2022年10月からiDeCoと企業型DCの併用に関する制度が変更されました。より両者を併用しやすくなったため、老後に向けた資産運用の柔軟性が向上し、また制度上の上限である5.5万円まで拠出しやすくなりました。企業型DCやiDeCoに加え、NISA・つみたてNISAを併用することで、税金の支払いを抑えながら運用の選択肢を増やすのも有効な選択肢となります。
iDeCoの2022年改正内容をおさらい
個人型確定拠出年金であるiDeCoは2022年に制度が改正されました。その中で企業型DCに加入している人の加入要件が緩和されて、企業型DC加入者がiDeCoと両方に加入しやすい制度に変わっています。まずは、iDeCoの基本的なしくみと、2022年の制度改正についてみていきましょう。
そもそもiDeCoとは?
iDeCoは、老後生活のための資産を形成するための個人型確定拠出年金です。以前から存在した年金制度である「国民年金」や「厚生年金」などは公的機関が年金基金を運用しますが、iDeCoでは個人が自ら毎月の掛け金を拠出し、自ら投資先を決めて運用します。
iDeCoは20歳から加入が可能です。先日成人の年齢が18歳に引き下げられましたが、2023年1月時点では引き続きiDeCoの加入年齢は20歳からとなっています。加入義務はないため、そもそも制度を利用するかどうかは個人の自由です。
iDeCoについてはこちらの記事でも詳しく紹介しているので、合わせて参考にしてください。
目玉:企業型DC加入者のiDeCo加入要件緩和
2022年のiDeCoのルール改正でとくに注目すべきなのは、企業型DC加入者のiDeCo加入要件が緩和されたことです。従来の法令において企業型DC加入者のうちiDeCo加入資格があるのは、次の条件を満たす人に限られていました。
- 企業型DC規約に加入を認める規定がある
- 事業主掛金の上限が月額3.5万円以内の企業の従業員(確定給付企業年金(DB)にも加入する場合は1.55万円)
事業主掛金が3.5万円を超える場合には、iDeCoを利用することができなかったのです。
対して、2022年10月からは、企業DC側の規約における定めは不要になりました。そして、下図の「改正後」の図のように、事業主掛金とiDeCoの拠出額の合計が5万円以下、かつiDeCo単体の拠出額が2万円以下となる範囲でiDeCoの併用が可能となりました。現在の企業型DCに加入している人、そして企業型DCかつ確定給付型年金に加入している人のiDeCoへの拠出限度額は以下の通りとなっています。
企業型DCに加入している方が、 iDeCoに加入する場合 |
企業型DCと確定給付型に加入している方が、 iDeCoに加入する場合 |
|
企業型DCの事業主掛金(①) | 55,000円以内 | 27,500円以内 |
iDeCoの掛金(②) | 20,000円以内 | 12,000円以内 |
①+② | 55,000円以内 | 27,500円以内 |
このように企業型DCや確定給付型年金に加入している人でも、iDeCoを利用しやすくなり、老後の備えを手厚くすることができるようになりました。なお、加入者が掛金を上乗せして運用してもらう「マッチング拠出制度」が企業型DCに設定されている場合には、加入者はiDeCoに加入するかマッチング拠出制度を利用するかを選択できます(マッチング拠出とiDeCoを併用することはできないので、注意が必要です)。
なお、少し前になりますが、2022年の4〜5月にかけては次のような制度改正も行われていますので、合わせておさえておきましょう。
- 老齢給付金の受給開始時期の上限が従来70歳までだったところ、75歳に延長
- 会社員・公務員及び国民年金に任意加入している60歳以上65歳未満の人も加入可能に
- 国民年金に任意加入している海外居住者が加入可能に
これまでより受給年齢を遅らせることが可能になり、また、60歳以上の方および一部の海外在住の方もiDeCoを利用可能になったのです。
iDeCoと企業型DCの違いや併用するメリット・デメリット
iDeCoと企業型DCは加入者や掛金・手数料を負担する人などさまざまな違いがあります。これらを併用することで月の掛金を最大化したり、運用の柔軟性を高められるといったメリットがあります。一方で、iDeCoの口座管理手数料がかかる、資産管理に関する手続きが煩雑化する恐れがあるなどのデメリットも忘れてはいけません。
iDeCoと企業型DCの違いとは?
iDeCoと企業型DCはどちらも老後に備えるための年金制度の一つですが、次の表のとおりさまざまな違いがあります。
iDeCo | 企業型DC | |
加入対象者 | 20歳以上65歳未満の 加入資格のある方 |
制度を導入している企業の従業員 (60歳未満) |
掛金 | 本人が負担 | 企業が負担 |
運用商品の選択 | iDeCoを利用する金融機関のラインナップの中から 自分で選ぶ |
企業が定めたラインナップの中から 自分で選ぶ |
口座管理費用 | 本人が負担 | 企業が負担 |
加入対象者ですが、企業型DCはその企業に属している従業員であることが前提となります。そのため企業を退職した場合には企業型DCからも抜けることになるのです。一方で、iDeCoは自分の裁量で加入するものなので、所属企業は関係ありません。例えば、転職をしてもそのまま運用が続きます。
続いて掛け金については、企業型DCは企業が負担することになっています。福利厚生制度の一部として、企業型DCの制度を採用しているケースが多いです。一方で、iDeCoは自分の可処分所得から資金を毎月拠出しなければいけません。家計がひっ迫しないよう、余裕を持った掛け金を設定する必要があります。また口座管理手数料については、企業型DCは企業負担、iDeCoは個人負担となります。iDeCoの場合は、運用している資産の中から手数料が控除される仕組みです。
運用商品については、どっちも一定の選択肢から自分で選択可能です。企業型DCの場合は、企業のDCを管理する部署が定めたラインナップの中から選びます。iDeCoについては、金融機関によってラインナップが異なります。そのため、iDeCoを管理する金融機関を選ぶ際にはその金融機関が扱うファンドのラインナップも確認しておいた方がよいでしょう。
併用のメリット
iDeCoと企業型DCを併用するメリットは大きく分けて二つです。
- 認められている掛け金の枠を有効活用できる
- 運用するファンドの選択肢が広がる
企業型DCの制度上の掛け金の上限は5.5万円ですが、実際の掛け金は事業主によって異なります。たとえば事業主の拠出額が3.5万円だった場合は、制度上の掛け金の枠の全てを使えないことになってしまいます。この時に企業型DCの拠出額と5.5万円の差額2万円をiDeCoで運用することで、両者の差額を埋めることができます。
また、iDeCoと企業型DCのファンドラインナップが異なる場合は、併用することで運用するファンドの選択肢を増やすことが可能になります。より自分の投資意向に合わせてより柔軟にポートフォリオを形成できます。
併用のデメリット
iDeCoと企業型DCを併用する際のデメリットについても二つあります。
- iDeCoの口座管理手数料が発生する
- 資産管理に手間がかかる
企業型DCだけなら、口座の管理費用は企業負担ですが、iDeCoに加入すると、その分の手数料は自己負担です。企業型DCだけで運用するよりも利用者のコストが増大することになります。
また、企業型DCとiDeCoそれぞれにポートフォリオを持つことになるので、資産の投資先全体を把握するのが難しくなります。資産運用に積極的な人ならいいですが、年金は拠出だけして普段は放置しておきたいという人にとっては手間に感じるでしょう。企業型DCとiDeCoそれぞれに運用の指図をしなければならないため、運用に関する手続きも倍増します。
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iDeCoと企業型DCを併用できない場合
iDeCoと企業型DCを併用できないケースは大きく次の二つです。
- マッチング拠出を行っている場合
- 退職後、会社員から自営業者や専業主婦(夫)となった場合
マッチング拠出とは企業型DCの制度の一部で、企業が拠出する金額に自己資金を上乗せして拠出できる制度です。自分で出す部分の金額の上限は企業が拠出する金額と同額までとなっています。それ以外は通常の企業型DCとおおむね同様なので、実質的には企業が拠出する資金と一括して企業型DCの枠組みの中で運用することになります。
実は、マッチング拠出とiDeCoは併用できない仕組みとなっています。現時点でマッチング拠出をおこなっている人は、そのまま継続するか、マッチング拠出を終了してiDeCoへ移管するかを検討しなければいけません。
マッチング拠出の継続とiDeCoへの移管のメリット・デメリットをまとめると、次の通りです。
マッチング拠出の継続 | iDeCoへの新規加入 | |
メリット | ①口座管理手数料を会社が負担してくれる ②企業型DCの口座だけで済むため、口座管理が比較的楽 |
①掛金を上限額まで掛けられる ②自分で金融機関や運用商品を選べる |
デメリット | ①マッチング拠出の掛金額が少なくなる場合がある ②金融機関は会社がしているため、購入できる商品も限定されている |
①口座管理手数料が自己負担 ②企業型DCとiDeCo、それぞれの口座が必要になるため、 管理が煩雑になる |
マッチング拠出は企業型DCの一部なので、口座管理手数料は会社負担であるというメリットがあります。この点iDeCoは自己負担となるので、従業員から見れば、運用コストはマッチング拠出の方が安く済むでしょう。また、マッチング拠出なら企業が拠出する部分も一括管理できます。自分で企業型DC部分と合算して管理しなければならないiDeCoと比較して、資産管理は簡略化できるでしょう。
一方で、拠出額がマッチング拠出、iDeCoどちらが多くなるかは慎重に考える必要があります。企業型DCに加入している場合(かつ確定給付型には加入していない場合)、iDeCoの拠出上限額は2万円に対して、マッチング拠出は企業の拠出額と同額までとなっています。たとえば企業の拠出額が1万円だったとすると、マッチング拠出は同額の1万円までしか拠出できないため、iDeCoの方が拠出額の上限が多いということになります。
また、マッチング拠出の投資先は企業の拠出部分と共通になるので、ラインナップが広がることはありません。iDeCoについては利用する金融機関のラインナップが企業型DCと異なれば、投資先の選択肢が増えることになります。
以上のようなマッチング拠出とiDeCo双方のメリット・デメリットを比較しながら、自分にとって有利な制度を選択しましょう。
iDeCoの上手な使い方
iDeCoは他の資産運用の制度とうまく組み合わせて効率よく使うのがおすすめです。ここでは企業型DCのほか、節税効果のあるNISA・つみたてNISAとの併用のポイントについても紹介していきます。
まず、iDeCoと企業型DCの併用についてですが、ここまで紹介してきたとおり、企業型DCだけでは拠出額が上限まで達しない人や、投資先の選択肢に柔軟性を持たせたい人は、両者を併用するのがおすすめです。
続いて節税効果が期待できるNISAとiDeCoは、投資スタイルや投資先に合わせて使い分けるのがよいでしょう。iDeCoは毎月積立を行うのが前提となる制度で、かつ投資先は投信が中心となっており、現物の株式は購入できません。
対して一般NISAはその年の上限額(2023年時点では120万円)以内であればまとまった一括投資を実行できるうえ、日本株の購入も可能です。毎月の投信積立はiDeCoで行い、株式購入やまとまった一括投資にはNISAを活用すると、効率よく資産運用をおこなえるでしょう。
続いてはつみたてNISAとiDeCoでの併用を考えてみましょう。まず、企業型DC・iDeCoの拠出額の合計よりも多くの金額を積み立てたい場合には、つみたてNISAの併用により、月々の投資額を増やせるためおすすめです。また、iDeCoは複数の金融機関に加入することはできません。一方で、つみたてNISAとiDeCoで、それぞれ別の金融機関を利用することは可能です。両者を併用すれば、実質的に複数の金融機関で節税しながら積立運用を行うことが可能です。
また、iDeCoは基本的に60歳まで現金化ができません。一方でつみたてNISAは、非課税の恩恵を受けられなくなるものの、売却による現金化や再投資が可能です。いざという時の現金化の余地を残しておくためにつみたてNISAを併用するのも、有効な活用法といえるでしょう。
NISAについては2024年から新NISAが開始されます。現行制度に比べて、より柔軟な資産形成が可能になります。詳しくは下記の記事を参考にしてください。
まとめ
2022年10月の制度変更によりiDeCoと企業型DCの両方に加入しやすくなりました。また、企業型DC・iDeCo合計の拠出額を、制度の上限である5.5万円まで増やせるケースが多くなりました。運用管理手数料が発生するなどの留意点はあるものの、企業型DCだけでは拠出額が足りないと感じる人は、ぜひiDeCoの活用を検討しましょう。
また、iDeCoはNISAやつみたてNISAと併用することで、資産運用に柔軟性を持たせることができます。iDeCoや企業型DCだけでなく、証券口座を開設してNISAやつみたてNISAで、節税しながら投資にチャレンジするのもおすすめです。
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よくある質問
Q | iDeCoと企業型DCはいつから併用ができますか? |
A | 2022年10月から制度改正がすでに施行されており、iDeCoと企業型DCの併用の自由度が向上しました。 |
Q | 2023年1月現在、どんな人がiDeCoに加入できる/できないのですか? |
A | 国民年金の1〜3号被保険者及び国民年金の任意加入被保険者は次を除き加入できます。 国民年金の加入者のうちiDeCoの加入対象とならない人
|
Q | iDeCoと企業型DCの併用はいくらまでですか? |
A | 確定給付型に加入していない場合は総額5.5万円以内で、iDeCo単体で2万円以内です。企業型DCに加えて確定給付型年金にも加入している場合は、総額2.75万円以内で、iDeCoは1.2万円以内です。 |