上野泰也氏にきく 「上がらない長期金利が意味するもの」

投稿日:2018/10/10 最終更新日:2023/03/08
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【著名人インタビュー】

上野泰也氏にきく
「上がらない長期金利が意味するもの」

アベノミクスで年2%の物価上昇を目指す安倍政権。しかし、債券市場の見方は意外とクールで、長期金利は上昇するどころか、逆に0.7%を割り込んできました。果たして、今後の長期金利はどうなるのか。みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏に伺いました。
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みずほ証券リサーチグループ
金融市場調査部チーフマーケット
エコノミスト上野泰也氏
デフレからインフレへの転換を目指すアベノミクスですが、むしろ長期金利は低下傾向をたどっています。なぜでしょうか。
上野氏
やはり債券市場の需給バランスが非常に良いということが、長期金利が上がらずに下がっている最大の理由だと思います。
今年の4月から、いわゆる異次元緩和(量的・質的金融緩和)の一環として、国債の新規発行分の7割を市場から買うという日銀の長期国債買い入れが実施されています。また、国内の機関投資家は余剰資金を大量に抱えており、債券の購入需要がきわめて大きい状態です。このため、債券市場で何か売り材料が出てきて国債が売られ、利回りが上昇しても、日銀が頻繁に買い入れを実施するので、荷もたれ感(需給悪化懸念の広がり)が生じにくくなっており、そうした中で民間の投資家が債券を買ってくるものだから、結局、長期金利は上がりにくく、下がりやすいという地合いが形成されているのです。
海外に目を向けると、米国やイギリス、ドイツは長期金利がやや長い目で見ると上昇局面に入ったのですが、同じ先進国でも、日本の長期金利にはこうした独自の要因があるため、上昇余地が今後も限られると見られています。むしろ、足元では低下傾向にあり、このままだと0.6%割れの水準まで低下する可能性もあります。
長期金利の低下は、債券市場の参加者がアベノミクスは成功しないと見ているからでしょうか。
上野氏
安倍政権はインフレ率2%を達成するために、量的・質的金融緩和や積極的な財政出動、そして成長戦略を打ち出してきているのですが、現実の経済を見れば、それらによる日本経済の力強い復活がかなり難しいということは明白です。
貸出はなかなか伸びませんし、消費も6月からへたってきました。輸出は伸びていますが新興国の景気減速などもあって力強さまではありません。株価も5月につけた日経平均1万5,942円がピークで、このところ1万3000〜4000円台で頭打ちです。米国経済は確かに回復してきていますが、日本経済は物価が2%も上昇するほどの回復軌道に乗ったとは言えない状況です。少なくとも債券市場の参加者は、アベノミクス効果に対して、かなり冷やかに見ていると思います。
他にも、日本の長期金利が上昇しにくくなっている理由があります。
まず消費税率の引き上げが確定したこと。2014年4月から、消費税率が8%に引き上げられますが、もしこれが見送りということになっていたら、日本の財政悪化懸念が材料になって、日本国債はある程度は売られていたでしょう。
加えて、次期FRB議長がサマーズ元財務長官ではなくなり、ハト派のイエレン副議長の昇格が濃厚になったことで、米国の政策金利引き上げがかなり先になる可能性が高まったことも、日本の長期金利の頭を押さえる要因になっています。
政府機関閉鎖など足元の財政問題が決着したあと、今年の年末から来年の初めにかけては、米国経済の回復色があらためて鮮明になるとみており、米国の長期金利が上昇し、それにつられて日本の長期金利も上昇する可能性があります。ですが、それでも10年債利回りが1%に乗せるのは難しいでしょう。日本のファンダメンタルズからみると妥当な水準は1.0〜1.2%程度だと考えられるものの、この先しばらくは、それよりも低い水準で推移する可能性が高くなっています。
そうなると、日本経済の回復は、まだ先になるということですか。
上野氏
人口減・少子高齢化の流れに抗して日本経済が大きく変わるという姿が見えてきていません。企業経営の方針を見ても、積極的にベースアップしていこうという姿勢が見えない。将来的に賃金が上昇していくという可能性が見えれば、サービス分野の価格上昇を通じて2%のインフレ率を達成できる可能性は一応高まりますが、日本企業が置かれているグローバルな競争の厳しさを見れば、まとまった幅でベアがつく可能性が低いのは明白です。エネルギー価格や食糧価格の上昇がインフレを引き起こすという、「悪い物価上昇」は現に起きているものの、それは一過性のショックであって、継続的な物価上昇にはつながらないでしょう。
つまりデフレからの脱却は無理だと。
上野氏
非常に難しいと思います。デフレの原因である過少需要と過剰供給の組み合わせには、この先も基本的には変わりがなさそうです。それは、需要面では、人口動態で見れば明らかです。長期的に見ると、日本の総人口は2060年にかけて9,000万人を割り込んできますし、生産年齢人口に至っては5,000万人を割り込みます。人口がどんどん減っていくということは、それだけで経済の活力を奪います。日本が、このデフレから脱却するためには、金融政策に偏重した今の政策で対応しても無理でしょう。

チャート 日経平均株価(2012年7月1日〜2013年4月5日)

仮に、日本経済がデフレから脱却しようとするならば、何をどうすれば良いのでしょうか。
上野氏
需要面では、やはり日本の国土に滞在している人口をいかに増やすかという点だと思います。そのためには、少子化対策や観光客誘致の強化のほかに。移民の受け入れにも手をつけていかなければなりません。
もちろん、移民なら誰でも良いというわけではありません。若い外国人を中心にして、高技能の労働者を、まず呼び込む必要があります。
確かに、アベノミクスが注目されるようになってから、表面的には電気料金やガソリン、食品の値上がりを中心に、物価がやや上昇し、景気も緩やかに回復していますが、物価がここからさらに持続的に上昇していくかというと、大いに疑問です。
三本の矢について個別にコメントすると、まず量的金融緩和の効果が出ているかどうかについては、客観的には来年秋口くらいまでの状況を見ないことには結論は下せません。ただ、金融緩和による具体的な効果が出てきたのかと言われれば、それはほとんどないとしか言いようがないでしょう。また、量的金融緩和で金利水準は低下していますが、債券から株式に運用資金がシフトする動きは出てきていないのが現状です。
第二の矢である機動的な財政出動に関しては、景気回復には公共事業の上積みなどが当然寄与しているものの、それ以上に重要な問題は、そのことによる借金増大というコストです。
そして第三の矢である成長戦略ですが、これに関しては、たとえばクールジャパンによる外国人観光客の誘い込みという点では私も高く評価しています。しかし、さまざまなメニューが今後どのような成果を挙げるかについては、さらにはアベノミクスが失敗なのかどうかについて、結論を下すには時間が必要だとは思います。現在までのところでは、合格点にはほど遠いのではないかと考えています。
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オリンピックによる経済効果はどうですか。
上野氏
東京オリンピックの開催は2020年ですが、最大の問題は2015年から2020年にかけて、東京の人口がピークをつけて減少に転じるということです。これから、東京オリンピックの開催に向けて、東京ではさまざまなインフラ整備が進められていくでしょう。将来的には居住地区にするという前提で、巨大な選手村も造られる予定です。
しかし、前述したように、東京の人口は減少に転じるわけですから、観光客の水準を落とさないというシナリオが実現しない限り、恐らくオリンピック開催後、東京の住宅の需給バランスは崩れていくと思います。これが景気にどのような影響を及ぼすか、懸念されるところです。
過去、開催されたオリンピックのなかでは、数少ない成功事例とされるロンドンオリンピックも、閉幕後は問題が生じました。海外からの観戦者が宿泊できるようにホテルがたくさん建てられましたが、今は逆にホテルが余り、価格のダンピング競争が行われているようです。また、選手村を住宅に切り替えたのは良いのですが、ここでも価格の下落によって低所得者層が住み着くことになり、周辺ムードの悪化が問題になっているといいます。
オリンピックの開催というのは、ある意味では箱モノ行政の典型例です。一時的には需要を盛り上げることになりますが、問題は終わった後です。たくさん造られた建物や交通施設などのインフラを、その後も十分に活用していくだけの需要があれば良いのですが、通常は「宴の後」状態に陥ります。利用者が減った施設でも、それを維持していくにはコストがかかります。だから、箱モノを作る時は、極めて保守的な需給見通しを建てる必要があるのですが、今の浮かれムードで、果たしてどこまでそのような見通しが建てられるのか、疑問です。
オリンピック需要に乗じて国土強靭化政策を推し進め、日本の古くなったインフラを一気に整備するなどと言われていますが、前述したように、日本の人口はこれから減少していきます。それなのに、高度経済成長期に造ったインフラを、そのまま建て変える必要はどこにもないでしょう。もし、それをやったとしたら、日本のインフラは人口面で見て、明らかに供給過多になります。
とにかく気がかりなのは、東京オリンピックの誘致が成功したことによる浮かれムードで、野放図なインフラ整備が行われることです。
景気低迷で長期金利は上がらないということですが、日本の財政赤字は年々積み上がっています。悪い長期金利の上昇につながる恐れはありませんか。
上野氏
早ければ5年後あたり、遅くとも13年後あたりから、長期金利への上昇圧力がじわじわと強まってくるのではないでしょうか。その最大の理由は、国債の消化構造が変わってくることです。現状、日本国債の保有者は、9割以上が国内の投資家ですが、このままのペースで国債が発行され続けると、どこかの段階で家計の余剰マネーが枯渇し、結局は外国人投資家の資金を引っ張ってこないと国債の消化が円滑に進まなくなります。
国債が暴落(長期金利が暴騰)するようなことにはならないと思いますが、その代わりに、リスクプレミアムの拡大だけ長期金利がじわじわと上昇していくことになるでしょう。
なお、一般の方からよく質問を受けるのですが、すぐに日本の長期金利がどんどん上昇していく可能性は低いと考えています。個人の住宅ローンでは、変動金利型から固定金利型への切り替えを勧めるムードがありますが、私の見解では、少なくとも黒田日銀総裁が在任している間、つまりあと4年半くらいは利上げがあるとは考えにくいので、変動金利型のままでも大丈夫でしょう。
掲載日:2013年月10月16日

上野 泰也(うえの・やすなり)氏プロフィール
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みずほ証券リサーチグループ金融市場調査部チーフマーケットエコノミスト
1985年上智大学文学部史学科卒業、法学部法律学科に学士入学後、国家公務員I種(行政職)にトップ合格したため中退。86年会計検査院に入庁。88年富士銀行(現みずほ銀行)に転じ、資金為替部にて為替ディーラー。90年から為替、資金、債券の各セクションでマーケットエコノミスト。94年富士証券チーフマーケットエコノミスト。00年10月より現職。

【主な著書】
『「為替」の誤解』(朝日新聞出版) 2012
『国家破局カウントダウン』(朝日新聞出版) 2011
『世界一わかりやすい経済の本(編著)』(かんき出版) 2011

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