預金金利 利上げでも、貸出が伸びなければ預金は上がらず 明確な基準のない預金金利=手数料の安さで選んだ方がお得?

投稿日:2018/06/27 最終更新日:2022/08/05
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特集・コラム [ 金利 ]

金利-3- 預金金利について 利上げでも、貸出が伸びなければ預金は上がらず

金利が決まるメカニズム特集の第3回目は、預金金利が決まる仕組みについてレポートする。2月21日に日銀が0.50%への利上げに踏み切った後、メガバンクを始めとする各行は普通預金金利を0.10%から0.20%に引き上げると発表した。市場金利にあわせた動きだが、多くの金融機関の普通預金金利は0.20%でほぼ横並びだった。
 普通預金は個人投資家からみれば「運用先」となるが、金融機関の側から見れば「調達先」となる。いまの経済情勢では預金金利が低く抑えられる傾向にあるため、利用者としては金利水準より、ATM手数料や振込手数料などのコストを重視して金融機関を選んだ方が良さそうだ。

預金金利に明確な基準なし、各行とも「総合的に判断」

日銀が金融政策決定会合で利上げを決めた2006年7月14日当時、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行のメガバンク3行は普通預金金利を0.001%から0.10%に引き上げると発表した。日銀の利上げと同時に預金金利も上がったため、この時は新聞などで大々的に報じられたが、実は預金金利と政策金利である無担保コールO/N物レート(金利特集第2回を参照)に、明確な因果関係はない。
2000年8月に政策金利が0.25%に引き上げられた時、預金金利の平均年利率は普通預金で0.10%、1年物定期では0.16%となっていた【図1参照】。しかし図1を見れば分かる通り、無担保コールO/N物レートと預金金利の方向性は似ているが、水準については微妙に違っている。
 
図1 預金金利と無担保コールO/N物レートの推移
図1 日銀資料「預金種類別店頭表示金利の平均年利率等(銀行預金金利)」をもとにQUICK作成
日銀資料「預金種類別店頭表示金利の平均年利率等(銀行預金金利)」をもとにQUICK作成
実際、銀行は預金金利をどのような基準で決めているのだろうか。QUICKが取材したところ、各行からは「無担保コールO/N物レートなどの市場金利を踏まえながら、総合的に判断する」(メガバンクA行)、「普通預金は流動性が高い資金のため、様々な市場金利を踏まえて判断する」(メガバンクB行)との回答が寄せられた。ディスクロージャー誌などでも、具体的な基準は一切明らかにされていない。

預金と貸出のギャップは100兆円! カネ余り続く

預金金利の基準が公表されていない背景には、「預金」というものが、預金者から膨大な資金を集め、預金者に金利を支払わなければいけないという「銀行経営の根幹」に関わることが影響している。2006年に日銀が利上げした時、「一部のメガバンクでは、預金金利を0.15%に引き上げることを検討していた」(外資系証券筋)という。金利を引き上げれば顧客サービスは良くなり、他行よりも預金を集め易くなる。しかし、企業からの資金需要は乏しいため、集めた預金を貸出に回して利ざやを稼げる状況ではない。預金金利を上げた分を、貸出金利に上乗せすることも難しい。
図2 国内銀行の預金と貸出の残高推移
日銀資料「預金・現金・貸出金 (国内銀行)」よりQUICK作成
日銀資料「預金・現金・貸出金 (国内銀行)」よりQUICK作成
日銀が発表している「預金・現金・貸出金(国内銀行)」によると、国内銀行の預金残高は520兆円を超えて高止まりが続く一方、貸出残高は400兆円程度に止まっている【図2参照】。景気回復に伴い、貸出には底打ち感が出ているわけだが、図2の棒グラフが示すように預金と貸出の差額はいまだに100兆円以上もある。銀行はこの差額の分を証券投資などで運用すれば良いわけだが、いまだに低金利の状況では、それほど収益に貢献することもない。

低すぎる預金金利、預金保険料というコストも影響?

預金金利が低く抑えられている背景には、預金保険料も影響している。預金保険料とは、預金保険制度(※注1)を維持するために金融機関が負担している保険料のこと。2006年度の保険料率は一般預金で0.08%となっている。
銀行が普通預金に0.20%の利息を払い、保険料として0.08%を負担すれば、普通預金には最低でも0.28%の運用コストが掛かる計算となる。無担保コールO/N物レートは0.50%となっているため、途中の人件費などを考慮しないと仮定しても、これで運用すれば0.22%の利ざやしか稼げない。預金者からの資金調達コストを下げるため、金融機関としては当然、預金金利を低く抑えたいはずである。
※注1 預金保険制度=金融機関が預金などの払戻しができなくなった場合に、預金者を保護する制度。対象となる金融商品は預金、定期積金、掛金、元本補てん契約のある金銭信託など。預金者1人あたり1000万円とその利息が保証される。外貨預金や譲渡性預金は対象外。対象金融機関は銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、信金中金、全国信連、労働金庫連合会。政府系金融機関や、日本に本店がない外銀の在日支店は保護の対象となっていない。

預金保険の負担がない郵政公社、金利はやや高め 

日本郵政公社が2006年7月、通常貯金の金利を0.11%に引き上げた。その時の基準は「民間金融機関の同じような商品の金利を参考にし、郵便貯金の資金の滞留状況などを総合的に判断した」(日本郵政公社)という。機械的な計算で自動的に決まるわけではないが、民間金融機関(0.10%)よりも若干高い金利を設定している。もともと郵政公社は政府保証によって預金保険制度の対象外となっているため、預金保険料を支払わなくて済む。貯金の維持コストが民間金融機関よりも低いため、高い金利を設定しても経営へのダメージは少なくて済む。
一方で郵政公社は、定額貯金については具体的な数値基準を公表している。ディスクロージャー誌「郵便貯金2006」によると、定期貯金金利は短期金利より長期金利が高水準にある場合は民間金融機関の3年物の定期預金金利を元に決め、逆に短期金利が長期金利より高い場合には10年国債の利回りを参考に決めているという。
普通の経済情勢なら長期金利(10年国債利回り)が当然高くなるため、個人投資家としては郵貯の定額貯金に預けるより、国債を購入した方が得である。しかし定額貯金と違って、国債には金利変動による元本割れの恐れがあり、個人向け国債なら中途売却した際には所定の金額が換金額から差し引かれる。金利情勢もさることながら、国債に投資する場合はリスク性商品として考慮した上で、5年、10年はじっくり使わなくて済む余裕資金をあてた方が良さそうだ。

金融機関の選択、預金金利よりコスト重視に

金融機関がおかれている状況、そして日本の経済情勢を考えれば、銀行が預金金利を引き上げて預金獲得競争を行う可能性は低い。その結果、日銀が小幅な利上げをしても預金金利にはほとんど影響はなさそうだ。
前出の外資系証券筋は「ALM(※注2)などを考えれば、普通預金金利は無担保コールO/N物レートの5〜6割の水準に止まるのが妥当ではないか」と指摘する。貸出が伸び、運用収入が好転するような金利情勢にならなければ、預金金利が大幅に上がることは難しい。企業が設備投資のために資金を借りたり、個人が住宅・クルマなどの購入のためにどんどん銀行のローンを借りるような状況にでもならなければ、その貸出資金を調達するために預金金利が引き上げられることもないだろう。
個人投資家の立場としては、預金はあくまでも資金の退避先として割り切り、ATM手数料や振込手数料などで優遇サービスが受けられる金融機関を賢く利用するのが良いのではないだろうか。バブル期に郵貯の定額貯金は10年で元本が2倍になるほどの金利がついたが、いまの金利水準では運用しても大差がない。わずかな利息より、手数料などのコストを減らした方が実質的なメリットが大きいようだ。
※注2 ALM(エー・エル・エム)=Asset Liability Management、日本語で「資産負債の総合管理」のこと。銀行なら「預金と貸出」、生保なら「保険料と保険金支払い」といった具合に、資産と負債のバランス、支払い時期などを総合的に判断して資金を運用・管理することをいう。一例として、ある銀行が普通預金で50億円、5年物定期預金で50億円、合計100億円を預金者から調達したと仮定する。銀行が企業に預金の全額100億円を貸し出してしまうと、普通預金の引き出しがあった場合に支払うことが難しくなる。また5年物の定期預金(金利0.65%)を国債で運用する場合、0.65%以上の利回りが確保できる国債で運用しなければ、利ざやを稼ぐことはできない。
 
【執筆:MoneyLife 片平正二】
(掲載日:2007年2月23日)

●金利特集第4回目は、長期金利の指標が決まる債券市場について、国内のマネーフローなども踏まえてレポートします。

 

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