先進医療とは?
先進医療とは公的医療保険制度に基づく評価療養のうち、厚生労働大臣が認可を行った高度な医療技術で、保険給付の対象とならない治療法です。
先進医療は公的な保険診療との併用が認められている一方で、公的な医療保険の対象外なのでその治療費は全額自己負担分になります。主な先進医療にがんの陽子線治療や重粒子線治療などがあります。
先進医療の種類
先進医療は2018年時点でおよそ93種類あり、未承認の医薬品や医療機器の使用を伴わない治療法が先進医療Aとされて28種類、未承認の医薬品や医療機器の使用を伴う技術料は先進医療Bとされて65種類あります。
先進医療Aと先進医療のBの違いは未承認の医薬品や医療機器を用いているか否かにあります。
先進医療の具体例
先進医療には、がんの「陽子線治療」や「重粒子線治療」、「歯周外科治療におけるバイオ・リジェネレーション法」、「MRI撮影及び超音波検査融合画像に基づく前立腺針生検法」などがあります。
先進医療技術 | 平均入院日数 | 年間実施件数 | 先進医療費用 |
陽子線治療 | 12.6日 | 2,319件 | 2,765,086円 |
重粒子線治療 | 7.0日 | 1,558件 | 3,149,172円 |
歯周外科治療における バイオ・リジェネレーション法 |
-- | 240件 | 65,870円 |
MRI撮影及び超音波検査融合画像に基づく 前立腺針生検法 |
2.1日 | 207件 | 110,223円 |
Eウイルス感染症迅速診断 (リアルタイムPCR法) |
58.2日 | 255件 | 14,607円 |
高周波切除器を用いた子宮腺筋症核出術 | 10.3日 | 180件 | 307,008円 |
多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術 | 1.2日 | 14,433件 | 581,224円 |
※厚生労働省「平成29年6月30日時点における先進医療Aに係る費用」
厚生労働省の第61回先進医療会議資料「平成29年度実績報告」によると、陽子線治療の年間実施件数は2319件で1件あたりの額はおよそ270万円で平均入院期間は12.6日となっています。
重粒子線治療の年間実施件数は1558件で、先進医療費用はおよそ310万円、平均入院期間は7.0日です。
「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」は白内障の手術で、これまで先進医療の対象となっており年間の実施件数も1万4000件となっていましたが。2020年から先進医療対象から外れ、選定療養となっています。
陽子線治療・重粒子線治療
がんの治療は大きく分けて、手術によって部位を取り除く手術療法、抗がん剤などを用いる化学療法、そして放射線をあてる放射線療法があります。
放射線療法のなかには光子線と粒子線の治療があります。
光子線は、γ線やX線などでがん細胞の部位に当てるのですが、正常な細胞も傷つけてしまったりがん細胞に十分にダメージを与えられず残ってしまうリスクもはらんでいます。
粒子線は、陽子線や重粒子線をさしており、直接がん細胞に照射ができるので正常な細胞への負担を最小限にできたり、ピンポイントでがん細胞を破壊できるなどのメリットがあります。
一般的な放射線治療は公的な医療保険の保険適用ですが、陽子線治療や重粒子線治療は先進医療なので公的な医療保険の対象外となり全額自己負担になります。
先進医療の対象は変わることがある
先進医療は厚生労働省が認める治療法で公的な医療保険の対象外ですが、治療数の増加などに応じて公的な医療保険の対象となり先進医療からは削除されるケースもあります。
例えば、人工歯を用いたインプラント治療。インプラントは歯肉や顎の骨に穴を開けて土台を埋め込むことで抜けにくくなり固定できるので人気を集めています。
インプラントは2012年3月までは先進医療として認められていましたがそれ以後は保険適用となりました。
同じく、白内障治療の「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」も先進医療の対象となっておりましたが、2020年から選定療養となっています。
先進医療から外された治療法
白内障治療である「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」が2020年に先進医療である評価療養から選定療養に変更した理由は、先進医療保険料の支払いが多くなったためでした。白内障治療のように先進医療から外された治療法について詳しく見ていきましょう。
「歯周外科治療におけるバイオ・リジェネレーション法」は白内障治療と同じ時に先進医療から除外されました。
2016年4月には重粒子線治療である骨軟部がんと2018年4月には前立腺がんと頭頸部がんが先進医療から除外されました。しかしこれらは除外されたのち保険適用が認められました。先進医療から除外される治療法もありますが、新たに保険適用される治療法もあるので評価治療の重要性が伺えるのではないでしょうか?
先進医療の実績
先進医療は全国の病院でどれくらい実施されているのでしょうか?
対象期間 | 技術数 | 実施医療機関数 | 患者数 | 総金額 | 保険外併用療養費総額 (保険診療分) |
先進医療に係る費用総額 | 1入院全医療費のうち先進医療及び旧高度先進医療分の割合 |
平成26.7.1 ~平成27.6.30 |
108種類 | 786施設 | 28,153人 | 約295億円 | 約90億円 | 約205億円 | 69.5% |
平成27.7.1 ~平成28.6.30 |
100種類 | 876施設 | 24,785人 | 約272億円 | 約86億円 | 約186億円 | 68.5% |
平成28.7.1 ~平成29.6.30 |
102種類 | 885施設 | 32,984人 | 約278億円 | 約71億円 | 約207億円 | 74.6% |
平成29.7.1 ~平成30.6.30 |
92種類 | 936施設 | 28,539人 | 約285億円 | 約45億円 | 約240億円 | 84.3% |
平成30.7.1 ~令和1.6.30 |
88種類 | 1,184施設 | 39,178人 | 約352億円 | 約54億円 | 約298億円 | 84.6% |
※厚生労働省「令和元年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」
2018年から2019年の1年間で先進医療の技術数は88種類、約1200施設で実施されています。
1年間で医療を受けた患者数はおよそ4万人。治療の総額は約350億円となっています。
そのうち、保険適用外併用治療となり、保険が適用になった治療費は約54億円、先進医療の治療費は約300億円となっています。
評価療養と選定療養
2種類とも厚生労働大臣が定めている療法です。評価療養とは保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、将来対象になるのか臨床試験の結果、評価を行います。先進医療はこの評価療養に含まれているため、毎月入れ繰りすることがあります。
選定療養とは被保険者の特別な病室の提供など、治療に関する快適性や利便性に関する選定に係ることを指します。差額のベッド代はこの選定療養に含まれます。
先進医療の費用はどれくらいかかる?
先進医療の治療費は公的な医療保険の対象外なので全額自己負担になります。
では、具体的にはいくらかかるのでしょうか。実際に個別の事例を見ていきましょう。
先進医療は全額自己負担
病気や怪我で医療機関を受診した際の治療費、公的な医療保険に加入しているので現役世代では自己負担割合は3割となっています。
先進医療を治療として受けた際に全額自己負担になるのは先進医療の技術料です。
例えば、公的医療保険の対象になる治療を100万円分受けたとき、自己負担割合は3割ですが高額療養費制度があるので一般的な収入の現役世代の場合、その治療費の自己負担は8万円程度になります。
先進医療の治療込みの治療を受けた際の医療費が100万円で、そのうちの技術料が50万円だった場合……。
こちらも高額療養費制度があるので公的な医療保険制度の適用になるものは自己負担割合が3割から下がり8万円程度になりますが、先進医療の技術料は自己負担なので50万円がかかります。総額で58万円かかるのです。
なぜ先進医療は保険適用されないの?
先進医療は高度な技術であるため、限られた一部の医療機関のみで行われている医療技術です。厚生労働大臣が実施可能な条件を設けており、その条件を満たす医療機関だけが行うことができます。そのため限られた医療施設でしか治療することができないので、先進医療を行っている医療機関から遠方に住んでいる人は不利になってしまいます。このような不平等なことをなくすため、先進医療は保険適用外になっています。
先進医療の技術料はどれくらい?
先進医療の技術料はどれくらいかかるのでしょうか?
治療法によっても異なりますが、がんの陽子線治療は約270万円、重粒子線治療は約310万円となっています。
歯周外科治療におけるバイオ・リジェネレーション法は約6万5000円、MRI撮影及び超音波検査融合画像に基づく前立腺針生検法約10万円、重症低血糖発作を伴うインスリン依存性糖尿病に対する脳死ドナー又は心停止ドナーからの膵島移植(重症低血糖発作を伴うインスリン依存性糖尿病)は約360万円となっています。
がんの治療などでは200~300万円の治療費がかかってくると覚えておくと良いでしょう。
先進医療の費用事例
先進医療の治療を受けた際に1か月の医療費はどれくらいかかるのかシミュレートしてみましょう。
例えば、一か月分の医療費が300万円、その内の先進医療費が200万円で、収入が35万円だった場合です。
公的な医療保険で高額医療費制度があるため、保険診療の医療費は8万円程度になり、加えて、先進医療の治療費が200万円かかるので、合計した208万円が1か月に実際にかかる治療費になります。
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先進医療を受けるときの手続き・手順は?
先進医療を受ける際に、どのような手順で進めていけばよいのでしょうか?
先進医療の合理性を検討する
「先進医療を受けたい!」と希望しても必ずしも受けられるわけではありません。
希望を受けたときに医師が「現在の病気に対して治療方法として相応しいか否か」の合理性と必要性を判断し、合理性と必要性が認められたら、治療に進むことになります。
先進医療を受けられる医療機関を探す
先進医療を受けられる医療機関は限られています。
全国およそ1200の医療機関で実施されているので治療を受けられる医療機関を探し、医師から紹介状を書いてもらうことで受診をできるようにします。
未承認の医薬品や医療器具を用いない先進医療Aでは、28種類の先進医療技術をおよそ950の医療機関で実施しており、未承認の医薬品や医療器具を用いる先進医療Bでは、65種類の先進医療技術をおよそ700の医療機関で実施しています。
十分な説明を受けて同意書に署名する
先進医療は、医療機関はその治療内容や必要な費用について十分に説明することが求められています。
先進医療は公的な医療保険制度の対象外なので、有効性や安全性が検討段階であったり、全額自己負担なので経済的な負担が大きくなるケースがあるからです。
説明を十分に聞いて納得できた場合には同意書に署名をします。この同意書がなければ医療機関は先進医療を行うことはできません。
治療費の領収書は保管する
治療を受けた際に医療機関から発行される領収書には、先進医療の技術料や診察代、投薬代、入院費などの項目が書かれています。
通常の治療と同じく診察や検査、入院費用などは公的な医療保険制度の対象なので自己負担割合は現役世代ならば3割ですが、先進医療の技術料は全額自己負担です。
所得税や住民税が軽減される医療費控除は先進医療の技術料も対象になりますので、医療費控除の手続きをスムーズに行うためにも領収書はしっかりと保管しておきましょう。
先進医療特約とは?
医療保険やがん保険には先進医療の治療費に利用できる先進医療特約があり、医療保険とがん保険にある先進医療特約では少し保障の内容が異なってきます。先進医療特約についてくわしく見ていきましょう。
先進医療特約の通算限度額は、医療保険とがん保険で異なる
医療保険やがん保険にある先進医療特約は先進医療の技術料の実費を保障してくれるものですが、ただし、医療保険とがん保険によって違うのは通算限度額です。
1000万円を限度額にしているものと、2000万円を限度にしているものとあり、昨今の医療保険やがん保険の特約では2000万円が多くなっているようです。
陽子線治療や重粒子線治療は200~300万円ですからで、限度額は1000万円あれば安心かもしれません。
技術料以外の保障は?
先進医療特約には技術料以外の保障が受けられるものがあります。
先進医療を受けられる医療機関は限られており、遠方から受診する場合、医療機関への交通費や宿泊費などがかかってきますが、そんな時に、先進医療の技術費以外への保障がついていると安心できます。
ただし、技術料以外の保障がある商品はまだ少なく、保障もそれほど高額ではない点は留意が必要です。
特約保険金の支払われ方
先進医療特約の特約保険金は、先進医療技術料の請求書で支払われる保険会社と、医療機関から得た領収書で支払う保険会社があります。
請求書で支払われる保険会社は立て替えの必要はありませんが、領収書で支払う場合には一度立て替えが必要になりますので、覚えておきましょう。
先進医療特約の必要性は?
先進医療特約の特約保険料は、保険会社によりますが、月額100~200円程度の上乗せとなっています。
先進医療特約は先進医療の治療を受けたとき1000~2000万円の範囲でかかった技術料を保障してくれるもの。もしも先進医療が必要な病気にかかった際にはその医療費は全額自己負担になりますが、先進医療特約を付けておけばその保障を受けられます。
医療保険やがん保険に加入する際には特約を付けておくともしもの際への備えになるでしょう。
まとめ
厚生労働省が認めた治療法で公的な医療保険の対象外になる先進医療。
もしも先進医療が必要な病気にかかった際にも、医療保険やがん保険の先進医療特約に加入していればその治療費は保障を受けることができます。
先進医療の内容についてしっかり理解した上で、病気や怪我に備えておきましょう。
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