生命保険の解約返戻金は状況によって税金の扱いも変わってきます。確定申告が必要になる場合もあるので、実際に返戻金を受け取ったときに慌てないように自分の場合はどうなるのかを事前に確認しておきましょう。
この記事では解約返戻金の税金の扱いや、それぞれの計算方法を解説するので参考にしてください。
解約返戻金に税金がかかる場合は?
解約返戻金とは、保険金の支払事由がないまま保険を解約すると保険会社から契約者側に返されるお金のことです。生命保険の解約返戻金は状況によって「所得税」がかかる場合と「贈与税」がかかる場合があります。所得税になる場合、解約返戻金は「一時所得」として計算します。
所得税の場合、保険会社へ支払った保険総額よりも解約返戻金のほうが50万円以上多くなると課税対象になります。贈与税の場合は(他に贈与がない場合)、110万円が判断基準です。
確定申告が必要になる場合もあるので、どのような税金がかかるのか確認しておきましょう。
解約返戻金にかかる税金を判断する方法
まず、「所得税」なのか「贈与税」になるのか判断します。これは簡単です。
契約者と受取人が同じ場合は「所得税」となり、契約者と受取人が異なる場合は「贈与税」となります。このとき、被保険者(保険契約の対象になる人)は誰でも構いません。
契約者と受取人が異なるケースとしては、保険料の負担者(契約者)と保険契約の対象者、保険金受取人として設定されている人が異なっていることが挙げられます。 具体的には、夫が契約者となって加入者である妻の保険料を支払っている場合や、親が契約者となって加入者である子供の保険料を支払っている場合などが考えられます。
受取金額が利益になった場合は所得税
契約者と受取人が同じ場合で、保険会社へ支払った保険金額よりも受け取る解約返戻金のほうが50万円以上大きいと課税対象になります(計算方法の詳細は後述)。
支払った保険料と解約返戻金の差異による利益が出ていない場合は課税対象にならないので安心してください。解約返戻金で利益がでるのは、終身保険で保険料を全て払い込んだあとに解約した場合や、変額保険で大きく運用益が出ている場合などです。また、ドル建て保険の場合、円安時に解約したほうがお得になるケースが考えられます。
贈与税が発生する場合もある
保険料の負担者と解約返戻金などの受取人が異なる場合のお金は「みなし贈与財産」と言われています。この場合は贈与税の対象となります。
この記事では基礎控除が110万円である通常の贈与制度「暦年課税制度」(※1)で説明しますが、贈与税には「相続時精算課税制度」(※2)という制度もあり、暦年課税制度との選択適用(つまり相続時精算課税制度を選ぶと暦年課税制度は使えない)となっています。
贈与税は制度自体が少し複雑なので、何を選択するのが一番よいのか事前に検討することをおすすめします。FPや専門家に相談するのも良いでしょう。
※1:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
※2:国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」
解約返戻金に確定申告は不要?
解約返戻金などの所得があった時には基本的に確定申告が必要になりますが、条件によっては確定申告が不要になる場合があります。
ただし、確定申告の要・不要は解約返戻金の所得金額だけでは決まらないことに注意してください。簡潔にいえば給与所得と退職所得以外の所得が一定金額を超えると確定申告が必要になります。
確定申告が不要な場合
確定申告が不要になる場合は給与所得と退職所得以外の所得が20万円以下の場合です。これは、解約返戻金だけでなく一般的な確定申告が不要な条件(※3)です。
厳密には他の条件もありますので、詳細は以下の国税庁のHPを参考にしてください。
※3:国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」
給与所得と退職所得以外の所得が20万円以下
一般的な会社勤めの方やアルバイト・パートの方で関係するのが20万円の所得があるかどうかです。20万円を超えた場合には確定申告が必要です。
ただし、この20万円というのは解約返戻金だけでなく給与と退職所得以外の所得の合計です。解約返戻金が20万円を超えていても、他の一時所得でマイナスがある場合は一時所得内で内部通算できます。これが20万円を超えず、他の所得がなければ確定申告は不要です。自分の所得金額を確認しておきましょう。
また、所得の種類を超えて損失(マイナス)と利益(プラス)を相殺することを「損益通算」と言いますが、一時所得は損益通算できない所得です。(※4)
※4:国税庁「No.2250 損益通算」
確定申告が必要な場合
確定申告が必要な主要な条件
- 1か所から給与の支払を受けている人で、給与所得および退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える人
- 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
- 2か所以上から給与の支払を受けている人のうち、給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、年末調整されなかった給与の収入金額と給与所得および退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超える人(※注)
- 源泉徴収義務のない者から給与等の支払を受けている人
- 退職所得について正規の方法で税額を計算した場合に、その税額が源泉徴収された金額よりも多くなる人
(※注)給与の収入金額の合計額から、雑損控除、医療費控除、寄附金控除、基礎控除以外の各所得控除の合計額を差し引いた金額が150万円以下で、かつ、給与所得および退職所得以外の所得金額が20万円以下の人は、申告の必要はありません。
一般的な会社勤めの方で確定申告が必要なのか疑問に思う方の回答となるのが1つ目の内容です。先ほど説明した通り、給与所得と退職所得以外の所得の合計が20万円を超えた場合、確定申告が必要になります。
つまり、解約返戻金の一時所得が20万円をこえていなくても、他の所得(例えば株式を売却した時の譲渡所得など)が20万円を超えていれば確定申告が必要です。
また、一時所得を含め給与所得と退職所得の合計が20万円を超えていなくても、そもそも確定申告が必要な条件(例えば収入が2,000万円を超える人など)に合致していれば当然確定申告をしなければなりません。
※3:国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」
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解約返戻金にかかる税金の計算方法
解約返戻金の税金計算は所得税と贈与税で変わります。どちらも特別控除や基礎控除などがあるので、利益がそのまま課税対象になるわけではありません。
所得税の場合は解約返戻金単独ではなく、他の所得も併せて課税標準が決まります。贈与税の場合は、他の贈与がなければ解約返戻金の利益から贈与税額を計算します。
所得税の場合は「一時所得金」か「雑所得」として計算する
解約返戻金の場合は「一時所得」となりますが、満期保険金を年金で受け取る場合などは「雑所得」となります。雑所得は主に公的年金などの年金が該当する所得種類です。
ちなみに年金保険を受け取っている途中で受取人が死亡した場合、遺族が取得した残りの保証期間の年金受給権は相続税の課税対象となります。
計算式と課税例
所得税(一時所得)の課税対象になる計算と金額は以下の通りです。
一時所得 = (解約返礼金 ー 払込保険料) ー 50万円(特別控除)
解約返戻金のほうが50万円以上多いと課税対象になると説明したのは特別控除分の控除があるからです。この計算で課税対象となった一時所得の1/2が他の所得と合算されて所得税の課税標準となります。
例)500万円の解約返戻金 払込保険料が400万円だった場合
一時所得 = (500 ー 400) ー 50 = 50万円
他の所得と合算される金額 = 50万円 × 1/2 = 25万円
この場合、25万円が他の所得(例えば給与所得など)と合算される金額となります(他の所得と合算するのは、一時所得が総合課税対象のため)。
雑所得として個人型年金を受け取っている場合の計算式は以下のようになります。
雑所得 = その年に受け取る年金額 - 必要経費(※)
※必要経費 = その年に受け取る年金額 × (払込保険料総額 / 年金受取総額(または見込み額))
例)年金額が100万円、総支給見込額が1,000万円、払込保険料が800万
100万円 - (100万円 × 800万円 / 1000万円) = 20万円
贈与税の場合の計算式と課税例
生命保険の解約返戻金も含めた一般的な贈与税の計算式は以下の通りです。
贈与税額 = (課税価格 ー 110万円(基礎控除))× 税率
110万円が基礎控除となるので、それ以上の金額を受け取る場合、贈与税の課税対象が発生します。基礎控除後の金額に税率をかけるところが1つ目のポイントです。
贈与税では、一般税率と特例税率の2種類があります。条件に合った税率を選ぶのが2つ目のポイントです。特例税率を適用できる条件は「財産の贈与を受けた年の1月1日現在において18歳(※)以上の子や孫が父母または祖父母から贈与を受けた場合」です。
※令和4年3月31日以前の贈与については20歳
参考:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
法人保険の解約返戻金に税金がかかる場合
法人が保険金を受け取った場合は、全額「雑収入」として益金に算入され、法人税の課税対象となります。
受取金額が利益になった場合
受取金額が利益となった場合は雑収入として法人税の課税対象となります。ただし、保険料が資産計上されている場合は保険金から資産計上されている分の保険料を差し引くことができます。
基本的な考え方として、終身保険や年金保険などの貯蓄型保険で保険金の受取人が法人の場合、資産計上できます。ただし、支払保険料が資産計上できるのか、損金算入となるかは状況によって異なります。
例えば、契約者=法人、被保険者=役員・従業員とする養老保険(生命保険の一種)で一定の条件を満たせば支払保険料の1/2を経費(福利厚生費)にすることができるハーフタックスプラン(1/2養老保険)というものもあります。この他にも最高解約返戻率などによっても資産計上と損金算入の割合が変わったりします。
このように、法人の生命保険と税金は個人よりもかなり複雑になっています。
参考:国税庁「第3節 保険料等」
まとめ
生命保険の解約返戻金は、状況によって所得税になったり贈与税になったりします。確定申告が必要になる場合もあるので、自分の保険内容や解約返戻金の状況を把握して、どのように計算するかを理解しておきましょう。
監修者:菅原 良介
編集者:K-ZONE money編集部
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よくある質問
Q | 解約返戻金の確定申告をしない場合はどうなる? |
A | 確定申告が必要なのにしていない場合、延滞税が徴収されることもあります。解約返戻金を受け取ったことによる一時所得が20万円以下であるため確定申告をしなかった場合でも住民税の申告が別途必要になる場合があります。 詳しくは「解約返戻金に確定申告は不要?」を参照。 |
Q | 一時所得はいくらまで非課税? |
A | 一時所得は50万の特別控除があるため、一時所得が50万円までなら税金はかかりません。ただし、一時所得内で内部通算ができるので、解約返戻金だけで判断はできません。 |
Q | 満期保険金と解約返戻金の税務は同じ? |
A | 満期保険金を一時金で受領した場合、一時所得となるため解約返戻金と同じです。年金として受け取る場合は雑所得となります。なお、以下の一時払養老保険等の満期保険金や解約返戻金は源泉分離課税が適用されます。
参考:国税庁「No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき」 |