皆様は「信用取引」と聞くとどういったイメージがあるでしょうか。「損をする取引」「リスクが高い取引」というネガティブな印象を持つ方もいらっしゃるかと思いますが、信用取引の仕組みを正しく理解し、上手に活用することで皆様の株式投資のバリエーションを増やすことができます。今回は「信用取引の買いと売り」について詳しく見ていきましょう。
信用取引の仕組み
初めに、信用取引の基本的な仕組みを見ていきます。信用取引の最大の特徴は、担保となる委託保証金の約3.3倍まで取引をすることが可能であり、保有資産にレバレッジをかけて取引を行うことができる点です。また現物株式と同様に売買手数料がかかる他、信用取引特有のコストがある点には注意が必要です。信用取引にはお金を借りて株を買う「信用買い」と株を借りて売却する「信用売り」の2つがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
信用買いの場合
この図は信用買いの仕組みを表しています。矢印の流れを順番にご覧ください。投資家の皆様が信用買いをする際、証券会社に担保として手元の現金か、株や債券などの有価証券を預けます。これらの担保のことを「委託保証金」と呼びます。証券会社は預かった委託保証金に応じて株式の買付代金を貸し出し、投資家は証券会社から借りた買付代金で株式を買付します。このように、投資家が証券会社に委託保証金を差し入れ、借り入れた現金で株式を買付することを「信用買い」と言います。
買い建玉を保有している間は証券会社から買付代金を借り続けているため、証券会社に「金利」を支払います。
買い建玉を返済する場合
買い建玉を返済する方法は「売り返済」と「現引き」の2種類があります。まずは、売り返済を用いた返済方法を説明します。信用買いは「①担保(委託保証金)を証券会社に預ける⇒②証券会社から買付代金を借入する⇒③株式を買付する」という順番でしたが、信用買いを返済する際は「①買い建玉の株式を売却する⇒②証券会社に買付代金を返済する③B担保(委託保証金)を証券会社から受け取る」という逆の流れになります。このように、買い建玉を市場で売却し、証券会社に買付代金を返済する方法を「売り返済(転売)」と呼びます。
ここで問題になるのが、「証券会社には必ず借りた買付代金70万円を返済しなければならない」という点です。売却時にトヨタ自動車が80万円に値上がりしていた場合、証券会社への買付代金返済分70万円を差し引いた10万円が投資家の収益分となります。一方で、60万円に値下がりしていた場合、売却代金だけでは70万円の返済ができず、投資家の損失分の10万円を預けていた委託保証金50万円から補填することになり、手元に戻る委託保証金は40万円となります。
買い建玉の代金を支払い、株式を引き取る場合(現引き)
信用買いの返済方法として「売り返済」について説明しましたが、もう一つの方法として、「現引き(げんびき)」という方法があります。
さきほどの例を使うと、投資家は証券会社にトヨタ自動車の買付代金70万円を借り入れている状態なので、売り返済しなくても証券会社に現金70万円を準備して返済することで、トヨタ自動車100株を現物株式として引き受けることが可能です。
現引きのメリット
現引きのメリットとして、金利負担を抑えることができる点、損益を確定せずに現物株式を保有できる点の2点が挙げられます。
1点目については、投資家は買い建玉を保有している間は証券会社に借入代金に付する金利を支払い続けるため、手元資金に余裕がある場合は現引きをすることで金利コストを抑えることができます。
2点目については、短期売買から中長期の保持に切り替えられることです。トヨタ自動車が60万円に値下がりした際に売り返済すると10万円の損失分が確定しますが、現引きを活用することで「買付価格70万円のトヨタの現物株式」を保有することとなり、損益を確定せずに株価の再上昇機会を待つことが可能となります。
現引きのデメリット
一方、現引きのデメリットとして、証券会社に渡すための現金を用意する必要がある点が挙げられます。先ほどの例でも「手元の現金50万円でトヨタ自動車70万円を買付」としましたが、信用取引は手元の現金以上の株式を買付する際に利用するケースが多いです。このため、現引きのために追加で現金を準備することが困難な場合があります。
信用売りの場合
続いて信用売りです。図では信用売りの仕組みを表しています。矢印の流れを順番にご覧ください。投資家の皆様が信用売りをする際、信用買いと同様に証券会社に委託保証金を預けます。証券会社は預かった委託保証金に応じて売却するための株式を貸し出し、投資家は証券会社から借りた株式を市場で売却します。このように、投資家が証券会社に担保を差し入れて株式を借りて売却することを「信用売り」と言います。「空売り」という呼び方をする場合もあります。
信用買いと同じように、売り建玉を保有している間は証券会社から株式を借り続けているため、証券会社に「貸株料」を支払います。
売り建玉を返済する場合
信用売りの返済方法は信用買いと類似した「買い戻し」と「現渡し」の2つの方法があります。信用売りは「①担保(委託保証金)を証券会社に預ける⇒②証券会社から株式を借入する⇒③株式を売却する」という順番でしたので、信用売りを返済する際は「①売り建玉の株式を買付する⇒②証券会社に借入株式を返済する⇒ ③担保(委託保証金)を証券会社から受け取る」という流れになります。このように、売り建玉を市場で買付して返済する方法を「買い返済(買戻し)」と呼びます。
ここで問題になるのが、「証券会社にはトヨタ自動車100株を必ず返済しなければならない」という点です。買付時にトヨタ自動車100株が60万円に値下がりしていた場合、証券会社から株式を借り入れた際の売却代金70万円に対してトヨタ自動車を60万円で買付して、証券会社へ返済できるため、差し引いた10万円が投資家の収益分となります。一方で、トヨタ自動車100株が80万円に値上がりした場合、借り入れた際の売却代金70万円だけでは買付ができず、預けていた委託保証金50万円から投資家の損失分の10万円を補填した合計80万円でトヨタ自動車を買付して、証券会社へ返済することとなり、手元に戻る委託保証金は40万円となります。
保有している株式を返済して現金を引き取る場合(現渡し)
信用売りの返済方法として「買い返済」について説明しましたが、もう一つの決済方法として「現渡し(げんわたし)」があります。
先ほどのトヨタ自動車売りの例で言うと、投資家は証券会社にトヨタ自動車100株を借り入れている状態なので、買い返済しなくても証券会社にトヨタ自動車100株を準備して返済することで、売却代金70万円を受け取ることが可能です。
現渡しのメリット
現引きのメリットは金利負担等を抑えることができる点、損益を確定できる点の2点が挙げられます。
1点目については、、投資家は売り建玉を保有している間は証券会社に借入株式に付する貸株料等を支払い続けるため、手元に株式を保有している場合は現渡しをすることで金利コストを抑えることができます。
2点目については、トヨタ株式が値上がりした際に買い返済すると損失分が発生しますが、現渡しを活用することで「売却価額70万円でトヨタの現物株式を売却」したこととなり、信用売りした時点での株価での損益を確定することが可能となります。
現渡しのデメリット
一方、現渡しのデメリットとして、証券会社に渡すための株式を用意する必要がある点が挙げられます。先ほどの例でも「手元に株式を保有していないけれども売却」としましたが、信用売りは手元に株式を保有していない際に利用するケースが多いです。このため、現渡しのために株式を準備することが困難な場合があります。
まとめ
開始する際は証券会社に「委託保証金」を差し入れる必要がある信用取引。信用買いを返済する場合は「売り返済」と「現引き」、信用売りを返済する場合は「買い決済」と「現渡し」のそれぞれ2つの方法があります。それぞれの特徴を踏まえて利用することで株式投資の取引手法を増やしていきましょう。
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