岡三アセットマネジメント株式会社 吉野 俊之 社長 「発想の基本は受益者目線。世界の市場にお客様をご案内するのが我々の役割」 - トップインタビュー(第19回) - 投資信託
投資信託 [ トップインタビュー ]
【第19回】
岡三アセットマネジメント株式会社 吉野 俊之 社長
発想の基本は受益者目線。世界の市場にお客様をご案内するのが我々の役割
岡三証券(現:岡三ホールディングス株式会社)入社以来、社歴の半分(約16年間)を投資信託の川下(=リテール営業、販売)から川上(=商品の開発、仕入れ)まで関わった投資信託のプロフェッショナル。そして2006年6月に運用会社のトップに就任した岡三アセットマネジメント社長 吉野俊之氏に同社は何を目指すのかを伺った。
本年4月に社名を日本投信委託から岡三アセットマネジメントに変更されましたが。
吉野氏:

今年で44年目を迎えた日本投信委託の社名を岡三アセットマネジメントに変えました。これは親会社である岡三ホールディングスが「証券」「アセットビジネス」「オンライン」をコアビジネスとして前面に出したことを受けたものです。アセットビジネスの中核会社としての位置づけです。
運用会社としての御社の特色は。
吉野氏:
独立系運用会社として、顧客(投資家)の利益(資産成長)が会社の信頼、取引の継続、そして会社の発展につながると考えていることです。どこの市場に、あるいは何に投資をすることが投資家の利益につながるか常に考え、その中で規制緩和のタイミングを捉えて新しい商品を提供して来ました。つまり当社の特色は機動力、柔軟性であり、それが当社の強みだと思います。
その強みを生かした商品の例が公募投信第一号のREIT(不動産投信)型でしたね。
吉野氏:
そうです。2003年9月末に設定したワールド・リート・セレクション(米国)です。当時はデフレ経済が進行中でお客さまにとって「お金を持っていたほうが得か」、「モノを持っていたほうが得か」と考えたとき、「お金のほうが得」という時代が長く続いていました。そこで大局観もあり、お客さまに「モノに近づける商品」を提供したほうが良いと考えた事と、外債に投資する毎月分配型の商品がモーレツに売れていたため、偏りのリスクを分散できる商品として、有価証券でも不動産であるREITを発見したわけです。今でもコモディティを提供しているのはその考えが底流にあります。当社の後ろ盾は、基本的にはお客さま、投資家で、いかにお客さまに資産を形成して頂くかなんです。
御社の特色ある商品は。
吉野氏:
当社の残高最大のファンドはワールド・ソブリンインカムです。これは先進国のソブリン債券に投資をする毎月分配型で、この商品のコンセプトは分かりやすさ、安心感をいかに出すかでした。愛称の十二単衣(じゅうにひとえ)は毎月分配を意味するネーミングでした。毎月分配について一部で批判があることは、承知していますが、投資家にはいろいろなニーズがあります。受益者にとっては、年金補完の意味や、毎月受け取る分配金は運用によって返って来るという安心感でしょう。
そして残高2位が昨年8月末に設定した新興国国債オープンです。このファンドはエマージング国の成長を為替、金利面で享受しようとするものです。但し、将来有望だというものの市場は大きく動くこともあり、いざという時に備えて、50%は先進国に移すような仕組みを持っています。要するに、運用会社としてはリスクをいかに捉えるかということです。このような仕組みをファンドに取り入れているものは他にないと思います。
ところで銀行が投信販売に参入して何が変わりましたか。
吉野氏:
明らかに投信市場が広がりました。私が岡三証券の総合企画部長を務めていたときに投信の銀行窓販が始まったのですが、証券の敷居が高く足を向けてくれないお客さまでも、いずれは銀行が投資信託を広めてくれるものと、当時から確信していましたが、その後の市場の成長を考えると窓販の寄与は明らかです。
御社の販売チャネル戦略についてお聞かせ下さい。
吉野氏:

チャネル戦略というくくりを持っていません。販売会社によって各社の戦略があります。銀行や証券などの業態ごとではないと思います。証券はフローで銀行はストックという従来型の考えが通用しなくなっていると考えています。証券の収益構造も投信関連のウェイトが高まっていてストックを重視する方向に向かっていると思います。又、地方の証券会社でも投信をやらずにきたところも投信の話をすると投信をやろうと判断されるところもでてきているので、流れはそのような方向ではないかと思います。
販売業界を見ていますと販売金融機関は、大変努力をされています。重要なことは、それを運用会社が支援することだと思い、昨年12月にカスタマーサービス部をマーケティング部から独立させ、新設しました。ここではセミナーの講師や資料の作成を担当させ、きめの細かい対応を考えています。投信業界では情報を伝えるものは主として紙媒体しかありません。そこで資料の作成や差別化のための専門家による社員研修を強化しています。いかに伝える情報を伝わる情報にするかです。資料の内容は同じでも説明を聞くお客さまや販売員の方がどう理解するか、これがポイントです。
団塊の世代向けの戦略はいかがですか。
吉野氏:
基本的には多様なニーズに応える商品ということでこの世代に限定した戦略商品をという考え方はありません。敢えて言うと毎月分配型ファンドはその一部の機能であるキャッシュフローマッチングを果たしていることになります。投資信託が成長するためには投信を購入する個人の生活に不可欠な資金ニーズを満たす存在になることだと思います。まだ、この理想には距離があります。日本の個人金融資産は、60歳以上で50%、50歳代まで拡大すると70%近いのではないでしょうか。販売会社のお客さまの平均は60歳前後ではないでしょうか。この層のニーズに応えるために毎月分配型のファンドは有効だと思いますが、選択の幅を持たせるために年1回決算ものも出すようにしています。
最近の投信販売の苦戦は金融商品取引法が原因でしょうか。
吉野氏:

販売会社は適合性に則った営業で相当なご努力をされています。われわれ運用会社はそこに販売会社の負担の軽減や支援をさせて頂いています。つまり互いに市場を育てる努力をしています。売り手と買い手の情報格差を無くす努力が市場を守り、発展させることに繋がると考えています。従って販売減は法律が原因ではありません。
米国にレモンカーの話というものがあります。レモンカーとは、外側がきれいで中身がボロボロの中古車をいいます。レモンカーを平気で売っていると消費者の信頼を失いやがて市場が壊れるというたとえ話ですが、投信も投資の内容をよく理解してもらう努力が市場を発展させると考えています。金商法の精神も情報の格差を無くすことであると思います。
REITの下げに現場からのクレームが多いと聞きます。何が原因と考えられますか。
吉野氏:
一言でいうと市況が下がっているときにどんな情報を提供していたかでしょう。つまりバリューに対して割安という情報しか運用会社が流していなかったとすれば、投資提供としては充分ではなかったと思います。投資のスパンとしては、わずか半年、1年の話で3年に一度くらい大きな調整はあります。投資家がお金を守りたいと思えば値段に関係なく売却することもあります。こんなときはセンチメントが落ち着くまで待つしかないのです。米国ではREITは株であって、特別なものではありません。日本から見て割安だと言っても関係がありません。そこで実際にマーケットに参加している人たちがどう思っているかを伝えることが大切です。現状はどうかを伝えることが大事で、当社では、REITデイリー情報で主要なREIT市場の動きを伝えています。
投信マーケットの将来については。
吉野氏:
現下のマーケット環境は非常に厳しいと思います。今年あたりは再編があってもおかしくないでしょう。それでも中期的な投信市場の成長は続くと考えています。ポイントは二つです。(1)資産運用の必要性が高まること(長引く低金利、少子高齢化、長寿社会から自己防衛としての運用の必要性、人口減少、経済の成熟化から成長国への分散投資の有効性)です。(2)預貯金から投資信託へのシフト(金融資産の中での資金シフト、投信保有の拡大、商品設計の自由度の拡大、多様化)から富裕層の資金が更に入ってくる等を考慮すると市場規模は現在の101兆円(公募・私募の合計)から中長期的に150から200兆円を目指すことになると思います。
インタビュー:2008年5月 聞き手:QBR小林新
掲載日:2008年5月28日

- 吉野 俊之(よしの・としゆき)氏
- 出身地:千葉県
経歴
1952年 | 千葉県に生まれる |
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1977年 | 中央大学卒業 岡三証券株式会社(現 岡三ホールディングス株式会社)入社 |
1996年 | 同社総合企画部長 |
2001年 | 同社 取締役 商品業務部・アセットマネジメント部担当 |
2003年 | 同社 取締役 商品本部副本部長兼商品戦略部・投資信託部・証券情報部・企業調査部・ニューヨーク駐在員事務所担当 |
2004年 | 同社 常務取締役 商品・情報部門・商品運用部担当 |
2005年 | 同社 常務取締役 商品部門担当 |
2006年 | 日本投信委託株式会社 取締役社長に就任 |
2008年 | (商号変更により)岡三アセットマネジメント株式会社 取締役社長(現在に至る) |
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