休業補償は、勤務中や通勤中に発生した病気やケガである労働災害に伴う、休業期間の医療費や生活費を補償する目的で給付されます。
給付金額は所定の方法で算出された平均賃金の80%で、職場復帰し、かつ賃金が平均賃金の60%を回復するまでは給付が継続します。
休業補償の給付条件は?
業務中や通勤中の病気やケガが原因で休業を余儀なくされた時には、休業補償を受給できます。受け取るための条件や、金額、期間はそれぞれ労働災害保険法に定められています。
まずは休業補償の給付条件についてみていきましょう。
受け取るための3つの条件
休業補償を受け取るための条件は次の3つです。
- 業務上及び通勤中に発生した、業務・通勤を原因とする病気やケガである
- 病気やケガが原因で働くことができない
- 賃金を受け取っていない
業務上もしくは通勤による病気やケガであるいわゆる「労働災害(労災)」であることが給付条件となります。労働災害に該当するかは医師の診断書が必要となるケースが多いので、医療機関にかかる場合にはあらかじめ診断書について相談しておくと良いでしょう。
また、「働くことができない」は在宅も含めて業務に就くことができないことを意味します。テレワークにしてしまうと給付条件から外れることには注意が必要です。
最後に賃金については、全く支払われない期間に加えて、金額が日割りベースで平均賃金の60%以下の期間も含まれます。平均賃金の60%以下の期間は完全には業務を全うできない状況にある「一部労働不能」の状態とみなされるためです。
平均賃金とは労働災害が発生した日以前の3ヶ月の賃金総額を該当期間の日数で割った金額です。(ただしボーナスや臨時に払われた賃金を除く)。以上を踏まえて給付対象となる期間を正確に把握しておきましょう。
受け取れる金額
給付金額は「給付基礎日給」の合計80%相当額となります。この給付基礎日給は平均賃金と同額です。
まず、通常の休業補償が給付基礎日額の60%となります。そこに給付基礎日額の20%が特別支援金として支払われます。特別支援金が支給されなくなる要件などはないので、賃金が全く発生していないケースにおいて、休業補償の支給金額は給付基礎日額の80%となります。
なお、一部労働不能で給付基礎日額の60%以下の賃金が発生している場合は、給付基礎日額とその期間に受け取った賃金の差額の80%が支給されます。
いつまで貰える?
休業補償の受給期間を算出する際は、労働災害が発生してから最初の3日間は「待機期間」となり支給対象から外れます。休業4日目から休業補償の支給対象日となります。
支給対象日の終了タイミングは休業が明けて、かつ賃金が給付基礎日額の60%を上回り「一部労働不能」の状態から外れた日となります。このように、職場復帰しても通院などの事情で賃金が減っている場合には支給されるケースがあるので注意しましょう。
なお、受給期間は月給制であっても、必ず1日単位で計算します。休業補償は労働災害に伴う休職中の医療費や生活費を補填してくれる役割を果たしますが、支給額は平均賃金より下がってしまうため、貯蓄を減らしたり、一時的に困窮する人も少なくありません。
もしもの時に備えて、医療保険や所得補償保険に加入しておくのがおすすめです。
休業補償と他の保険(休業手当・傷病手当・傷病手当金)との違い
休業補償と似た制度として休業手当や傷病手当、傷病手当金がありますが、それぞれ支給要件や支給される理由が異なるので、それぞれの制度の違いを理解して、自分の状況にあった手当や補償を申請しなければいけません。
それぞれの制度の違いをみていきましょう。
休業手当は会社の都合によるもの
休業手当は会社都合で従業員を働かせることができず、自宅待機させた場合に発生する手当金です。例として次のような状況の時に支給されます。
- 経営悪化による待機
- 資材不足や従業員不足などを使用者に責がある操業不能
- 天災を原因とする操業不能
なお、解雇予告期間中に自宅待機を命じられた場合には、休業手当が適用されません。この時は別の制度である解雇予告手当の支給対象となるので、両者を混同しないように注意しましょう。
傷病手当は雇用保険から支給
傷病手当は雇用保険から支給されるものであるため、失業者かつ就職する意思のある人が受け取れる手当です。具体的にはハローワークに求職の申し込みをした後に、病気やケガで15日以上仕事に就くことができなくなった時に支給されます。
したがって、職についている時に支給される休業補償と失業者を対象とする傷病手当を同時に受け取ることはありません。
傷病手当金は業務外の病気やケガが条件
傷病手当金は仕事に就いていて、病気やケガで休職している人が受け取れる手当ではありますが、業務外の病気やケガが原因であることが支給条件となっています。そのため、こちらも休業補償と併用することはありません。
このように、病気やケガによる欠勤でも、業務・通勤中かそれ以外かで支給対象となる制度が異なります。医師に相談して判断したもらった上で、適切な診断書を取得して手続きを進めるのが良いでしょう。
休業補償 | 休業手当 | 傷病手当 | 傷病手当金 | |
受給額 | 給付基礎日額の80%(うち休業特別支援金部分20%) | 平均賃金の60%以上 | 賃金日額の45−80% | 標準日額の3分の2 |
受給期間 | 休業4日目から休業期間 | 休業期間中 | 基本手当を受けられる日数 | 支給開始日から最長1年6ヶ月 |
申請 | 必要 | 不要 | 必要 | 必要 |
所得税 | 対象外 | 対象 | 対象外 | 対象外 |
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休業補償の手続きについて
休業補償の手続きでは、会社への労働災害発生の事実の報告や、医療機関への受診、必要書類の作成などが必要となります。支給開始までには時間がかかるため早めに準備に取り掛かりましょう。
なお、万が一重症だった場合などは、自分が物理的に対応できないが故に手続き対応が遅れるリスクもあります。手続きを進められなければ、その間は収入が途絶えることになるのです。 休業補償を過信せず、所得補償保険などの保険に加入して自分でも備えておくのが有効です。
ここからは、休業補償の請求手続きについて説明します。
労働災害が発生したことを会社に報告
労働災害が発生したら、極力速やかに会社に報告しましょう。会社は労働災害の発生を労働基準監督署に報告する義務があり、これを怠ると会社に罰金が課されます。トラブルを誘発しないためにも早めに報告することが大切です。
労働災害の手続きのほとんどは遺族や会社でも進められるため、この後のプロセスを会社が進めてくれるケースもあります。その場合は会社の指示に従って必要な対応を行なってください。
以下では自分で対応するケースを想定して手続きプロセスを紹介します。
労働基準監督署に書類を提出
業務中の労働災害は「休業補償給付支給請求書(様式第8号)」を、通勤中の労働災害は「休業給付支給請求書(様式第16号の6)」を記入して、労働基準監督署に提出します。
いずれも記載内容はほぼ同じで、次の通りです。
- 労働保険番号
- 労働者の住所、氏名、性別、生年月日などの個人情報
- 病気・ケガに伴う休職期間 給付金の振込先情報
- 労働災害の発生日時や経緯 労働者の平均賃金
- (休業給付支給請求書のみ)通勤経路や通勤状況
なお、認定の過程で医師の診断書を求められる場合があります。いずれにしても診断書があったほうがスムーズなので、医療機関にかかる場合には、労働災害に当たることを証明する診断書を作成してもらうとよいでしょう。
このほか医療機関や勤務先に記入してもらう部分があります。自分が記入を終えたのちに医療機関に記入してもらい、その後勤務先に送付するとスムーズです。
労災認定を受けて給付開始
書類提出後は調査が行われ、特に疑義がなければ労働災害が認定され、休業補償の給付が開始されます。調査の所要期間によって受給タイミングは変わってきますが、1〜2ヶ月はかかるのが一般的です。
裏を返すと1〜2ヶ月は無収入となるリスクがあることを意味します。その間の生活費や医療費は一時的に自分で工面しなければなりません。より迅速に受け取れる医療保険や所得補償保険に加入して備えておけば、もしもの時にも安心です。
休業補償及び労災をめぐる対応について
休業補償は派遣社員の場合の対応や、給付金で医療費・生活費が賄えない場合、会社が労災隠しをしようとする場合などにトラブルになりがちです。ここではこれら休業補償においてトラブルになりがちな3つのケースの対応策を解説します。
派遣社員が休業補償請求を貰う場合
派遣社員やアルバイトでも休業補償は受け取ることが可能です。受給条件は正社員と何ら変わらないので、会社も働く人も見落とさないように注意しましょう。 なお、派遣社員の場合は、補償の請求先が派遣先か、派遣元かが契約内容によって異なります。
通常は派遣元になるケースが多いものの、あらかじめ確認した上で、適切な先に請求してください。
休業補償では賄えず会社に損害賠償請求をしたい
休業補償は平均賃金の80%までしか補償されません。これを上回る損害を受けたと考えられる場合には、会社を相手に損害賠償を請求することになります。
例えば次のような項目が「損害額」の根拠となり得ます。
- 入院雑費や物損などの損害
- 休業損害と休業補償で支給される部分の差額
- 慰謝料
- (死亡や重大障害などの場合)健康であれば将来得られたであろう逸失利益
なお、休業補償については特別給付金の20%は補償額に含めないものとされているため、差額を請求する場合の金額計算は、平均賃金の60%から行われます。 損害賠償を請求するときは、会社側に責任があるという客観的な証拠を集める必要があります。
労災専門の弁護士に依頼して、アドバイスや調停・裁判への対応をお願いしましょう。
会社が労災隠しをして休業補償を受け取れない
労働基準監督署に対する会社の労災隠しは違法行為であり、50万円の罰金が課せられます。しかし、イメージダウンや手続きの手間を嫌気して労災隠しを試みる会社もあります。このような場合は、速やかに管轄の労働基準監督署に相談して、休業補償の給付を促しましょう。
まとめ
休業補償は業務中・通勤中の病気やケガが原因で休職していて、給料が発生しないもしくは平均賃金の60%を下回っている状況において支給されます。労働者の医療費や生活費を補填してくれる存在です。
しかし、支給までには所定の手続きを行わなければならず時間がかかる上、もともと受け取っていた賃金全額は支給されません。
一方で、通院・入院が発生することを踏まえると、出費はむしろ普段より多くなる恐れすらあります。休業補償だけに依存せず、所得補償保険や医療保険に加入して、もしもの時の出費や生活費に充てられるようにしておく必要があります。
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よくある質問
Q | 休業補償はどれくらいのペースで振り込まれる? |
A | 厚生労働省が一括して休業補償の振込に対応していて、概ね1週間に一度のペースですが、厳密な振込日などは決まっていません。 詳しくは「いつまで貰える?」を参照。 |
Q | 給付に時間がかかるのはどんなケース? |
A | 最も多いのは請求書の不備で、医師の記入に不備があったり、平均賃金算出が誤っていたりというケースが多いです。また会社の対応が遅れて、労働基準監督署への請求書の提出が遅延する場合も意外に多いので、急ぐ場合は会社に早めの対応をお願いしましょう。 そのほか、請求内容に疑義があって調査が入るときは、数ヶ月から時には年単位の時間がかかることもあります。 詳しくは「休業補償の手続きについて」を参照。 |
Q | 退職したら給付は打ち切られる? |
A | 退職後も治療を継続し、かつ賃金をもらう労働に就けない場合には休業補償の給付が継続されます。仮に定年退職だとしても休業補償は受け取れるので、取りこぼしのないようにしましょう。 療養開始から3年が経過した時には、平均賃金の1200日分を「打切補償」として支払うことで給付を取りやめることが可能に。すなわち、退職後は完治もしくは別の企業に転職するか、打切補償の給付に至るまでは、退職後も休業補償の受給を継続できます。 |