そもそも米国はどういった金融政策運営をしている?
テーパリングについて知る上で、世界経済の中心である米国経済について知っておくことは必要不可欠です。そこでまずは、米国の金融政策運営について詳しく解説します。
米国の金融政策運営はFRBが行なっています。FRBとは「Federal Reserve Board」の略称で、「米連邦準備制度理事会」を指します。「米連邦準備制度理事会」とは、簡単に言えば米国の中央銀行のことです。
FRBは、米国経済の活性化を目標として、さまざまな金融政策を実施しています。例えば、リーマンショックを受けて米国で初となるQE1を実施し、コロナショックを受けて2020年3月にQE4を実施しています。QEとは、量的緩和政策を指します。コロナショックが発生した際、世界的に経済が大ダメージを受けましたが、QE4によって米経済が大きく回復しました。
このように、米国の金融政策を運営しているFRBは世界経済にも大きな影響を与えることから、投資においても動向を常に確認しなければなりません。
米国の中央銀行、FRBとは
FRBは、米国の中央銀行を指す言葉ですが、似た意味を持つ言葉として「FRB」があります。「FRB」とは「Federal Reserve System」のFederalの頭の部分を取った略称で、「連邦準備制度」を意味します。なお、頭文字を取って「FRS」と呼ばれることもあります。意味が似ているため混同してしまうかもしれませんが、両者は異なる意味を持ちます。
具体的には、FRBは中央銀行の中で意思決定をしている組織を指し、FRBは中央銀行制度を指します。どちらも中央銀行を指しますが、正確には意味が異なる言葉です。
FRB(連邦準備制度は、FRB(米連邦準備制度理事会)・各地区の連邦準備銀行・FRS(加盟銀行)・FOMC(米連邦公開市場委員会)・FAC(米連邦諮問委員会)で構成されています。
連邦準備銀行とは、米国の金融政策及び金融の安定化を目的とした中央銀行のことで、米国内大都市の12の地区ごとに構成されています。意思決定自体は米国から独立されているため米国政府の介入は行われませんが、理事会理事は米大統領が任命します。
FOMCとは「Federal Open Market Commitee」の略で、「連邦公開市場委員会」を意味します。通常、年8回定期会合が開かれますが、緊急時には臨時の会合が随時開かれています。
FOMCは、FRBの理事7人と連邦準備銀行から選ばれた5人に投票権が与えられており、公開市場操作の方針決定を行なっています。
FRBの目的は2つ
FRB(連邦準備制度)には以下の2つの目的(dual mandate)があります。
・物価の安定化 ・完全雇用の達成 |
例えば、通常景気が良くて失業率が低下している場合、賃金や物価は上昇します。しかし、景気が良くなり失業率が低下してくると、FRBが政策金利を引き上げて物価を安定させています。
また、失業率の低下を防ぐための金融政策も実施しており、2020年コロナショック時のロックダウン解除に伴い、失業率は低下傾向にあることがわかっています。とはいえ、人種別で見ると白人とアフリカ系、ヒスパニック系の差は大きく、多くの課題が残っています。
FRBの主な政策ツール
FRBや多くの中央銀行に共通する政策ツールには以下の2点が挙げられます。
・公開市場操作 ・政策金利の誘導 |
ここからは、それぞれについて詳しく解説します。
公開市場操作
公開市場操作とは、金融市場で手形や国債などを売買して市中に出回るお金の量を調整することです。例えば、中央銀行が公開市場操作によって国債などを積極的に買うと、金融市場に出回るお金は増えて金利は下がります。
一方で、中央銀行が公開市場操作によって国債などを売り始めると、金融市場に出回るお金は減少して金利が上がります。金利が下がれば物価が上昇しやすくなる金融緩和が起こり、金利が上がれば物価が下がりやすくなる金融引き締めが起こります。
このように、国内の経済がインフレまたはデフレ状態になると、公開市場操作によって経済の安定を図っています。実際、2008年のリーマン・ショックでは世界的な金融危機に対応するべく、フェデラルファンド金利を年0〜0.25%に誘導するためにゼロ金利政策を実施して世界経済の回復に成功しました。
政策金利(FFレート)の誘導
政策金利であるFFレートとは「フェデラル・ファンド(Federal Funds)レート」の略称で、フェデラル・ファンドとは連邦準備銀行に預け入れている無利息の準備金を意味します。つまり、FFレートとはフェデラル・ファンドが不足している際に、余裕のある銀行に無担保で資金を借り入れる際の金利のことです。
FFレートは、米国の景気が拡大している時は誘導目標を上げ、景気が減速している時は誘導目標を下げます。例えば、FFレートの誘導目標が引き上げられた場合、米国は景気が拡大しており、米国は景気拡大が行き過ぎないように金融引き締めをしています。
また、FOMCがFF金利の上昇を決定することを利上げといいます。利上げが行われると米国の金利が高くなり、他通貨の価値は下落します。なぜなら、資金は金利の高いところへ流れていくためです。
つまり、米国で利上げが行われると日本にも影響が出ます。例えば、2015年12月に行われた利上げの影響により、日本では2016年から円高の動きが急加速しました。これにより輸出関連企業は大打撃を受け、2016年の日経平均株価は低水準を記録しました。
このように、FFレートは米国のみならず世界経済に大きな影響を及ぼすため、FFレートの動きには特に注意が必要です。
量的緩和政策とは
量的緩和政策(QE)とは「Quantitative Easing」の略で、中央銀行が景気や物価の下支えを目的に、市場に資金を大量に提供する金融緩和政策のことです。通常の緩和策では政策金利が目標まで下がると買いオペを止めますが、量的緩和制作では政策金利が下がりきっても買いオペを続けるという違いがあります。
そんな量的緩和政策は2001年3月に日本でも初めて導入されました。これは、日本の中央銀行(日銀)が政策金利を約0%に引き下げたにも関わらず、景気回復が進まなかったためです。
具体的には、公開市場操作を実施して国債を大量に買い入れ、日銀の当座預金口座の残高を設定した目標額まで増加させる動きが行われました。
コロナショックからこれまでの政策展開
2020年の新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界経済に大きなダメージがありました。そこでここからはテーパリングについて説明する前に、世界経済の中心である米国がコロナショック前後にどのような金融政策をとってきたのかについて確認していきましょう。
コロナショック以前の政策展開
まずは、コロナショック以前の政策展開を振り返りましょう。米国ではリーマンショック以降、QE1・QE2・QE3の3度の量的緩和とゼロ金利政策で景気回復を促していました。
さらに2016年より利上げを段階的に開始し、資産縮小を行うなど、次第に金融政策の平常化の動きが見られていました。
コロナショック発生直後のFRBの対応
コロナショックにより、米国でも経済に大きな打撃を受けました。これに伴い、FRBでは何度も臨時のFOMCを開催し、対応策を迅速に決定しました。具体的には、緊急利下げや資産拡大(量的緩和)などの金融政策が行われました。
まず、緊急利下げは雇用の最大化と物価安定の2つの目標を支えるために行われ、パウエル議長は「経済にとって有意義な後押しとなることを信じている」と述べています。さらに利下げ後には資産拡大も行われました。具体的には、緊急のFOMCにてFRBによる7,000億ドルの保有資産額拡大が決定しました。声明文では、数ヶ月にわたって国債保有額を5,000億ドル以上、住宅ローン担保証券(MBS)を2,000億ドル以上増やすと発表しています。
なお、2020年のコロナショック直後の段階では、数年間にわたってこれらの緩和策を維持する予定でした。
2021年初からのインフレと金融政策
2021年後半になると、FRBは新たな動きを見せます。具体的には、6月までの現状維持という対応から一転、年内のテーパリングを示唆し、2021年11月から実行しました。また、利上げについても当初は2023年中を予定していましたが、22年中に前倒ししました。
さらに、2022年1月になると利上げの開始を2022年3月から開始することを示唆しています。このことから、資産縮小(緩和から引き締めへ)の開始も早まることが予測されています。
2021年後半から2022年にかけて
2021年後半になると、FRBは新たな動きを見せます。具体的には、6月までの現状維持という対応から一転、年内のテーパリングを示唆し、2021年11月から実行しました。また、利上げについても当初は2023年中を予定していましたが、22年中に前倒ししました。
さらに、2022年1月になると利上げの開始を2022年3月から開始することを示唆しています。このことから、資産縮小(緩和から引き締めへ)の開始も早まることが予測されています。
\ 楽天証券の口座開設はこちら /
テーパリングとは?今後の展開について
米国経済のこれまでの金融政策や、コロナショック以前の金融政策の動きについて確認したところで、本題であるテーパリングとは何かについて詳しくみていきましょう。
ここからは、テーパリングの概要やテーパリングの必要性とメリットについて詳しく解説します。
テーパリングとは
まず、テーパリング(tapering)とは量的金融緩和政策を縮小させる動きのことです。通常、量的金融緩和政策は金融資産の買い入れを行った上で目標額に達したら買い入れを止めますが、テーパリングは通常の量的金融緩和政策の方法とは異なり、買い入れ金額を徐々に縮小させていく方法で行われます。
ただし、注意点としてテーパリングはあくまでも資産買い入れの縮小のことで、金融引き締めとは別物です。また、テーパリングと利上げを混同して考える方もいますが、テーパリングは利上げではないため混同しないようにご注意ください。
テーパリングを行う必要性とメリット
では、量的金融緩和政策があるにも関わらず、なぜテーパリングは必要なのでしょうか。ここからは、テーパリングの必要性とメリットを確認しましょう。
まず、テーパリングを行うのは量的緩和政策によるインフレを引き起こすことを防ぐために必要です。
量的緩和政策は、ゼロ金利になっても目標額に達するまで買いオペが続きます。そのため、市場に出回るお金が急激に増えることも少なくなく、インフレが起こりやすいという特徴があります。
しかし、テーパリングは市場の動きを見ながら徐々に市場に出回る金額を調整できます。そのため、インフレを引き起こすことなく金融緩和政策ができるのです。
テーパリングを行うメリットは、インフレなどのリスクを最小限に抑えながら量的金融緩和政策の効果を最大限に発揮できる点です。量的金融緩和政策は金融緩和政策に比べ、景気回復に高い効果が期待できます。しかし、前述の通りインフレを引き起こすリスクも少なくありません。
そこでテーパリングによって徐々に市場の金額を調整することで、インフレなどのリスクを抑えつつ量的金融緩和政策同様の高い効果が期待できます。
今後はインフレ抑制がテーマに
今後の政策テーマとして、「景気回復」から「インフレ抑制」へシフトしていくことが予測されています。これは、コロナショックによって緊急で量的金融緩和政策が行われたためです。
2021年末以降、景気は回復しつつあります。今後は景気回復だけではなく、これまでの量的金融緩和政策によるインフレの発生を防ぐことが重要です。
また見通しとして、利上げや量的緩和の終了(資産縮小)が行われるとされています。それぞれの時期について、詳しく見ていきましょう。
利上げと量的緩和終了
現時点の景気回復の推移から、「FRBは緊急対応の役割は終えつつある」と発表しています。これに伴い、インフレ対策として量的金融緩和政策はテーパリングに移行するとされており、2021年11月から資産購入の月額を毎月150億ドルずつ減らすとしています。
また、利上げは2022年中に少なくとも2回行われると予測されています。2021年頭時点は2022年中の利上げはないと見られてきました。
しかし、2021年春頃から物価が想定を上回る程に上昇していることから、前倒しで2022年の利上げが決まりました。なお、市場が速いペースで利上げを進めると、株高や資源高の前提が揺らぐことも想定されるため、今後の動きを注視しなければなりません。
テーパリングの米国株式市場への影響
テーパリングが行われると、米国株式市場にはどのような影響が出るのでしょうか。ここからは、テーパリングの米国株式市場への影響について解説します。
理論的には株価は下がっていく
テーパリングが行われると、理論的には株価は下がっていきます。テーパリングによって株価が下落する理由は、以下のような動きになるためです。
1)テーパリングによって金利が上昇する 2)割引現在価値(株価の理論価値)が低下する 3)現在の株価が割高と見られる 4)株式を売却する動きが活発化して株価が下落する |
このように、テーパリングを行うと金利が上昇するため、株価が割高と判断されて株式を売却する動きが活発化するため、理論的にはテーパリングによって株価は下がると言われています。
「テーパータントラム」って?今回は起きる?
テーパリングが行われた場合には、テーパータントラムに注意が必要です。テーパータントラムとは、2013年5月にFRBが金融緩和の一部巻き戻しを示唆したことにより、金融市場が大きく動揺した現象のことです。
具体的には、2013年5月にテーパリングの可能性を示唆した際、米国の株価は下落して長期金利は上昇しました。これに伴い、米ドルも対円で大きく下落したのです。
しかし、このテーパータントラムで影響を受けたのは米国株だけではありません。世界経済の中心である米国金融が引き締められることで、お金の流れが滞ることが懸念されて新興国株が大打撃を受けたのです。
このことから、コロナショック後のテーパリングもテーパータントラムが懸念されています。しかし、今回はFRBがテーパリングの開始時期について慎重にアナウンスしているため、市場の動揺は起きにくくなっているため、テーパータントラムは起きにくいとされています。
株式市場の今後の懸念材料
株式投資を考えている際に気になるのが、今後の株式市場の動きです。そこでここからは、株式市場の今後の懸念材料についてご紹介します。
インフレの長期化
一つ目の懸念材料はインフレの長期化です。なぜインフレの長期化が株式市場に影響を与えるのかというと、物価が上昇しすぎると企業の収益性が悪化し株価にマイナスの影響があるためです。
通常、適度なインフレは株価にとってプラスに作用します。しかし、インフレが長期化した場合は株価に悪影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
さらなる新型コロナ流行
ワクチンや金融政策により、新型コロナウイルスによる影響は減りつつあるものの、さらなる新型コロナウイルスの流行は否定できません。
現時点ではオミクロン株流行の長引きが懸念されていますが、新たな変異株の出現も予測され、新型コロナ収束の遅れも考えられます。新型コロナ収束が遅れればその分経済にも影響を及ぼし、株式市場に与える影響も長引くでしょう。
カネ余りの終焉
先ほどご紹介した通り、経済の回復傾向を受けて量的緩和や低金利政策が終了しています。これに伴い、市場から資金が引き上げられていくことで株式市場に影響が出ると考えられます。
これは、2022年から利上げが行われると発表されているためです。利上げが行われると世界各国の国債流通利回りも上昇します。国債流通利回りはリスクが無いことから、株などのリスクを伴う投資を手放す人が急増します。
株式を売却する人が増えれば、当然株価は下落します。これにより、世界的な株価の下落が予想されます。
\ 楽天証券の口座開設はこちら /
何をしたらいい?
投資において世界情勢に目を向けることが必要不可欠です。特にテーパリングにより、世界情勢が大きく動くことも予想されます。そこで投資家の今後の対応として、どういったことを考えていけば良いのかを確認しましょう。
米国の金融引き締めは対岸の火事ではない
世世界経済の中心である米国のテーパリングや引き締めの開始は、日本の株式市場にとっても人ごとではありません。
実際、2015年12月に実施された利上げでは、原油に集まっていたお金がドルに集中して原油価格が大暴落しました。また、日経平均株価は円高が進み、輸出関連企業が採算の悪化を懸念したことで2016年の日経平均株価は低水準を記録しています。
このように、米国の金融引き締めは日経平均株価にも大きな影響を与えるため、FRSを始めとする米国の経済状況は常に確認しておかなければなりません。
【関連記事】 米国株の選び方・買い方は?米国株におすすめ証券会社と初心者が取引する際のポイントをわかりやすく解説 |
FOMCやFRB幹部の発言に注目
米国の金融政策は、FOMCやFRB幹部の発言などから把握できます。そのため、FOMCやFRB幹部の発言などのニュースを常にチェックするようにし、最新情報を把握しておきましょう。
労働指標や物価指数をチェック
ニュースで注目すべきなのは、FOMCやFRB幹部の発言だけではありません。FRBが特に重視する労働指標(失業率など)・物価指数(CPIなど)などからも、米国の金融政策の動向を把握できます。そのため、労働指標や物価指数に関するニュースも常にチェックしてください。
とにかく焦らないことが大事
テーパリングは必ずしもテーパータントラムを引き起こすとは限りません。なぜなら、先ほどもご紹介した通り、今回のテーパリングは開始時期を慎重にアナウンスしているためです。そのため、テーパリングが始まったとしても焦らず、常に冷静な判断を行うことが重要です。
プラスに捉えることも大切
テーパリングはテーパータントラムを引き起こしたり、日経平均株価に悪影響を及ぼすとは限りません。そのため、「テーパリングで株価が調整される」というように、マイナスに捉えるのではなくプラスに捉えることも大切です。ただしプラスに捉える場合でも常に冷静に考え、楽観的になりすぎないようご注意ください。
まとめ
投資を始める上で、世界情勢に目を向ける事は必要不可欠ですが、特に重要なのが世界経済の中心である米国経済です。
米国はこれまでさまざまな金融政策で、金融危機を乗り越えてきました。現在、世界中でパンデミックを引き起こしている新型コロナウイルスの影響による経済の悪化も、緊急利下げや資産拡大などの金融政策で対応しました。
しかし、経済が回復傾向にあることから、今後は利下げや資産拡大を終えてテーパリングを実施すると考えられます。テーパリングによる世界情勢の影響は不透明なため、FRSなどの発言に注目して冷静に対応できるようにしておきましょう。
\ 楽天証券の口座開設はこちら /