時にかかる税金は対象外 |
「付与対象者要件」「権利行使期間要件」「権利行使価額要件」「権利行使価額の制限の要件」「譲渡禁止規定」「保管委託要件」の全ての要件を満たしていなければならない | 株式の売却時のみ |
税制適格ストックオプションを適用すれば、ストックオプションの権利を行使した際に発生する税金が免除されます。
ただし、株式売却時に得た利益は課税対象であり、税率20.315%の譲渡所得税を納税しなければなりません。税制適格ストックオプションの付与対象は、自社または子会社の取締役と従業員に限られています。監査役や大口株主は対象外となるため注意しましょう。
また、権利行使期間は付与決議日から2年が経過した日から10年以内に設定しなければならないという「権利行使期間要件」にも注意が必要であり、権利行使額は年間1,200万円以下でなければなりません。
税制適格ストックオプションの適用には、発行するストックオプションに対して譲渡禁止である旨が明記してあること、および事業者が証券会社や金融機関に対し保管委託契約を締結しておく必要があります。
さらに、税制適格ストックオプションを付与した際は税務署に「特定新株予約権等の付与に関する調書」と「特定新株予約権等・特定外国新株予約権等の付与に関する調書合計表」を提出しなければなりません。提出期限は付与した年の翌年1月31日までです。
このように、税制適格ストックオプションには6つの要件が設けられており、全ての要件を満たしたストックオプションのみが対象です。
税制非適格ストックオプション
制非適格ストックオプションとは、無償ストックオプションの中で、権利行使時にも税金が発生するストックオプションです。税制非適格ストックオプションの概要や要件、課税時期は以下の表の通りです。
概要 | 要件 | 課税時期 |
権利行使時と株式売却時に課税対象となる | 特別な要件はなし | ・ストックオプションの権利行使時 ・株式の売却時 |
税制非適格ストックオプションは税制適格ストックオプションのように要件が複数定められていないため、比較的導入しやすいストックオプションですが、株式の売却時の譲渡所得税のみでなく、権利を行使した際に購入時点の株価(時価)と権利行使価格の差に対して所得税が発生します。
税制非適格ストックオプションは税制適格ストックオプションに比べて要件はないものの、権利行使時と株式売却時の二回、課税が行われるため税制上の大きな負担があります。
ストックオプションを行使する方法
ストックオプションを行使し、権利行使価格よりも時価が高いタイミングで、株式を売却すると利益を得られます。ストックオプションの行使及び、株式を売却して利益を得るためにはいくつかの手続きがあり、権利を行使するタイミングや売却するタイミングの見極めが重要です。
この章では、ストックオプションを行使してから株式を売却するまでの手続きの流れや、行使または売却するタイミングを解説します。
ストックオプション行使から売却までの手続きの流れ
ストックオプションを行使してから、株式を売却するまでの手続きの流れは以下の通りです。
- 証券会社などにストックオプションのための口座を開設する
- 口座開設が完了次第、会社にストックオプションを行使する旨を伝える
- 会社が指定する口座に資金を振り込む
- 証券会社などが株式購入の手続きをする
- 株式を売却したいタイミングで、証券会社のサイトなどから売却を申し込む
ストックオプション用の口座は、税制適格ストックオプションを利用する場合にのみ必要です。税制適格ストックオプションの条件の1つである、「保管委託要件」を満たすために事業者が契約を結んでいる証券会社、金融機関にて口座を開設しましょう。
なお、税制適格ストックオプションを行使する際は、株式の売却時には譲渡所得税がかかるため、確定申告が必要です。
一方で、税制非適格ストックオプションでは、「保管委託要件」を満たす必要がないため、ストックオプション用の口座を開設する必要はありません。
税制非適格ストックオプションは、行使時の時価と権利行使価格の差額は給与所得として扱われ、源泉徴収の対象となるため、この時点では確定申告の必要はありません。購入した株式を金融機関や証券会社に預けた場合には、変わらず確定申告の必要はありませんが、株式の売却時には譲渡所得税がかかるため確定申告が必要です。
ストックオプション用の口座が必要かを判断するために、勤めている会社のストックオプションが税制適格ストックオプションなのか、税制非適格ストックオプションなのかあらかじめ会社に確認しておきましょう。事前に確認した上で税制適格ストックオプションであれば手順①から、税制非適格ストックオプションであれば、手順②から手続きを進めます。
ストックオプションを行使するタイミング
ストックオプションで利益を得るためには、株式を売却する適切なタイミングを知っておかなければなりません。ストックオプションを行使するタイミングに決まりはありませんが、売却時の利益を得るために株価がストックオプションで定められている金額を上回っている時を狙いましょう。
ストックオプションを売却するタイミング
ストックオプションを売却するタイミングにも決まりはないため、ストックオプションを売却するタイミングは個人が自由に決めても問題ありません。ストックオプションで利益を得るうえで、ストックオプションを売却する最適なタイミングは株価が期待していた価格まで上昇したタイミングです。
ただし、利益を少しでも多くしたいからと上昇を待ち続けていると、株価が下がってしまうリスクがある点には注意しましょう。
また、株式売却の際にはインサイダー取引にも注意が必要です。従業員、特に役員や取締役は内部の情報も細かく把握している場合がほとんどで、まだ外部には出していない重要な情報を把握している場合も少なくありません。株価変動の材料となる情報が公表される前に株式取引をすることは、インサイダー取引は金融商品取引法によって規制されています。
インサイダー取引の規制対象となるのは上場投資法人(J-REITの発行者)とその資産運用会社、親会社です。
まとめ
自社の株式を購入し、購入した株式を売却して利益が得られるストックオプション。ストックオプションで利益を得るためには、権利を行使するタイミングや、購入した株式を売却するタイミングを意識することが重要です。
また、基本的にストックオプションは権利行使時及び株式の売却時に税金が発生します。税金の負担を減らして利益を多く獲得するためには、税制適格ストックオプションがおすすめです。
ストックオプションを上手く活用して利益を得るためにも、会社の株価や評価を高めましょう。
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よくある質問
Q | ストックオプションによる1株ごとの権利行使価格の相場は? |
A | 租税特別措置法により、契約締結時の株価以上と定められています。 |
Q | ストックオプションのリスクは? |
A | 投資にリスクはつきものです。ストックオプションにも売却損のリスクがあります。 |
Q | ストックオプションの対象者は? |
A | 取締役や役員など、その企業に勤める従業員です。 |
Q | ストックオプションは何所得? |
A | 権利行使時の権利行使価格と時価の差額は「給与所得」、売却時は「譲渡所得」です。 |