入院費用を支払う際、差額ベッド代を含めて請求されることがあります。長期入院が必要になった場合、この差額ベッド代の負担が増える可能性があるため、事前にいくらかかるのかなどについての情報を知っておくことが大切です。病気や怪我をした際は、誰でも不安になるものです。医療費などの費用面や制度に関連する知識をつけることで少しでもその不安を軽減するのは大切だといえます。
今回は、入院したときに発生する「差額ベッド代」について紹介します。いざとなったときのために、医療費控除や高額療養費制度も含め、仕組みを理解しておくことは必要だといえるでしょう。
差額ベッド代とは?
「差額ベッド代」とは、個室または2~4人部屋の病室を希望したときに発生する費用です。一般的には差額ベッド代と呼ばれていますが、正式名称は「特別療養環境室料」となります。この差額ベッド代は、個室や2~4人部屋を利用したからといって、必ずしも支払が発生するわけではありません。また、利用する際には同意書を使った確認があります。
差額ベッド代が発生する特別療養環境室には、以下の条件があります。
差額ベッド代が発生する条件
差額ベッド代が発生する条件は以下です。
- 利用する病室のベッドが4台以下
- 1人あたりの病床の面積が6.4m2(平方メートル)以上
- 病床ごとに一人ひとりのプライバシーを確保できる設備がある
- 患者個人の収納・照明・いす・オーバーテーブルなどがある
また、厚生労働省では、差額ベッド代の利用について以下を定めています。
- 特別療養環境室に関する情報を伝え、患者の意思で病室を選択していること
- 患者の意思に反して、差額ベッド代が発生する病室に入院させないこと
- 特別療養環境室のさまざまな決まり(ベッド数や料金など)を病院の受付・待合室・病棟のナースステーション横など、患者が目につく場所に分かりやすく掲示すること
- 患者が料金を明示した同意書に記名してから病室の利用を行うこと
これらの条件に沿って特別療養環境室を利用した場合には、差額ベッド代の支払が必要です。
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差額ベッド代の全額が自己負担
差額ベッド代は、前述の条件を満たしているときに発生します。では、差額ベッド代は公的保険の適用となるのでしょうか。
一般的な治療費は公的医療保険によって3割負担となりますが、差額ベッド代については国民健康保険や高額療養費制度といった公的保険の保障対象とはなりません。そのため、差額ベッド代の支払いは全額自己負担となります。
高額療養費制度とは、ひと月の自己負担額が一定額以上になったとき、超えた分のみ還付される制度です。そして、医療費控除は1年間(1月1日~12月31日)で医療費が10万円を超えたとき、超えた金額に応じて所得税の控除を受けることができます。
しかし、差額ベッド代がかかるような病室は、診療を受けるために直接必要な環境とはみなされず、入院患者の意思で使用するため保障の適用外となります。
差額ベッド代の平均
差額ベッド代は、全国の病院で金額が統一されていません。そのため、病院によって料金が発生する病室や差額ベッド代の金額が異なります。
令和元年7月時点での差額ベッド代の平均は以下の通りです。
令和元年7月時点 | 平均徴収額/日 |
1人部屋 | 8,018円 |
2人部屋 | 3,044円 |
3人部屋 | 2,812円 |
4人部屋 | 2,562円 |
出典: 厚生労働省「総-7-2 主な選定療養に係る報告状況」(令和元年7月1日現在)
表の金額は平均額となり、1日あたりの平均徴収額は6345円で前年より96円上昇しています。一番高い医療機関の差額ベッド代は37万8000円、一番安い金額は50円です。同室の人数が増えるほど、差額ベッド代が安くなる傾向があります。
厚生労働省の調査『平成29年(2017)患者調査の概況』によると、15~34歳の患者が骨折で入院した場合の平均入院日数は11.3日です。これを例に計算すると、自己負担額の平均は1人部屋で9万603円、4人部屋になると2万8950円となります。
また、特別療養環境室は地域や医療機関によって設備が異なり、4人部屋になると病室内にトイレ・シャワー・洗面台が付いていないこともあります。下記の表は、首都圏にある準公的病院と近畿地方にある公立病院との違いです。
病室のランク | 料金/日 | 設備内容 |
特別室(特室) | 50,000円 | ・キッチン設備(2ドア冷蔵庫、電子レンジ、電気ポット) ・入浴設備(バス、シャワー) ・温水洗浄付きトイレ ・洗面台 ・50型テレビ ・L型ソファ ・テーブル ・リクライニングチェア&オットマン など |
4人部屋 | 7,500円 | ・小型冷蔵庫 ・シャワー ・温水洗浄付きトイレ ・洗面台 ・テレビ ・ロッカー |
一般的な個室 | 25,000円 | ・小型冷蔵庫 ・洗面コーナー ・19型テレビ ・デスク、デスク用チェア |
病室のランク | 料金/日 | 設備内容 |
特別室(特室) | 27,500円 | ・キッチン設備(冷蔵庫、電子レンジ、ミニシステムキッチン) ・ユニットバス ・洗面台 ・テレビ ・応接セット ・クローゼット ・リクライニングチェア |
個室1 | 16,500円 | ・冷蔵庫 ・テレビ ・洗面台 ・シャワー ・トイレ |
個室2 | 5,500円 | ・テレビ ・洗面台 |
このように差額ベッド代がかかる特別療養環境室でも、病院や個室の種類ごとに設備が大きく異なります。特別療養環境室の入院を検討する際は、医療施設の公式ホームページや入院案内資料などを参考にしましょう。
また、4人部屋でも同室のベッド同士の距離が広い場合もあり、仕切るためのパーティションが設置されています。同じ部屋で過ごす人数が多いと気を遣うこともあるため、人数が少ないことでプライバシーを確保しやすかったり、お見舞いの際に話し声などを気にする必要がなかったりするため多くの方が個室を希望しています。
支払いたくない場合、大部屋を希望する
差額ベッド代は医療費控除の対象とならないため、差額ベッド代を支払いたくない場合は特別療養環境室ではない通常の病室を選ぶ必要があります。厚生労働省では、差額ベッド代が請求できる特別療養環境室を、その病院にある全ベッド数の5割を上限と定めています。差額ベッド代がかからない病室が空いている場合は、そちらの病室を選ぶようにしましょう。
個室でも差額ベッド代を支払わなくて良い場合
差額ベッド代が発生する特別療養環境室を利用する場合でも、差額ベッド代の支払いが不要なケースもあります。差額ベッド代が発生しないケースには、以下が挙げられます。
具体的な内容 | |
病院側の都合で 個室になったとき |
・MRSAなどの感染症患者で医師などが院内感染を防止するため、患者の意思に関係なく入院させたとき ・差額ベッド代以外の病室に空きがなく、仕方なく差額ベッド代の病室になった場合 |
同意書を使って 確認を行っていない |
・同意書の内容に足りない項目があるとき ・記載や記入漏れがあるとき ・十分な説明がなく、同意していないとき |
治療のために個室に入室が必要と 医師が判断したとき |
・救急患者や術後患者などで安静を必要だったり、常に監視が必要で適切な看護および介助を必要だったりするとき ・免疫力が下がってしまい、感染症になってしまう可能性がある患者の場合 ・集中治療中や終末期の患者の場合 ・後天性免疫不全症候群の病原体に感染している ・クロイツフェルト・ヤコブ病にり患している患者の場合 |
差額ベッド代は、基本的に患者やその家族の同意がなければ、病院側が徴収できない決まりとなっています。そのため、病院側から十分な説明が無かったり、同意書にサインしていなかったりする場合には、差額ベッド代を支払う必要はありません。
また、集中治療室・一類感染症患者入院医療管理治療室・救急病院などに運ばれてくる救急患者専用の病床は、差額ベッド代には含まれません。これらの病室に入院または救急搬送された際、説明なく差額ベッド代が請求された場合には、病院に確認・相談しましょう。病院の都合等にもかかわらず差額ベッド代が発生した場合に相談できる相談窓口があります。病院側との話し合いで解決しない場合は、厚生労働省の地方厚生局窓口に相談できます。
医療保険で差額ベッド代をカバーしよう!
差額ベッド代は、健康保険や国民健康保険では保障の適用外となりますが、個人が加入する民間医療保険のプラン内容によっては保障が受けられることがあります。
民間の医療保険には入院をしたときに発生する「入院給付金」や、手術をしたときに支払われる一時金「手術給付金」があります。これらの給付金は、差額ベッド代に使用することが可能です。そのほか、差額ベッド代などの自己負担額をカバーできる民間の保険プランもできます。
ケガや病気が原因で入院が必要になった場合でも、家族の面会のしやすさやプライバシーの観点から、個室や少人数の病室が好まれるケースがあります。民間の医療保険を活用することで、差額ベッドも利用しやすくなります。
安心の実費保障型保険
差額ベッド代を民間の医療保険でカバーする場合、数あるプランの中でも「実費保障型保険」がおすすめです。実費保障型保険は、入院日数に応じて日額で支払われる入院給付金や、手術ごとに一定額支払われる手術給付金とは給付方法が異なります。
現在の日本では、医療技術が日々進歩しているおかげで入院日数が短くなっています。一方で、入院時の医療費は高くなっているため、従来の医療保険プランでは入院時のさまざまな費用を賄えない可能性が出てきました。
そこで自己負担額だけではなく、さまざまな費用の支払いに充てることのできる実費保障型保険が登場しました。実費保障型保険は、全額自己負担になる差額ベッド代やウィッグなどの費用を保障します。保障の内容は契約プランによって異なりますが、主な保障内容には以下が挙げられます。
- 公的な医療保険で先進医療を受けたときに発生した自己負担額
- 差額ベッド代は「入院日数×〇万円」で計算をして実費で保障する
- ウィッグ(かつら)・日用品の購入・乳房再建などの費用
たとえば、日額1万円の入院給付金であれば、5日間入院して支払われる入院給付金は5万円です。
また、従来型の医療保険のなかには、「入院〇日から給付」のように、支払いがスタートする最低の入院期間が決まっているケースが一般的でした。しかし、実際に支払う費用が上回ってしまった場合や、差額ベッド代などさまざまな自己負担額を賄えない場合がありました。
実費保障型保険は、実際にかかった費用によって給付金の金額が決定するため、差額ベッド代や自己負担額に応じたさまざまな保障を受けることができます。
入院しなければいけない状況はある日突然やってきます。治療費や差額ベッド代だけではなく、パジャマのレンタル代・消耗品費・食事代などの入院費用の自己負担分を心配することなく支払えるように、医療保険のプランを検討することが大切です。
実費保障型保険の注意点
自己負担額を保障してくれる実費保障型保険ですが、メリットばかりではありません。以下のデメリットを把握したうえで検討することが重要です。
- 更新ごとに保険料が高くなる
- 入院に限った保障で通院は補償の対象にならない
保険料が高め
実費保障型保険を契約すると、定期的に保険料の支払が発生します。若いうちの保険料は安く設定されていますが、更新の際にその時の年齢に合わせて保険料が再設定されるため、更新ごとに高くなります。とはいえ、年齢が上がることにより入院する機会が増えたり、入金期間が長くなったりする可能性も考えられます。入院時の自己負担を抑えるために、毎月の保険料を考慮しつつ加入を検討することが大切です。よって、保険料と得られるサービスの対価をしっかり比較検討する必要があるでしょう。
通院が保障されない場合あり
実費補償型保険は、入院までの通院にかかる自己負担額は保障の対象外となります。また、退院後の通院に対しても対象とはなりません。実費保障型保険は、主契約として入院や手術に対する保障が含まれており、特約には先進医療・通院保障・がん治療などが含まれています。主契約のみで契約した場合、通院保障が付いていないケースもあるため注意しましょう。通院に対する保障を受けたい場合には、特約などを付加しましょう。
まとめ
入院するときに発生する差額ベッド代は、入院期間が長くなると大きな金額になります。差額ベッド代は公的保険の対象とならないため、自己負担となってしまいます。
差額ベッド代の負担を抑えるには、差額ベッド代が発生しない病室にする、金額が安い病室にするなどの方法を選びましょう。場合によっては、本人の希望によらず大部屋が埋まっているなどの病院の都合で、個室や2〜4人部屋へ案内されるケースもあります。
また、病院からの十分な説明がないまま同意書にサインを促されるなど、このように病院が差額ベッド代を本来徴収できないはずなのに請求してきたときには、厚労省の地方厚生局窓口に相談するということも覚えておきましょう。
また、民間の医療保険「実費保障型保険」に加入して、差額ベッド代の保障を受けることも方法のひとつです。誰もがいつ入院するか分からない状況だからこそ、入院費を保障してくれる民間の医療保険を検討しましょう。
また、保険について質問や分からないことなどがある場合、FP(ファイナンシャルプランナー)や保険の専門家等に相談するのもおすすめです。無料相談などもあるので、ぜひ活用しましょう。
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よくある質問
Q | 差額ベッド代は高額療養費制度の対象になりますか? |
A | 差額ベッド代は高額療養費制度の対象にはなりません。支払いは全額自己負担となります。 詳しくは「差額ベッド代の全額が自己負担」を参照。 |
Q | 差額ベッド代の支払いが発生しないケースはありますか? |
A | 例えば、同意書による確認が行われなかった場合や治療上の都合で入院した場合等は、差額ベッド代を支払わなくてよいです。 詳しい内容はこちらの記事を参考にしてください。 |
Q | 差額ベッド代に健康保険は適用できますか? |
A | 差額ベッド代は健康保険の適用外です。また、国民健康保険も同様です。ただし、民間保険のプラン内容では保障が受けられるものもあります。 詳しくは「医療保険で差額ベッド代をカバーしよう!」を参照。 |