会社員の方は確定申告に慣れていない方も多いと思います。保険金が翌年に入ってきたら医療費控除はどうすればいいのかといった疑問がある人もいるのではないでしょうか。
保険金が翌年に入ってきても医療費を払った年の医療費控除の対象として計算してください。医療費控除では保険金を差し引く必要があるので、保険金の申請漏れがあったら必ず修正申告しましょう。
保険金は医療費控除からどのくらい差し引けばいい?
医療費控除額を計算するときには、かかった医療費から保険金等の金額を差し引きます。該当する金額は生命保険などの保険金や、新型コロナの入院給付金なども含まれます。医療費から差し引く金額はその年に払った医療費に紐づく保険金が対象です。
医療費控除とは?
医療費控除は、年間医療費が一定額を超えたときに、自身や家族が払った医療費の一部を所得から差し引ける制度です。年末時点で未払いの医療費がある場合は、その金額はその年の医療費控除の対象とはなりません。
原則として医療費控除の控除額は以下のように計算します。
控除額(※1):支出した医療費の額 - 保険金等の額 ー 10万円(※2)
※1.医療費控除は最大の上限は200万円です
※2.総所得金額等が200万円未満の場合は、10万円の代わりに総所得金額等×5%の金額になります
医療費控除を受けるには確定申告をしなければなりません。確定申告時にはその年中に支払った医療費の明細書が必要です。
医療費控除の詳細についてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
生命保険で保険金が発生するとき
上記の計算式のように、保険金が発生した場合は、支払った医療費から保険金額を差し引きます。
国税庁のHPでは、医療費の額から差し引くことになる「保険金などで補填される金額」は以下の4種類と記載されています。
「保険金などで補填される金額」4種類
- 生命保険契約や損害保険契約に基づき医療費の補てんを目的として支払を受ける医療保険金や入院費給付金、傷害費用保険金など
- 社会保険や共済に関する法律やその他の法令の規定に基づき、医療費の支払の事由を給付原因として支給を受ける給付金(※)
- 医療費の補てんを目的として支払を受ける損害賠償金
- 任意の互助組織から医療費の補てんを目的として支払を受ける給付金
※例えば、健康保険法の規定により支給を受ける療養費や出産育児一時金、家族出産育児一時金、家族療養費、高額療養費、高額介護合算療養費など
参考:国税庁「医療費を支払ったとき」
生命保険での保険金は上記の1.に該当します。出産育児一時金等の給付金なども医療費から差し引く金額になる点には注意が必要です。
入院して給付金が発生するとき
入院して給付金が発生するときにも同じく医療費から差し引きます。2022年に新型コロナウイルスによる入院給付金を受けた方もいらっしゃると思います。いわゆる「みなし入院」での入院給付金に関しても「保険金などで補填される金額」となります。
仮に自宅療養などで医療費がそれほどかかっていない場合、新型コロナ入院給付金で引ききれないものは他の医療費から引く必要はありません。
もう少し具体的に説明すると、
【かかった医療費】
- 新型コロナウイルスの自宅療養でかかった金額:10,000円
- (1.とは無関係な)他の医療でかかった金額:150,000円
【補填された金額】
- 新型コロナ入院給付金:50,000円
【差し引きする金額】
(それぞれ1.の対象金額)10,000円 ー 50,000円 ⇒ 0円以下なのでこれで終わり
※2.の金額は新型コロナと関係がないため150,000円のまま計算
このような場合、【補填された金額】1.の新型コロナ入院給付金は【かかった医療費】1.の金額から差し引きます。引ききれなかった4万円分は【かかった医療費】2.の金額から差し引く必要はありません(差し引くのはその給付の目的となった医療費のみです)。
つまり、【かかった医療費】2.の15万円はそのまま医療費として計上できます。他に対象がなければそこから10万円を差し引いた残りの5万円は医療費控除対象の金額となります。
保険金をもらった場合の医療費控除の計算
具体的な医療費控除や還付金の計算方法はこちらをご確認ください。受け取った保険金額のほうが医療費よりも多い場合、医療費控除を受けることはできません。保険金額等を差し引く対象は保険金額に紐づく医療費のみとなります。
実際にいくら戻るかシミュレーション
以下の条件で医療費と保険金が発生した場合の医療費控除額と還付金がどうなるかシミュレーションします。
パターン①:保険金額が5万円の場合 | パターン②:保険金額が50万円の場合 | |
条件 |
給与所得:700万円 課税所得:500万円(控除後金額) 医療費:30万円 保険金額等:5万円 |
給与所得:700万円 課税所得:500万円(控除後金額) 医療費:30万円 保険金額等:50万円 |
医療費控除 | 30万円(医療費)ー5万円(保険金等)ー10万円=15万円 | 30万円(医療費)ー50万円(保険金等)ー10万円 < 0円以下になるので控除なし |
還付金 | 【所得税】 15万円 × 20% = 3.0万円 【住民税】 15万円 × 10% = 1.5万円 |
※医療費控除なしのため還付金もありません |
仮に給与所得が700万円、課税所得が500万円だとします。課税所得が500万円の場合、所得税率は20%となるので、医療費控除額15万円の20%が戻ってくる計算となります(所得税率は課税所得によって税率が7段階に分かれています)。
所得ごとの課税される税率は、以下の国税庁のサイトで確認してください。
参考:国税庁「No.2260 所得税の税率」
※控除金額は家族構成等によっても変わってきます。課税所得の詳細はご自身の源泉徴収票等をご確認ください。
また、住民税は所得に関係なく一律10%で計算します。ただし、住民税による還付金は、所得税のように直接口座に振り込まれるのではなく、確定申告をした年の6月から、住民税の金額調整分として還元されます。
保険金額が医療費よりも多い場合
上のパターン②の通り、受け取った保険金額が医療費金額よりも多いと医療費控除の金額が0円以下になるため、医療費控除は受けられず、還付金もありません。
計算の際の注意点
保険金額が医療費よりも多い場合は医療控除がないと説明しましたが、保険金額に紐づく医療以外にも医療費が発生している場合は医療控除を受けることができます。
【医療控除を受けられる例】
医療費(入院費)25万円に対して30万円の保険金を受け取り、左記の医療費とは別に歯の治療費に10万円がかかっている場合
医療費 | 保険金 | 差し引き |
①25万円(入院費) | ①30万円(左記に紐づく入院保険金) | -5万円 ⇒ 0円 |
②15万円(歯の治療費) | - | 15万円 |
医療費合計 | 15万円 |
この場合、保険金額の30万円は入院費からのみ差し引かれます。そのため②の歯の治療費の15万円は医療費となり、10万円を差し引いた残りの5万円が医療費控除対象の金額になります。
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翌年に保険金をもらう場合
保険金の受け取りが翌年になった場合でも、対象となった医療費に対して差し引く必要があるので医療費を支払った年に差し引きます。
医療費の支払いが年をまたいだ場合については、支払った医療費に応じて保険金額を按分して差し引いてください。
翌年に保険金をもらう場合
確定申告を行う時点で、保険金額がわかっている場合は、受け取ったのが翌年でも、その保険金額を医療費から差し引きます。医療費を払った年の医療費から差し引くためです。
確定申告時点で保険金額が確定していない場合は、受けると保険金額を見積り、その見積額を医療費から差し引きます。実際に受け取ることになる保険金額が見積金額と差異がある場合、さかのぼってその年の医療費控除を訂正します。
翌年に医療費がかかる場合
年をまたいで発生した医療費に対して保険金が支払われた場合は、その保険金額を按分して計算します。12月から翌年1月にかけて入院費が発生し、それに対して保険金を受け取った場合で説明すると以下のようになります。
【按分して計算する例】
医療費 | 保険金(トータル6万円分を按分) | 差し引き |
12月に発生した入院費:10万円 | 6万円 × 2/3 = 4万円 | 6万円(当年の計算対象) |
翌年1月に発生した入院費:5万円 | 6万円 ×1/3 = 2万円 | 3万円(翌年の計算対象) |
※この場合10万円:5万円=2:1に6万円を按分します。
医療費控除する際に保険金を申告漏れした場合どうなる?
医療費控除の申請誤りがあったり、そもそも医療費控除の申請をしていない場合は、確定申告期限(2/16~3/15)を過ぎても申請できるので、必要に応じて申請するようにしましょう。
保険金の申告が漏れていた(収める税金が少なかった)場合は早めに修正申告するようにしてください。
医療費控除の申告を忘れていた場合
医療費控除の申告漏れは、会社員の方のように確定申告をしていない(不要)場合と、確定申告は行っていて医療費控除をしていない場合で異なります。
不安な方は国税庁の「税についての相談窓口」や確定申告電話相談センターを利用して下さい。
参考:国税庁「税についての相談窓口」
会社員が医療費控除を忘れてしまった場合
一般的な会社員の方は確定申告に馴染みがない方も多くいらっしゃいます。医療費控除で還付金が戻ってきたといった話を聞いて、実は医療費がたくさんかかっていたから確定申告しておけばよかったと思うことがあるかもしれません。
このような場合、還付申告は医療費を支払った翌年1月1日から5年間の期間内に行うことができます。例えば2022年に医療費を支払った場合、2023年1月1日から2027年12月31日までは医療費控除の申請ができます。
確定申告したのに医療費控除を忘れてしまった場合
医療費控除を忘れてしまった(税金を多く収めてしまった)場合は、更正の請求をすることができます。更正の請求書を所轄の税務署に提出すれば還付金が受け取れます。更正の請求ができる期間は法定申告期限から5年以内ですが、請求するのであれば早めに対応しましょう。
保険金を差し引くこと忘れてしまった場合
逆に保険金を差し引くのを忘れた(納めた税金が少なかった)場合は、早めに修正申告をしてください。令和4年分以降の修正申告をする場合は、「申告書第一表」と「申告書第二表」を税務署に提出する必要があります。
修正申告をしないと、過少申告加算税(※)がかかる場合があります。税務署はすべてのチェックができるわけではありませんが、バレると余計な税金がかかるので、必ず修正申告をしてください。その後、納付する税額は、修正申告を提出する日(納期限)までに納めてください。
※ 新たに納める税額のほかに、その税額の10%(場合によって15%)の過少申告加算税又は35%(場合によって40%)の重加算税がかかります
まとめ
2022年の新型コロナウイルスによる医療費や給付金などで医療費控除がすることになる方も多いと思います。医療費控除の基本的な考え方は難しくないのでよく理解して確定申告を行いましょう。
保険金の申告漏れは税務署にバレる可能性が高いです。医療費控除の計算方法を理解して、保険金の申告漏れがあった場合は、修正してきちんと対処しておきましょう。
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よくある質問
Q | 医療費の対象にはどのようなものが含まれていますか? |
A | 通院費、医師等の送迎費、一般的な医療品の購入費用などが含まれます。美容整形、通院のガソリン代や駐車場代、健康診断の費用などは含まれません。詳細は以下の国税庁のHPをご確認ください。 参考:国税庁「医療費を支払ったとき」 |
Q | 家族の医療費は、医療費控除の対象に含まれますか? |
A | 含まれます。 |
Q | セルフメディケーション税制にかかる医療費控除はどのように計算しますか? |
A | 計算式は以下の通りです。 支出した金額ー12,000円 ※ただし、控除額の上限は88,000円です。 セルフメディケーション税制は以下の記事で詳しく解説しています。 【関連記事】医療費控除はまだ間に合う!税金はいくら戻ってくる?対象となる医療費は?意外と知らない控除対象も
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