妊娠や出産はおめでたいイベントですが、通院や出産時の費用などかなり出費がかかるのも事実です。どこまで医療費控除の対象となるか気になる人も多いのではないでしょうか。どの支出が医療費控除の対象となるのか理解してから確定申告で医療費控除申請をして還付金を取り戻しましょう。
医療費控除の還付金や各種給付金などを含めると、出産にかかわる費用は一定金額までは補助されますが、それだけでは不安が残ります。どれだけ還付金が戻るのかをおさえつつ、民間の医療保険などを利用することを検討しておき、自分たちでも事前に備えておくことが重要です。
医療費控除の対象となる妊娠・出産費用の項目
妊娠・出産に関連する支出でも医療費控除の対象となるものとならないものがあります。原則として医療に直接関係する支出は医療費控除の対象となりますが、具体的にどのような項目が対象となるのか理解しておきましょう。
妊娠や出産以外で対象となる医療費が知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
妊婦検診や分娩費用は対象となる
医療費控除の対象となる主な対象は、直接的に出産を目的にしているかどうかがポイントになります。入院費や検査費用のように病院に支払う費用だけでなく、交通費(原則は公共交通機関)なども対象になるので領収書等を残しておくようにしましょう。
妊婦検診に関しては不安に思う人もいるかもしれませんが、こちらも国税庁から医療費控除対象になると回答されています。定期健診や検査だけでなく、産後検診に関しても医療費控除の対象となります。
医師による診療等の対価として支払われる妊婦の定期検診の費用は医療費控除の対象となります。なお、出産後の検診の費用についても、医療費控除の対象となります(所得税基本通達73-7)
引用:国税庁「妊婦の定期検診のための費用」
この他にも、以下のような支出は医療費控除の対象です。
【医療費控除対象となる支出】
- 妊婦定期健診、検査費用
- 切迫早産や妊娠悪阻などの入院費用(医師が認めた場合に限る)
- 通院や入院時の公共交通機関を利用した交通費
- タクシー代(緊急時など公共交通機関が使えない場合)
- 入院中の食事代(出前や外食などは対象外)
- 出産時の入院費用
- 不妊治療
不明点がある時や、医療費控除の対象になるか知りたいときには、国税局電話相談センターへ問い合わせてみるのがよいでしょう。
問合せ先:国税局「税についての相談窓口」
医療費控除の対象とならない主な妊娠・出産費用の項目
出産に必要な費用でも以下のような項目は原則として医療費控除の対象となりません。治療に直接関係しない支出や必要最低限ではない支出は医療費控除できないと考えたほうが良さそうです。
【医療費控除対象外の支出】
- 妊娠検査薬の購入代金
- 自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車場代
- 予防接種等(医師が判断した場合は対象となる)
- 入院時の差額ベッドの料金
- 里帰り出産時の交通費
- 入院用として購入した衣服や必要物の購入代
- 赤ちゃんのおむつ代、ミルク代
- 医師や看護師へのお礼など
医療費から差し引くことができる保険金・給付金
医療費控除の申請をしたことがないと、どのように計算するのかわからないという人も多いと思います。医療費控除は、納税者本人または生計を一にする配偶者その他の親族の医療費を支払った場合に適用することができます。具体的には医療費控除は以下のように計算します。
控除額(※1) = 支出した医療費の額 - 保険金などで補填される金額(※2) - 10万円(※3)
※1:控除額の上限は200万円
※2:健康保険や生命保険などからの給付金
※3:所得金額が200万円未満の場合、所得金額×5%
妊娠や出産では、どのような保険金・給付金が計算式の「保険金などで補填される金額」になるのでしょうか?
出産育児一時金は差し引く必要がある?
出産育児一時金は医療費控除の計算の中の「保険金などで補填される金額」に該当します。つまり実際に使った医療費の額から差し引かなくてはいけません。
現在、出産育児一時金は子供が生まれたときに1児につき42万円が健康保険組合や共済組合などから給付されます(産科医療補償制度に加入してない病院等で出産された場合は1人につき40.8万円)。
※出産育児一時金は23年4月から50万円に増額される見込みです。
つまり、出産育児一時金が給付された場合は医療費控除の額から42万円減ることになります。出産育児一時金について詳しく知りたい方はこちらの記事で解説しています。
出産手当金は差し引く必要がある?
出産手当金は、出産による休業によって給与の支払いがなくなる補填として受け取ることができる手当です。出産する本人が健康保険の被保険者であることが条件です。
出産手当は休業期間中の給与が減ることに対する手当であり、医療費を補填するものではありませんので医療費控除の計算で手当金を差し引く必要はありません。
出産および出産の前後に関わる給付金や助成金に関して、医療費控除の計算で「保険金などで補填される金額」該当する手当の一例です。
傷病手当金も出産手当金と同じ性質の手当で、病気やけがのために仕事ができない場合に休業4日目から最大で通算1年6カ月支給されるものなので、医療費控除の計算上差し引く必要はありません。
保険金などで補填される金額に該当する手当 | 保険金などで補填される金額に該当しない手当 |
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出産手当について詳しく知りたい方はこちらの記事で解説しています。
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還付金がいくら戻るかシミュレーション
実際にどれだけ還付金が戻ってくるのかシミュレーションしてみます。戻ってくる還付金は納めすぎた所得税です。所得税は所得金額によって税率が変わる累進課税で、所得が大きいほど税率が上がるので還付金も大きくなります。
もらえる還付金は所得によって決まる
還付金を計算する前に医療費控除の基本的な知識を理解しておきましょう。医療費控除を申請すると、納めすぎた所得税が戻ってくることと、翌年6月以降の住民税が低くなるというメリットがあります。
会社員の場合、所得税は会社が代わりに納税してくれますが、医療費控除は年末調整の対象になりません。そのため、医療費控除を考慮した正しい金額との差額が還付されます。
住民税も計算方法は同じですが、タイミングが所得税とは異なります。住民税は地方公共団体が税額を算出する賦課課税方式の課税方法をとっています。したがって医療費控除を引いた課税所得金額で翌年の住民税が計算されることになるので、医療費控除の申請によって住民税を少なくすることにつながります。
所得税は簡単に説明すると以下のように算出します。
- 給与所得などの各所得を合算して課税所得を計算する
- 課税所得から所得控除を差し引いて課税所得金額を計算する
- 課税所得金額に税率をかけて所得税額を計算する
- 税額控除を差し引いて納税額を計算する
医療費控除は所得控除にあたるので、2の計算に影響します。つまり、所得税の計算のもとになる課税所得金額が小さくなるので、本来収めるはずだった金額との差額が還付されるという仕組みです。
所得税は課税される所得の金額によって7段階に税率が分かれています。そのため、還付される金額は所得によっても変わります。
課税される所得金額 | 税率 |
1000円~195万円未満 | 5% |
195万円~330万円未満 | 10% |
330万円~695万円未満 | 20% |
695万円~900万円未満 | 23% |
900万円~1800万円未満 | 33% |
1800万円~4000万円未満 | 40% |
4000万円以上 | 45% |
還付金を実際に計算する
実際に還付金がどれくらい戻ってくるのか以下の条件で具体的に計算してみます。
【例】
出産にかかった費用の合計:70万円
出産育児一時金:50万円
課税所得:500万円(税率20%)
医療費控除額 = 支出した医療費の額-保険金などで補填される金額 -10万円 医療費控除 =70万円-50万円-10万円=10万円
還付金=10万円×20%=2万円
妊娠や出産にかかる費用は妊婦や赤ちゃんの体調でばらつきがあり、還付金を受け取ってもその後の生活に不安を感じる人も少なくありません。そのような方は、民間の妊婦保険の加入を検討しましょう。妊娠や出産での保険の選び方についてはこちらの記事を参考にしてください。
医療費控除の申請手続きと書き方
還付金を受け取るために、確定申告で医療費控除の申請をしましょう。医療費控除の申請には医療費控除の明細書などを作成する必要があります。また、過去に医療費をたくさん払ったのに医療費控除の申請をしていないという人もさかのぼって申請することができます。
還付金の受け取りには申請が必要
還付金を受け取るには確定申告で医療費控除申請が必要です。令和4年分の医療費控除をする場合、以下の書類を準備します。国税庁の確定申告様式は以下のリンクを参考にしてください。書類を準備するよりもe-taxで申請したほうが税務署を訪れる必要もなく簡単です。
- 令和4年分の所得税及び復興特別所得税の申告書
- 医療費控除の明細書【内訳書】
- 医療費の領収書(※)
※領収書は確定申告での添付は不要になっていますが、5年間保管する必要があります。
参考:国税庁「医療費控除を受ける方へ」
参考:国税庁「確定申告書等の様式・手引き等(令和4年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告分)」
参考:国税庁「医療費控除 の適用を受ける場合は領収書の提出が不要となりました」
医療費控除の申請方法について詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
医療費控除の申請はさかのぼって可能
医療費控除は5年間さかのぼって申請することが可能です。2022年分の確定申告は2023年2月16日 - 3月15日ですが、医療費控除は2023年1月 - 2027年12月まで申請できます。
確定申告の期間を過ぎてしまったからもう遅いと諦める必要はありませんので忘れずに申請しましょう。
まとめ
出産にかかわる支出には医療費控除申請できるものがたくさんあります。出産には大きな費用がかかるので、確定申告で医療費控除申請をして還付金を取り戻しましょう。
しかし、還付金を受け取っても、お金に関する不安が残る場合があります。そのような場合、民間の妊婦保険の加入も検討してみましょう。
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よくある質問
Q | 共働きの場合、夫婦のどちらの所得で申請した方がいいですか? |
A | 所得税は所得金額に応じて税率が変わる累進課税制度なので、所得が多いほうで申請したほうがお得です。 |
Q | 還付金が振り込まれるまで時間はどれくらいかかりますか? |
A | 一般的には振込までは1.5カ月程度が目安になります。ただし、申告期限間際になると振込までの時間が長くなる可能性があります。 |
Q | 医療費控除の対象に通院費用が含まれますが、領収書がありません。どうすればよいでしょうか? |
A | 領収書がないものに関しては、家計簿をつけるなどして正確に説明できるようにしておきましょう。 |