信託の仕組みって?
まずは、金銭信託と投資信託に共通するキーワード「信託」について、基本的な仕組みを解説します。金銭信託と投資信託の違いを理解するために、信託の意味について理解しておくことが重要です。
信託とは?
信託とは「信じて託す」と表されるように、信頼できる人に自分の持つ財産の管理や運用を託すことをいいます。自分の財産を託す人のことを「委託者」とよび、託される人のことを「受託者」とよびます。託す財産について、自分の意思を反映できる項目は主に3つです。
・誰のために ・どんな目的で ・どのような方法で |
自分のためではなく、家族や親族などのために財産を託す場合、その相手を「受益者」といいます。自分のためであれば、自分が「委託者」であり「受益者」となります。
信託を行うと所有権はどうなる?
信託を行うと、委託者が預けた財産の所有権は受託者に移ります。万が一、委託者の破産によって財産を差し押さえられることがあっても、信託した財産に影響を与えません。
ただし、財産の所有権は移りますが、受託者の自由にできるわけではありません。受託者は受益者のために財産を管理・運用する必要があります。また、受益者は、預けた財産によって得られた利益を受け取る権利「信託受益権」を持ちます。
受託者とは?
信託の受託者は、信託銀行もしくは信託会社です。個人・法人から財産の管理・運営を託されます。
信託銀行は普通の銀行業務とは別に、信託業務も行う銀行です。信託兼営金融機関とも呼ばれており、兼営法により信託業務を兼営する認可を得ています。
信託会社は主に信託業務のみを行う会社です。信託業法による免許を持っている、もしくは登録を受けて運営しています。
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金銭信託とは?
金銭信託とは金銭の信託のうち名前の通り、金銭を信託して金銭で戻ってくる金融商品です。
遺言代用信託や教育資金贈与信託といった商品にも、金銭信託の仕組みが応用されています。なお、受託者が金銭を有価証券等で運用し、そのまま有価証券等の形で受益者に戻す契約は「金銭信託以外の金銭信託」または「金外信託」といいます。
金銭信託の仕組み
金銭信託においては、個人・法人が信託銀行や信託会社との間で信託契約を結びます。受託者は託された金銭を使って、公共債・社債・貸付金・預金・株式等で運用し利益を得ます。
金銭信託には1年や5年といった期間が設定されており、信託期間が終わると運用利益と託した金銭が受益者に戻される仕組みです。
金銭信託はどのように運用される?
金銭信託はどのように運用されるのでしょうか。委託者と受益者が同一の契約の場合、運用の流れは以下のようになります。
①委託者が、受託者である信託銀行や信託会社に金銭を預けます。 ②受託者は受け取った金銭で、公共債や社債を使って運用します。 ③受託者は運用で得た収益を受益者に配当します。 |
金銭信託の予定配当率と運用収益
金銭信託の中には、「予定配当率」が設定されている商品もあります。予定配当率とは、あらかじめ予定された配当利回りのことです。そのため、募集時点でどの程度の運用収益を得られるのか予測することが可能です。ただし、実際の配当は運用実績によって変化するため、収益がマイナスになる可能性も考慮しなければなりません。
なお、運用収益の配当は半年に1回となることが一般的です。契約する金銭信託の配当金受取日を確認しておく必要があります。
金銭信託にかかる費用は?
金銭信託を申し込むと、一般的に信託期間中にかかる管理・事務手続き費用を手数料として徴収されます。他にも、運用報酬として運用実績に応じた金額を支払う場合もあります。これらは信託報酬と呼ばれています。費用の詳細は商品によって異なるため、契約前に約款等をよく確認しておきましょう。
金銭信託の申し込み方法は?
金銭信託は資金の管理・運用を信託銀行または信託会社が行うため、金銭信託の申し込みも通常当該の信託銀行もしくは信託会社で行います。
しかし、信託銀行の数は普通の銀行ほど多くはありません。自宅や勤務先の近くに支店や営業所がない可能性もあります。グループ会社に信託銀行が存在するのであれば、普通の銀行でも信託契約の代理業務を行っていることがあります。金銭信託を申し込む際に信託銀行が見つからなければ、お住まいの周辺にある銀行に問い合わせましょう。
また、金銭信託をインターネットで申し込みできる信託銀行・信託会社も存在します。インターネットであれば契約内容をゆっくりと確認できるため、様々な商品を探すことができます。
金銭信託の種類
金銭信託は、いくつかの種類に分類されています。ここでは大まかな分類についてご紹介します。
指定金銭信託と特定金銭信託に分類
金銭信託は、指定金銭信託と特定金銭信託に分かれます。「指定金銭信託」は運用対象の範囲を指定する信託です。対して「特定金銭信託」は、運用方法について委託者が具体的に指示を行う信託です。例えば、有価証券に特定して運用するときは特定金銭信託にあたります。
合同運用と単独運用の違い
運用対象の範囲を指定する「指定金銭信託」は、さらに「合同運用」もしくは「単独運用」に分類されます。
合同運用は、複数人で金銭を信託し合同で運用する金銭信託です。
金銭信託の運用対象の範囲を指定し、このルールに賛同した委託者たちの資金を、合同で運用します。単独で行うよりも大きな資金で運用できるため、受託者としては効率的な運用が期待できます。
また、合同運用では、効率的な運用をするために運用対象は貸付金や公共債・社債・株式・預金等に限定しています。多くの契約者から資金を集めて運用するため、比較的少額で契約できる商品もあります。
単独運用は、利用者ごとに個別契約をします。運用手段を個別に選べるため、自由度は高まりますが、単独資金で運用するため、ある程度の資金がないと契約することはできません。
代表的な金銭信託商品
代表的な金銭信託の商品をご紹介します。
元本保証と預金保険について
運用結果の如何に関わらず元本資金が保証されるものを「元本保証」と言います。金銭信託では、金利の下落によって運用結果が悪くなり、預けた金銭が元本割れすることもあります。そのような事態に陥っても、元本保証が付いていれば仮に100万円を預けていた場合、100万円が戻ります。契約終了時の運用結果により95万円の価値になったとしても、5万円を信託銀行が補てんする仕組みとなっています。
また、元本保証の付いた契約の場合、預金保険の対象になります。預金保険とは、預金の預け入れ金融機関が破綻したときの保険のことです。1つの金融機関に対し、1人につき元本1,000万円までとその利息が保証されます。元本保証が付いてるものとそうでないものについて見ていきましょう。
合同運用指定金銭信託(一般口)
合同運用指定金銭信託(一般口)
運用手段に大まかなルールが定められており、複数人の資金を合わせて運用する商品です。
受託者が契約者を募集する時点で、具体的な資金運用のルールが決まっています。委託者は約款に書かれた内容に同意したうえで契約を結びます。このように、同じ資金運用のルールに同意した複数人の資金をまとめて運用することで、効率的な運用が期待できます。
また、契約金額は5,000円以上1円単位のように範囲が多く、少額から契約しやすいことが特徴です。まとまった資金を使って安定的な運用を目指した商品のため、元本保証と預金保険を付けることもできます。
【更に詳しく確認する】合同運用指定金銭信託(一般口)とは? |
実績配当型金銭信託
実績配当型金銭信託は、収益性を重視した商品です。安定性も確保しつつ、より高い収益を目指した運用が行われます。契約金額は10万円以上や100万円以上といった決まりがあり、比較的まとまった金額が必要です。ただし、元本保証や預金保険の適用はありません。
【更に詳しく確認する】実績配当型金銭信託とは? |
金銭信託の特徴
ここでは、金銭信託の特徴についてご紹介します。
安定性の高い資金運用
金銭信託は多くの商品でより安定した資金運用を目指しています。少額から始められ、比較的低リスクで運用されることが特徴です。また、多くの商品において、予定配当率が定期預金よりも高くなります。リスクを抑え少しでも高い利回りの商品を探しているのであれば、金銭信託はおすすめでしょう。
確定申告の手間がない
金銭信託の配当金は、支払時に源泉分離課税として20.315%(国税15.315%・地方税5%)適用されます。なぜなら、配当金を支払う信託銀行や信託会社経由で納税が完了しているためです。よって、確定申告の手間がかかりません。
金銭信託の注意点
金銭信託はリスクの少ないタイプの商品が多く販売されています。しかし、注意点もあります。下記では、契約前に確認が必要な注意点について解説します。
原則として中途解約できない
金銭信託の注意点は、原則として中途解約できないことです。金銭信託には契約期間が定められています。1年・3年・5年といった契約期間の間に資金が必要になっても、原則として中途解約はできません。
やむを得ない事情で解約するときは、解約手数料が発生します。解約手数料は約款や契約書類に記載されているため、事前に確認してください。
金利が下落すると利益が減る
元本保証と預金保険の有無を確認する
「実績配当」の金銭信託の場合、信託期間の運用結果によっては損失が発生することを理解しておきましょう。ただし例外として、指定金銭信託については元本保証契約を付けることができます。合同運用指定金銭信託(一般口)には元本保証契約が付いています。元本保証と預金保険の有無をきっちりと確認してから契約するようにしましょう。
投資信託や定期預金との違いは?
金銭信託は投資信託と似ているように感じる方もいらっしゃるでしょう。また、決まった期間だけ資金を預けることから、定期預金との使い分けに迷うこともあるかもしれません。ここでは投資信託や定期預金との違いを解説します。
投資信託の仕組み
投資信託には、投資信託運用会社が深く関係します。
投資信託運用会社は金融商品として投資信託を作り、販売会社で販売します。販売会社とは主に証券会社や銀行・郵便局です。
販売会社を通じて、たくさんの個人投資家から資金を集めた投資信託運用会社は、委託者として信託銀行・信託会社に資金を託します。
投資信託運用会社は投資の専門家であり、個人投資家の代わりにどのような資産に投資するのかを決定します。受託者である信託銀行や信託会社は、投資信託運用会社の指示に従って運用を行う仕組みとなります。
投資信託の特徴
投資信託の特徴は、たくさんの資金を集めて効率よく運用ができる点です。まとめた資金を投資の専門家が有価証券や不動産に投資するため、個人で運用するよりも利益を得やすいことが特徴です。
また、運用利益は個人投資家の利益として還元されますが、投資信託には元本保証はないため、リスクを伴います。一般的にはハイリターンな商品ほど、リスクが高い傾向にあることを理解しておきましょう。そのほか、投資信託には確定申告が必要な取引もあります。
金銭信託と投資信託の違い
金銭信託と投資信託では、資金の運用を決める会社が異なります。
投資信託では、信託銀行・信託会社は資金の管理をするだけで、運用についての権限はありません。一方、金銭信託では、信託銀行・信託会社に運用も管理も任せることになります。
また、オープン型の投資信託であればいつでも換金できますが、金銭信託の場合は、信託期間が終わるまで換金することはできません。ほかにも、金銭信託には元本保証や預金保険の契約を付加できる商品がありますが、投資信託には元本保証の考えはありません。
定期預金の特徴
定期預金とは、さまざまな銀行で用意されている預金サービスのことで、普通預金より金利が高く設定されています。その代わりに、預け入れ期間が設定されており、原則その間は引き出しできないことが特徴です。使う予定のない資金を貯蓄しながら、利息を少しでも増やしたいときに有効です。
金銭信託と定期預金との違い
金銭信託と定期預金は、「一定期間の契約になること」「契約期間中に資金を利用できないこと」は同じです。定期預金が金銭信託と違うところは、元本保証と預金保険があるところでしょう。前述したように、金銭信託にも元本保証と預金保険の付いた商品もありますが、全ての商品に付いているわけではありません。また、定期預金では金利が契約前に決まっており、満期になったときの受取利息の金額を契約時に知ることができます。対して金銭信託は、あくまで予定配当率のため、契約終了時の予定配当額を知ることはできますが、金額は確定していません。
【あわせて確認する】定期預金や投資信託との違い |
まとめ
現在販売されている金銭信託は、投資信託に比べてより安定性を重視して運用されており、、なるべく低いリスクで資産運用を考える人に向いています。契約期間中の途中解約はできませんが、少額から始めることのできる商品もあるため、比較的始めやすい資産運用方法といえるでしょう。
また、多くの金銭信託は、定期預金よりも高い予定配当率となっています。投資信託等に抵抗があるとういう人は、定期預金の代わりに金銭信託を選んでみてはいかがでしょうか。