東証の市場再編とは?プライム・スタンダード・グロース市場の新区分では何が変わる?

投稿日:2022/06/10 最終更新日:2023/03/10
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市場再編以前は東証一部、東証二部、JASDAQスタンダード、JASDAQグロース、マザーズの5つの市場に分けられていましたが、2022年4月に東証市場が再編されて新たに「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3つの市場になりました。新たな市場区分となったことで、それぞれの市場への上場条件、赤字上場の可否、TOPIXの構成銘柄も変更されています。

今回は、東証の市場再編の概要と新区分の特徴、市場再編によって投資家の行動に及ぼす影響などについて解説します。

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東証の市場再編とは?

東証の市場再編とは、5つに分けられていた東証の市場が、「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3つの市場に再編された市場区分の見直しを指します。市場再編により、各市場区分のコンセプトが明確になりました。また、上場および廃止に関する基準が変更されました。   
5つの東証の市場再編            
5つの東証の市場再編

5市場から3市場へ

これまで、東証には、東証一部・東証二部・JASDAQ スタンダード・JASDAQ グロース・マザーズの5つの市場がありました。しかし、2022年4月の市場再編により、3つの市場に絞られました。市場再編前の5つの市場に属していた銘柄は、市場再編によって以下のように振り分けられています。

  • プライム市場:東証一部のうち1,841銘柄
  • スタンダード市場:東証一部のうち344銘柄、東証二部、JASDAQ スタンダード
  • グロース市場:JASDAQ グロース、マザーズ

また、市場再編によって変わったのは、市場の数や銘柄の振り分けだけではありません。市場再編に伴って最上位市場への上場条件や赤字上場、上場廃止の基準、東証株価指数にも変化がありました。

それぞれの変更点は以下の表の通りです。 このように、規制が緩和されたものもあれば厳しくなったものもあります。

株式投資を始める際には、新たな制度や基準を把握するようにしましょう。 なお、新たな市場の概要については後ほど詳しく解説します。  

  市場再編前 市場再編後
市場の種類 東証一部、東証二部、JASDAQ スタンダード、JASDAQグロース、マザーズ  プライム、スタンダード、グロース
最上位市場への上場条件  時価総額250億円以上であること(新規上場) 流通時価総額が100億円以上であること
赤字上場 原則として一部では認められない 全市場で認められる
上場廃止の基準 1年以上で債務超過した場合 ・2期連続で債務超過した場合
・上場維持基準に抵触したまま改善しない場合
東証株価指数(TOPIX) 東証一部の全銘柄 プライム市場の流通時価総額100億円以上の銘柄 

市場再編した理由とは?

東証が市場再編した理由は、東証一部の銘柄が増えすぎたことと、各市場のコンセプトが明確ではなかったためです。それぞれの理由について詳しく解説します。

まず、東証一部の銘柄が増えすぎたことが市場再編の理由の一つです。 市場再編以前の日本の最上位市場は「東証一部」でした。2021年の年末時点の東証一部の銘柄数は2,000社を超えています。この銘柄数は31年前と比べると約2倍であり、東証一部の銘柄数が増えていることが分かります。

東証一部の銘柄が増えすぎたことで、日本株から世界の投資資金が遠のくといった悪影響が生じました。そこで、外国人の投資家を日本に再び呼び戻すことを期待して、東証は市場を再編しました。

また、市場の特徴が明確ではなかったことも市場再編の理由です。市場再編前のそれぞれの市場は、市場への上場基準は設けられていたものの、明確な特徴はありませんでした。 もちろん、東証一部は最上位市場であり、JASDAQやマザーズは成長企業が多いという大まかな特徴はあります。

しかし、明確に特徴が分けられていないため、初めて投資する人や外国人は区別がつかず、投資しにくいという事態が起きていました。 このような事態を脱却するために、3つの明確な特徴を持つ市場に分けることとなったのです。

このように、東証の市場再編は東証一部の銘柄が増えすぎたことと、市場の特徴が明確ではなかったことで、外国人の投資家からの投資が遠のいていたことを受けて行われました。  

新市場区分の上場基準

前述の通り、市場再編によって「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の新たな市場に分けられました。新市場になったことで、上場基準も変わっています。新市場区分の上場基準は以下の表の通りです。
 

  プライム市場 スタンダード市場 グロース市場
株主数 800人以上 400人以上 150人以上
流通株式数 2万単位以上 2,000単位以上 1,000単位以上
流通株式時価総額 100億円以上 10億円以上 5億円以上
時価総額 250億円以上 上場基準なし 上場基準なし
経営成績(収益基盤) 直近2年間の利益総額が
25億円以上であること、
または直近1年間の売上
高が100億円以上かつ
時価総額が1,000億円以上 
であること
直近1年間の利益が1億円 
以上であること
上場基準なし 
経営成績(財政状態) 50億円以上 上場基準なし 上場基準なし
流通株式⽐率 35%以上 25%以上 25%以上


このように、市場再編後の上場基準には株主数・流通株式数・流通株式時価総額・時価総額・経営成績・流通株式比率の6種類があり、上場するためにはそれぞれの市場に設けられている上場基準を全てクリアしていなければなりません。  

プライム市場とは  

プライム市場は、多くの投資家の投資対象になりうる流動性を持ち、持続的かつ中長期的な成長と企業価値向上にコミットする企業向けの市場です。市場再編前の東証一部の銘柄の一部の企業が対象であり、大型企業が多く上場する市場です。                   

プライム市場の特徴

プライム市場に上場している銘柄は、流動性・ガバナンス・経営成績/財政状態それぞれに関する3つの特徴があります。

  • 多様な機関投資家の投資対象としてふさわしい流動性を備えた銘柄
  • 安定株主が3分の2を占めることのない公開性を有する銘柄
  • 優れた収益基盤や財政状態を有する銘柄

プライム市場に上場するための主な条件は

  • 流通株式比率が35%であること
  • 株主数が800人以上であること
  • 流通株式時価総額が100億円以上であること

などです。なお、流通株式比率とは、市場で取引されている株式のうち流動性のある株式が占める割合のことです。

これらの上場条件を満たしている企業は1,838社です(2022年6月現在)。プライム市場に該当する銘柄の一例については後ほどご紹介します。

このように、新たに最上位市場となるプライム市場は、上場の条件として流通株式比率や株主数、流通株式時価総額などの数字が明確化されており、主に大型企業が所属しています。  

プライム市場で何が変わった?

東証一部に代わって新たな最上位市場となったプライム市場に残ることには、企業にとって以下のようなメリットとデメリットがあります。

  • メリット:コーポレートガバナンスを獲得できる
  • デメリット:コストの負担が大きい

プライム市場は、従来の東証一部に該当する最上位市場であるため、コーポレートガバナンスを獲得できるというメリットがあります。

国際的な知名度も高く、投資家から見ても安心感があるため、投資家から資金を調達しやすいという特徴があります。また、強靭なコーポレートガバナンスの獲得は、勤務している従業員や役員のモチベーションアップも期待できます。

しかし、コーポレートガバナンスが獲得できるというメリットだけではなく、コストの負担が大きいというデメリットもあります。プライム市場は同じ最上位市場であった東証一部よりも厳格な維持基準が設けられており、投資家向けの情報提供資料を多数作成しなければなりません。情報提供資料の作成に係る人件費はもちろん、従業員の負担も大きくなります。  

プライム市場の銘柄

市場再編後、プライム市場に適合する企業の一例をご紹介します。

プライム市場の上場条件を全て満たしており、プライム市場に適合する企業はマルハニチロ・味の素・積水化学工業・大塚商会・日本製鉄などです。一方で、東証一部に上場していた企業のなかで、プライム市場の上場条件を満たしておらずプライム市場に上場できない企業は、ヤマト・クックパッド・日本オラクル・トマト銀行・アサックスなどです。  

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スタンダード市場とは

スタンダード市場とは、端的にまとめると一定の時価総額があり、上場企業として平均的なガバナンス水準を備えている企業が該当する市場です。スタンダード市場には平均的な上場基準を満たしている企業が上場しています。       

スタンダード市場の特徴

スタンダード市場に上場している銘柄は、流動性・ガバナンス・経営成績/財政状態それぞれに関する3つの特徴があります。

  • ⼀般投資者の投資対象となるにふさわしい流動性を備えた銘柄
  • 上場会社として最低限の公開性を有する銘柄
  • 安定した収益基盤や財政状態を有する銘柄

スタンダード市場に上場するための主な条件は「流通株式数が2,000単位以上であること」「株主数が400人以上であること」「流通株式時価総額が10億円以上であること」などです。 これらの上場条件を満たしている銘柄数は1,459社です(2022年6月現在)。なお、スタンダード市場に該当する銘柄の一例については後ほど詳しくご紹介します。  

スタンダード市場で何が変わった?

企業がスタンダード市場に上場することのメリットとデメリットは以下の通りです。

  • メリット:ある程度のコーポレートガバナンスを獲得できる  
  • デメリット:新興企業と老舗企業の区別がつきにくい

まず、スタンダード市場に上場することで、プライム市場には劣るもののある程度のコーポレートガバナンスを獲得できます。なぜなら、スタンダード市場の上場基準のほとんどは平均的な数値が定められているためです。

ただし、安定株主による影響力も残されるため、株主総会などでは安定株主を中心とした意思決定も可能です。 しかし、スタンダード市場への上場には新興企業と老舗企業の区別がつきにくいというデメリットもあります。スタンダード市場内で差別化を図れないことは、特に老舗企業には大きなデメリットとなるでしょう。  

スタンダード市場の銘柄

市場再編後、スタンダード市場に適合する銘柄の一例を、東証一部、東証二部、JASDAQ スタンダード別にご紹介します。

  • 東証一部から移行
    • 片倉工業・ダイドーリミテッド・キムラタン・ツカモトコーポレーション・フィリシモ・はるやまホールディングス・白洋舎など
  • 東証二部から移行
    • 倉庫精錬・フジックス・ヤマキ・クロスプラス・ヤギ・コメ兵ホールディングス・ラオックス・さいか屋・日本和装ホールディングスなど
  • JASDAQ スタンダードから移行
    • 東邦レマック・ティムコ・フェスタリアホールディングス・買取王国・ANAP・ワークマン・きょくとうなど  

グロース市場とは

グロース市場とは、JASDAQグロース、マザーズから移行した企業が上場している市場です。グロース市場には、上場によって資金を調達して事業拡大を図り、プライム市場やスタンダード市場への上場を目指す企業が多く上場しています。                

グロース市場の特徴

グロース市場に上場している銘柄は、事業計画・流動性・ガバナンスそれぞれに3つの特徴があります。

  • ⾼い成⻑可能性を実現するための事業計画が策定されており、継続的に進捗状況が開⽰される銘柄
  • ⼀般投資者の投資対象として最低限の公開性を有する銘柄
  • 適切なガバナンス⽔準を有する銘柄

グロース市場の上場条件は、

  • 流通株式数が1,000単位以上であること
  • 株主数150人以上であること
  • 流通株式時価総額が5億円以上であること

です。プライム市場やスタンダード市場には他にもさまざまな上場条件がありますが、グロース市場は3つの上場条件を全て満たしていれば上場できます。

これらの条件を満たしており、市場再編後にグロース市場として上場する企業は473社です(2022年6月現在)。なお、グロース市場の銘柄の一例は後ほどご紹介します。  

グロース市場で何が変わった?

企業がグロース市場に上場するメリットとデメリットは以下の通りです。

  • メリット:現状の経営実績がなくても上場できる
  • デメリット:コストがかかる

グロース市場には、現状の経営実績がなくても上場できるというメリットがあります。プライム市場やスタンダード市場には、上場条件として現状の経営実績が含まれているため、経営実績が条件に満たない企業は上場できません。しかし、グロース市場の上場条件には経営実績が含まれていないため、上場のハードルが低いです。

しかし、上場するとコストがかかるというデメリットもあります。なぜなら、上場すると株主に対しての情報開示が義務付けられ、情報提供資料作成のコストがかかるためです。未上場時には必要なかったコストが発生することは、上場する上で大きなデメリットとなります。  

グロース市場の銘柄

市場再編後、グロース市場に適合する銘柄の一例は以下の通りです。

UUUM株式会社・株式会社メルカリ・株式会社ヤプリ・株式会社ジェイテック・BRUNO株式会社・株式会社フィット・株式会社地域新聞社・アミタホールディングス株式会社・株式会社アスカネット・ITbookホールディングス株式会社など

【関連記事】グロース株・バリュー株とは?違いと見分け方について解説 

市場再編による投資家行動への影響

東証の市場再編は、上場企業だけではなく投資家行動にも影響を及ぼします。そこで最後に、市場再編による投資家行動への影響について詳しく解説します。               

ポートフォリオの見直し

市場再編により、投資家のポートフォリオに大きな影響を及ぼします。ポートフォリオとは金融商品の組み合わせのことで、どの銘柄で何株持つかなどを検討することを指します。 市場再編がポートフォリオに影響する理由は、TOPIX(東証株価指数)の構成銘柄が変更されるためです。

TOPIXは、市場再編前は東証一部の全ての銘柄で構成されていましたが、市場再編後はプライム市場の流通時価総額100億円以上の銘柄によって構成されます。 このように、市場再編以前から株式投資をしていた投資家は、市場再編後のポートフォリオの見直しが必須です。

なお、TOPIXの構成銘柄は2022年4月の市場再編とともにすぐに行われるというわけではなく、2022年10月〜2025年1月にかけて段階的に移行されます。いきなりTOPIXが大きく変更されるわけではないため、TOPIXの移行に沿ってポートフォリオも見直していくと良いでしょう。  

まとめ

2022年4月の東証の市場再編により、新たにプライム、スタンダード、グロースの3つの市場に再編されました。市場再編によって各市場のコンセプトが明確化されたり、最上位市場のプライム市場の上場企業数が減少し、日本の投資家はもちろん外国人の投資家も区別がつきやすくなり、外国人の投資家からの投資も期待されています。 また、東証の市場再編はTOPIXの対象銘柄にも変更があり、投資家は今後ポートフォリオの見直しなどの対応が必要です。2022年10月からのTOPIXの移行に沿って市場再編に対応しましょう。

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