差額ベッド代とは?
病気や怪我で入院したり手術を受けた際の医療費、日本には公的な医療保険があるので働いている現役世代ならば自己負担額は3割となっています。
ただし、なかには公的な医療保険の適用範囲外の費用があり、その費用はすべて自己負担の対象になります。寝巻着や洗面具等の日用品の購入費だけでなく、自己負担になる費用の一つに差額ベッド代があります。正式名称を「差額室料」と呼び、入院時に個室を希望した場合にかかるもの。一人あたりに割り当てられる療養環境を整えるために別途料金が発生します。ここでは、申請方法や利用金額等、差額ベッド代について詳しく見ていきましょう。
差額ベッド代の要件
差額ベッド代がかかる病室は「特別療養環境室(特別室)」という正式名称があります。
この特別室は、厚生労働省によって4つの要件を満たす必要があり、その要件とは、病室の病床数が4床以下であること、病室の面積が一人あたり6.4平方メートル以上、ベットごとにプライバシーを確保する施設があること、個人用の私物収容設備・証明・小机・椅子があることです。
治療にあたってプライバシーを確保したい場合や、快適な環境で療養したい場合には、差額ベッド代を支払い特別室に入院するとよいでしょう。
差額ベッド代がかかる特別室を病院に設置できる割合は決まっている
差額ベッド代がかかる、各病院が設置できる特別室の数は厚生労働省によって上限が定められています。
国が開設する病院の場合には全ベッド数の2割まで、地方公共団体が開設する病院の場合には3割まで、その他の病院では5割までで、となっています。
分類 | 全体に占める割合 |
1人部屋 | 13.7% |
2人部屋 | 3.4% |
3人部屋 | 0.4% |
4人部屋 | 2.9% |
合計 | 20.5% |
※出展「2018年(平成30年)11月厚生労働省の中央社会保険医療協議会、第401回総会の議事次第」
2018年(平成30年)11月に行われた厚生労働省の中央社会保険医療協議会、第401回総会の議事次第によれば、すべての総病床数における一人部屋は13.7%、2人部屋3.4%。3人部屋は0.4%、4人部屋は2.9%となっており、全体の病床の約20.5%となっています。
この20%の部屋に入院したい場合には差額ベッド代がかかります。
差額ベッド代がかかる条件
特別室を利用したからといって必ずしも差額ベッド代がかかるわけではありません。
差額ベッド代がかかる場合は、患者が事前に十分な説明を受けた上で特別室を希望した場合や、病院から渡された同意書に署名した上で特別室に入院をした場合となっています。
差額ベッド代は公的医療保険制度の適用外
差額ベッド代は公的な医療保険制度の適用範囲外になっています。
そもそも日本には公的な医療保険があるので、働いている現役世代の医療費の自己負担は3割となっています。また、公的な医療費制度には高額医療費制度(設定された限度額を超える医療費が払い戻される制度)もあり、月収が28万~50万円前後の方は月の医療費は8万円程度に収まるようになっています。
しかし、特別室に入院した場合には公的医療保険制度の適応外なので、各制度適用後の医療費に加えこの差額ベッド代が別途自己負担としてかかってくるのです。
差額ベッド代を支払わなくてよいケースとは?
特別室に入院しても差額ベッド代を払わなくてもよいケースがいくつかあります。それぞれのケースについて見ていきましょう。
同意書による確認が行われなかった場合
病院から同意書による確認が行われずに特別室に入院した場合には差額ベッド代を支払う必要はありません。
あらかじめ同意書にサインをしていることが必要であり、また、仮に同意書にサインをしていても病院からの説明が不十分で、差額ベッド代の記載がない場合には病院側は差額ベッド代を請求できません。
治療上の都合で特別室に入室した場合
治療上の都合で特別室が必要と医師が判断して特別室に入院した場合には、差額ベッド代の支払いは必要ありません。
治療上の都合で必要になるのは、救急患者や手術後の患者で病床が重篤なために安静を必要としていたり、常時監視が必要で適時適切な介護や介助が必要とする場合や、免疫力が低下しており感染症にかかる可能性があったり、集中治療を必要として著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要がある終末期の場合、後天性免疫不全症候群の病原体に感染している場合などです。
病院側の都合で特別室に入室した場合
病院側の都合で特別室に入院した場合も差額ベッド代を支払う必要はありません。
例えば、感染症の患者で院内感染を防ぐためなど、病棟管理の必要性から特別室に入院した場合などです。
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差額ベッド代の相場は?
特別室に入院した場合の差額ベッド代はどの程度かかるのでしょうか?
実際にかかる差額ベッド代の相場について見ていきましょう。
差額ベッド代の平均額
差額ベッド代がかかる特別室には、1人部屋から4人部屋まであり、1人部屋なのか4人部屋に入室したかによっても金額は変わってきます。
また、差額ベッド代は病院側が自由に設定できるために、最低金額と最高金額には変わってきます。
分類 | 1日あたりの差額ベッド代(平均) |
1人部屋 | 7,837円 |
2人部屋 | 3,119円 |
3人部屋 | 2,798円 |
4人部屋 | 2,440円 |
※出展「2018年(平成30年)11月厚生労働省の中央社会保険医療協議会、第401回総会の議事次第」
2018年(平成30年)11月厚生労働省の中央社会保険医療協議会、第401回総会の議事次第によると、1人部屋の差額ベッド代は1日あたり7800円程度、2人部屋は3100円程度、3人部屋では2700円程度、4人部屋で2400円程度となっています。特別室の最高額は37万円ほど、最低額は50円となっています。
平均では1日あたり6000円前後かかるとなっています。
病気によっても入院日数は変わりますが、がんの平均入院日数は17日ほど、高血圧性疾患は30日ほど、心疾患は20日ほど、脳血管系疾患は80日ほどになります。
これらの病気にかかって入院して差額ベッド代がかかる場合、計算すると、がんの場合、10万円ほど、高血圧性疾患は18万円ほど、心疾患は12万円ほど、脳血管系疾患は48万円ほどがかかると認識しておきましょう。
病院によって差額ベッド代は異なる
差額ベッド代の値段は、病院の運営元がどこかによってさまざまな値段が付けられています。
分類 | 私立大学病院 | 企業系列の病院 | 民間の総合病院 |
特別個室 | 3万5000円~8万円 | 3万8000円~12万円 | -- |
一般個室 | 6000円~3万円 | 2万5000円 | 1万9440円~3万2400円 |
2人部屋 | 1万円~1万2000円 | -- | 8640円 |
4人部屋 | 6000円 | 0円 | 1000円 |
※詳細は各医療機関にお問い合わせください
私立大学が運営する病院の場合、特別個室の利用にかかる費用は3万5000円から8万円ほど、一般個室は6000円から3万円ほど、2人部屋では1万円前後、4人部屋で6000円ほどとなっています。
企業系列の病院の場合には特別個室では3万8000円から12万円ほど、一般個室の場合は2万5000円ほど、二人部屋は病床自体が設定されていることが少なく、4人部屋の場合には差額ベッド代はかかりません。
民間の総合病院の場合1人部屋は2万円から3万円ほど、2人部屋は8000円ほど、4人部屋は1000円ほどとなっています。
差額ベッド代の医療費控除
差額ベッド代は税金の医療費控除の対象になるのでしょうか?
原則的には差額ベッド代は医療費控除の対象外ではあるものの、場合によっては医療費控除の対象となることもあります。対象となる場合とならない場合について見ていきましょう。
医療費控除の対象にならない場合
差額ベッド代が医療費控除の対象とならないのは、「本人や家族の希望だけで個室に入院した際の差額ベッド代」です。自分の意思で特別室を利用した場合には医療費控除の対象外になることは覚えておきましょう。
医療費控除の対象になる場合
本人や家族が特別室を希望したわけでない場合には医療費控除の対象となると国税庁は所得税基本通達で見解を示しています。ただし、その場合には差額ベッド代自体が存在しないことになります。なかには病院都合によって特別室を利用して差額ベッド代を支払うケースもあるのでその場合には医療費控除の対象となります。
同時に、自己の都合で個室を使う際に発生する差額ベッド代は医療費控除の対象とならないと国税庁は見解を示しています。
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差額ベッド代を請求されて困っているときどうすればよい?
差額ベッド代を請求されて困っている方もいるかもしれません。
差額ベッド代は場合によっては支払う必要がないこともあるのでパターンに分けて見ていきましょう。
同意書にサインをしなかった場合
入院時に病院から提示される同意書にサインをしなかった場合には差額ベッド代の請求に同意していないことになります。
病院側は差額ベッド代を請求はできないので、交渉を行い、差額ベッド代についての同意書を提示されたかと、サインをしたかを明確にしましょう。
同意書にサインをした場合
病院から提示された同意書にサインをした場合には差額ベッド代の請求に同意しているので原則的には差額ベッド代を支払う必要性がありますが、特別室を希望しておらず、病院側からの都合で特別室に入院することを求められた場合には交渉の余地があります。
厚生労働省の通知をもとに「本来、差額ベッド代を請求されるケースではなかったのか?」という点が論点になりますので、病院の同意書が厚生労働省の通知と違うと思われる場合は各都道府県庁の健康保険医療の窓口や厚生労働省の地方厚生局に相談をしましょう。
大部屋が満室で個室しか空いていないときは?
場合によっては「大部屋が満室なので、個室に入って欲しい。個室に入った場合は差額ベッド代がかかる」という説明をされて、渋々個室に入ったということも有り得るでしょう。今までそのような経験をされて、実際に差額ベッド代を支払った、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
2018年3月5日の保医発0305第6号では、第2・12(8)「患者に特別療養環境室に係る特別の料金を求めてはならない場合」の一つである、「病棟管理の必要性等から特別療養環境室に入院させた場合であって、実質的に患者の選択によらない場合」の1例として、「特別療養環境室以外の病室の病床が満床であるため、特別療養環境室に入院させた患者の場合」を挙げています。つまり、「大部屋が満室だったから」という理由で個室に案内された場合には、病院側はその差額ベッド代を請求できない、ということです。
ただし、同通知では「実質的に患者の選択によらない場合」に該当するかどうかは適宜判断するとあります。例えば、入院前から「大部屋が満室だったら個室に入ってもらう」という説明を受けていた場合などは、この限りではないということになるかもしれません。
この点は未だグレーな部分も多く、個人での判断は難しかったり、後述のようにトラブルの原因になってしまう場合もあります。差額ベッド代は原則医療費控除の対象外のため、場合によっては追加の費用の支払いが発生します。不安な場合は、前述の地方厚生局に相談してみるのがベストでしょう。
トラブルを防ぐポイント
差額ベッド代をめぐるトラブルは未然に防ぎましょう。
同意書にサインをすると差額ベッド代の支払い義務が生じるので注意が必要です。病院からの提示にはしっかり内容を把握して進めましょう。
病院側の事情で特別室での入院でないと入院拒否されてしまうケースの場合には、特別室以外の部屋が空いたら移動したい旨を伝えておくとトラブルを防げます。場合によっては、健康保険医療の窓口や地方厚生局に相談しましょう。
差額ベッド代に保険で備える
特別室に入院した際の差額ベッド代は全額自己負担の対象となっており、病気や怪我の療養具合によっては入院日数が長引き、負担金額が大きくなります。
差額ベッド代に備える場合には医療保険で備えることも考えられ、入院日数に応じて入院給付金を受け取れる医療保険ならば1日平均6000円かかる差額ベッド代の請求に備えられます。
保険を利用する場合は差額ベッド代の平均額を参考に入院給付金の金額を検討するとよいでしょう。
まとめ
病気や怪我で入院して、個室を希望した場合にかかる差額ベッド代。快適な療養生活を送るためには必要なコストになってきます。
差額ベッド代についてしっかりと理解した上で、病気や怪我に備えるために医療保険などを検討しておくと安心できるでしょう。
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よくある質問
Q | 差額ベッド代は医療費控除の対象になりますか? |
A | 差額ベッド代は、自己の都合で個室を利用する場合、医療費控除の対象にはなりません。ただし、診療や治療で使うために医療機関側が設置した場合、医療費控除の対象となります。 |
Q | 差額ベッド代を支払わなくてよいケースはありますか? |
A | 差額ベッドを利用するためには、同意書のサインが必要になります。そのため、同意書がない場合は、支払い義務がなくなります。 |
Q | 差額ベッド代の支払い義務がないのに支払いを求められた場合、どうすればいいですか? |
A | 各都道府県が設置している「医療相談窓口」に相談してみましょう。 |