2023年2月現在、少子化対策の強化をめぐり、政府は児童手当の所得制限撤廃や対象年齢の引き上げなどの具体的な検討を進める方針です。
現在の児童手当には所得制限があり、一定の所得を超えると給付額が減り(特例給付)、所得制限の上限を超えると児童手当は給付されません。所得制限に関する報道では、960万円や1,200万円などの年収を見ることがありますが、実際には所得制限の基準は人によって異なります。
児童手当をいくら受給できるか把握するために、児童手当の基準所得の計算方法や世帯に応じて所得制限額がどう変わるのか理解しておきましょう
児童手当の基準所得計算方法
児童手当は前年の所得が基準となります。対象となるのは世帯年収ではなく、基準所得が高いほうを基準とします。基準所得額と所得制限限度額を比較して、所得制限限度額未満である場合、子ども1人につき10,000円~15,000円(下表参照)が給付されます。
児童の年齢 | 児童手当の額(月額) |
3歳未満 | 一律 15.000円 |
3歳以上〜小学校終了前 | 10,000円(第3子以降は15,000円) |
中学生 | 一律 10,000円 |
児童の年齢 児童手当の額(月額) 3歳未満 一律 15,000円 3歳以上~小学校修了前 10,000円(第3子以降は15,000円) 中学生 一律 10,000円
※「第3子以降」は高校卒業までの養育している子供のうち、3番目以降の子どもです
参考:内閣府「児童手当Q&A Q1.児童手当の支給額はいくらですか?」
児童手当の所得制限に関する基準所得の説明をする前に、基本的な所得税の計算の流れを確認しておきましょう。児童手当の基準所得計算方法も考え方は同じなので理解しやすくなります。
【所得税計算のステップ】
- 10種類それぞれの所得を計算する(一般的な会社員の方であれば給与所得)
- 所得を合算して課税標準を計算
- 課税標準から所得控除を差し引いて課税所得金額を計算
- 課税所得金額に税率をかけて所得税額を計算
- 所得税額から税額控除を差し引いて納税額を計算
所得は一般的な会社員の方が受け取る給与所得や、退職金を受け取った時の退職所得、株の売買を行ったときの譲渡所得など10種類の所得が存在します。それぞれの所得を合算して課税標準を計算します。
課税標準から所得控除を差し引くと課税所得金額がわかります。これに税率をかけて所得税額を計算します。所得税の計算では最後に税額控除を差し引いて納税額が決まります。
このうち、児童手当の所得制限対象になるかを判断する基準所得の計算は③の部分です。基準所得は給与支払額(いわゆる年収)ではありません。具体的には以下のように計算します。
【基準所得の計算方法】
基準所得 = 所得額 - 控除額 - 8万円(児童手当法施行令第3条)
会社員の方の場合、給与所得額は源泉徴収票を確認してください。「給与所得控除後の金額」欄の金額が所得額になります。給与以外に所得(配当、株や土地・建物の売却益、賃貸収入など)がある場合はそれも合算してください。
控除額は以下のようなものが該当します。(児童手当の基準所得計算では基礎控除は差し引きません)
控除種類 | 控除額 |
雑損控除 | 人により異なる |
医療費控除 | |
小規模企業共済等 掛金控除額 | |
障害者控除 | 27万円(特別障碍者控除は40万円) |
寡婦(夫)控除 | 27万円(特別寡婦控除は35万円) |
勤労学生控除 | 27万円 |
最後の8万円は不思議な数字に感じますが、児童手当法施行令
に定められている金額なのでこのまま利用します。このように計算した基準所得を所得制限限度額と比較します。参考:児童手当法施行令
児童手当における所得制限額の計算式
基準所得と比較する所得制限限度額は扶養親族(主に一緒に生活している所得が一定以下の家族)の数によって変わります。扶養親族が多いほど所得制限限度額も大きくなるため、所得が多くなっても所得制限に該当しにくくなります。(扶養親族の数は前年の12月31日時点の人数となります)
扶養親族等の数 | 所得制限限度額 | 所得上限限度額 | ||
所得制限限度額 (万円) |
収入の目安 (万円) |
所得制限限度額 (万円) |
収入の目安 (万円) |
|
0人 (前年末に子どもが生まれていないなど) |
622 | 833.3 | 858 | 1,071 |
1人 (子ども1人、配偶者に一定以上の所得がある場合など) |
660 | 875.6 | 896 | 1,124 |
2人 (子ども1人、配偶者の所得が一定以下の場合など) |
698 | 917.8 | 934 | 1,162 |
3人 | 736 | 960 | 972 | 1,200 |
4人 | 774 | 1,002 | 1,010 | 1,238 |
5人 | 812 | 1,040 | 1,048 | 1,276 |
参考:内閣府「児童手当制度のご案内」
所得制限限度額(初頭上限限度額も同様)は、扶養親族等の数が0人の622万円(所得上限は858万円)を下限として、扶養親族が1人増えるごとに38万円ずつ増えていきます。
児童手当の見直しや所得制限撤廃のニュースでは世帯主の年収が960万円程度や1,200万円程度といった数字で報道されることがありますが、これは扶養親族の数が3人の場合を指しています。扶養親族の数によっては年収がそれより少なくても所得制限に該当する場合もあるので注意しましょう。
上で計算した基準所得と扶養親族の数を考慮した所得制限限度額を比較した結果、所得制限限度額未満であれば額面通りの金額が支給されます。
所得制限限度額以上で所得上限限度額未満(上表左右の数字の間)である場合、特例給付の対象となります。特例給付は子ども1人当たり一律5,000円です。
基準所得が所得上限限度額を超える場合、児童手当は支給されません。ただし、児童手当が支給されなくなった後に所得が上限限度額を下回った場合は再度請求書を提出すれば手当を受け取ることができます。
まとめ:所得制限の計算方法を理解しましょう
児童手当の所得制限は世帯年収ではなく、所得が高いほうが基準となります。そのため、世帯年収はもっと高い家庭があるのに自分たちはもらえないといった不公平感が出ているのも事実です。児童手当以外の手当でも所得制限の基準が一律ではなく線引きは曖昧です。
児童手当は所得制限撤廃の動きも進んでいます。まだ具体的な内容は決まっていませんが、報道される年収の数字だけを見るのではなく、自分自身のケースで考えて所得制限に該当するのかをチェックしてみましょう。
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よくある質問
Q | 児童手当の共働きの計算方法は? |
A | 共働きの場合、世帯年収ではなく所得の高いほうを基準とします。仮に夫の年収が800万円で妻の年収が600万円(いずれも所得制限限度額未満)だとします。この場合、収入合算すると上限を超えますが、夫の年収を基準に考えるので所得制限には該当しません。 詳しくは「児童手当の基準所得計算方法」を参照。 |
Q | 児童手当の所得制限の年収目安ってどのくらい? |
A | ニュースでよく報道されている960万円、1,200万円は扶養家族が3人(子ども2人と専業主婦など)の場合です。子ども1名(共働き)の場合であれば875万円程度が所得制限限度額になります。(当記事内を参照してください) 詳しくは「児童手当における所得制限額の計算式」を参照。 |
Q | 児童手当の所得の範囲は? |
A | 給与所得以外にも、配当所得や不動産所得、譲渡所得など、全ての所得が対象となります。 |