日銀は12月の金融政策決定会合において、今の大規模な金融融和政策を一部見直すことを発表しました。具体的には、長期金利の変動許容幅を今までの±0.25%から±0.5%に引き上げ、市場では「事実上の利上げ」として受け止められています。
本記事では、利上げが「日常生活に及ぼす影響」や「利上げ時に強い投資方法」について紹介します。
金融政策決定会合で日銀が長期金利の変動許容幅を0.5%に引き上げると将来何がどう変わる?
12月の金融政策決定会合において、日銀は長期金利の変動許容幅を今までの±0.25%から±0.5%に引き上げることを発表しました。黒田総裁は記者会見で「今回の措置は利上げではない」と繰り返し強調しましたが、市場では「事実上の利上げ」として受け止められています。
たしかに、「政策金利を引き上げる」という意味での利上げではないのは確かとはいえ、これまで天井に張り付いていた長期金利の変動上限を引き上げるという点では、「事実上の」利上げといえるでしょう。
では、投資と日常生活の観点から、利上げするとどのような影響があるのでしょうか?投資の観点から、利上げがされると一般的に株価は下落し、円相場は円高に向かいやすくなります。また、利上げがされると新規発行される債券の利回りが上昇し、価格も低下します。
現に、日銀の発表を受けて日経平均株価は一時800円以上も値下がりし、ドル円相場は136円台から132円台前半まで急騰、10年ものの国債利回りは0.460%まで上昇しました。
一方、日常生活に近いところで考えると、利上げがされる場合一般的に物価は下がりますが、住宅ローンや融資の金利は上昇するため、資金を借りにくくなります。
それぞれの観点について、詳しく解説します。
そもそも日銀が金融政策を修正した目的は?
「金融融和の持続性を高め、物価安定の目標を目指す」ことが、今回の目的となります。
日銀が金融政策の修正に踏み切った背景として、歴史的な円安や物価高による影響が大きかったと考えられます。今年の春から欧米各国の中央銀行が次々と大幅利上げを実施する中、日銀は金融緩和を維持する姿勢を崩さず、低金利が続いてきました。
日本と欧米諸国では、金融政策に対する姿勢が異なるため、円安が急激に進みドル円は一時期150円台まで上昇しました。また、大幅な円安は輸入価格の高騰に繋がるため、物価が大きく上昇し、日常生活に大きな影響を与えました。
そして、債券市場の機能低下も大きな問題の一つでした。投資家にとって低金利な日本よりも、利上げを実施している欧米諸国の債券の方がはるかに魅力的に感じることになり、日本の債券市場は人気がなくなっていたと言えるでしょう。
実際に、今年は債券市場で国債の取引が成立しない日もあり、日銀の国債保有比率が5割を超え、長期金利の上昇を長期債の大量買い入れを通して抑え込もうとしたことなどから、債券市場の機能がかなり低下したと窺えます。
そのため、日銀は今回の「事実上の利上げ」を通じて、円安と物価高を抑え、債券市場の機能を回復させるきっかけを作り出そうとしていると推測できます。
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利上げによる物価や住宅ローンに与える影響は?
上述のように、一般的に利上げがされると物価が下がり、住宅ローンの金利が上がります。その背後にあるメカニズムや外国における事例などについて、詳しく見ていきましょう。
利上げがされると物価は下がる
一般的に、中央銀行による利上げが実施されると物価は下がります。
金利が上昇する場合、企業や個人が金融機関から資金を借り入れる際の金利も引き上げられ、資金の借り入れが難しくなります。そうなると、資金の流動性が減り、投資や買い物などに使えるお金が減少し、経済活動が抑制されるため、最終的に物価は下落します。
ではここで、物価と金利の関係について、日本とアメリカの推移グラフを比較していきましょう。
以下の図で示されているように、アメリカの消費者物価指数は2021年から大幅な上昇局面に入り、2022年の前半にはピークの9%に到達しました。米FRB(アメリカの中央銀行)は2022年から大幅な利上げを幾度も実施し、インフレ抑制を図っています。
その結果、アメリカの消費者物価指数の上昇率もピークアウトの兆しを見せ、ピークの9%から11月の7.1%まで下落した動きが見られます。
一方で、以下の二つの図で示されているように、ここ10年の消費者物価指数の上昇は微々たるもので、直近2022年の上昇幅も欧米と比べれば緩やかといえそうです。政策金利については、2010年以降は横ばいの状態が続いています。
今回の「事実上の利上げ」は長期金利(10年債利回り)に対してですが、「緩和政策の転換」という意味では2007年3月に当時の政策金利(無担保コールレート翌日物)を引き上げて以来、15年ぶりの利上げになります。
ちなみに、現在の政策金利である短期金利(日銀当座預金の超過準備に対する適用金利)は、引き続きマイナス0.1%を維持するとしています。のちに説明するように、今回の措置は「短期金利は維持」「長期金利は上昇を認めた」ということですので、混同しないよう注意しておきましょう。
利上げがされると住宅ローンの固定金利は上がる
日銀が打ち出した金融政策の修正点から、住宅ローンの固定金利は上昇しますが、変動金利への影響はないものと考えられています。
まず、変動金利と固定金利の特徴について、変動金利は日銀がコントロールする短期金利を元に決められ、固定金利は長期金利を参考に決定されます。
今回日銀は、固定金利の参考基準となる長期金利の変動許容幅を±0.5%に引き上げるのみであり、変動金利の参考基準である短期金利はマイナス金利が維持されています。それぞれの特徴を踏まえ、固定金利は上昇・変動金利は変化なしという結論に至っています。
金利上昇時に強い投資方法は?
一般的に、利上げが実施されると景気が抑制され、様々な資産が下落します。しかし、種類は限られていますが金利が上昇する時にも投資できる金融商品があり、さらには利上げが終了するタイミングを見定まって投資をするという方法もあります。
「金利上昇時」に強い投資
- 銀行株
- 保険株
「利上げ終了間近」に強い投資
- 債券
- 成長株
金利が上昇局面にある場合は、「銀行株」と「保険株」がおすすめです。債券の長期金利が上昇すれば、銀行の貸付金の金利も上昇し、金利による収益が増え、結果的に「銀行株」の株価上昇に繋がります。「保険株」についても同様で、保険会社は銀行と同じく利ざやで利益を得ているため、金利が上昇する局面において株価が上昇します。
実際、日銀が「事実上の利上げ」を発表したあと、三菱UFJファイナンシャル・グループ (8306) が年内最高値を更新したなど、東京株式市場では「銀行株」と「保険株」が急騰しました。
また、利上げが終了するタイミングを狙うという投資方法もあります。一般的に、利上げが実施される債券や成長株などの金融商品は下落する傾向ですが、利上げが終了して金利が下がるタイミングではリバウンドしますので、そこから利益を得ることができます。
今回の「事実上の利上げ」を機に銀行株や保険株に投資したい、あるいは金利が下がるタイミングに備えたい方は今すぐ口座開設をしましょう。
まとめ
本記事では利上げが日常生活に及ぼす影響や、利上げ時に強い投資方法などについて紹介しました。一般的に、利上げが実施されると物価が下がり、住宅ローンの金利が上昇するといった影響があります。また、投資の観点からも多くの資産が下落しますが、銀行株や保険株などの特定の商品は上昇する傾向を示します。
今回の「事実上の利上げ」は多くの方にとってのサプライズであり、今後の流れを予測することは難しいです。日銀の動向に注意しつつ、リスクを考慮して無理のない投資をしましょう。
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よくある質問
Q | 日銀が利上げすることによる日経平均株価への影響は? |
A | 日銀が利上げすると日経平均株価は下がります。日銀による「事実上の利上げ」の発表を受けて、12月20日の日経平均株価は一時800円以上値下がりしました。 |
Q | 日銀がこれまで利上げしない理由は何? |
A | 黒田日銀総裁によると、日本の物価上昇は外部の要因によるものであり、日本国内の需要と供給のバランスが崩れたことが原因という訳ではない。そのため、外部の要因が解決されれば物価の上昇は落ち着き、景気を悪化させる利上げはする必要がないと考えたからです。 |
Q | 日銀が金融政策するとインフレ・デフレどっちになる? |
A | 日銀が利上げをすると物価が下がりますので、そういった観点からではデフレになります。ただし、デフレの定義として「物価が持続的に下落する状態」が挙げられ、一時的な利上げによって物価が下がる状態は本来のデフレの定義とは異なります。 |