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武者陵司「高市氏が成し遂げる思想革命」

配信日時:2025/11/12 10:00 配信元:MINKABU
―減税を正当化する、楽観主義構築へ― (1)全ての出発点は思想である  全ては思想から発する。マザー・テレサの以下の言葉は全ての若き人に分かってほしい人生の理(ことわり)である。  Be careful of your thoughts, for your thoughts become your words.  Be careful of your words, for your words become your deeds.  Be careful of your deeds, for your deeds become your habits.  Be careful of your habits, for your habits become your character.  Be careful of your character, for your character becomes your destiny.  思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから  言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから  行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから  習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから  性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから  また、ケインズは「経済学者や政治哲学者の思想は、一般に考えられているよりははるかに強力である。……どのような実際家も過去の経済学者の奴隷である」と述べて、「危険なものは既得権益ではなく思想である」と結論づけている(「一般理論」第24章)。 ●先人が説く楽観主義の素晴らしさ、正しさ  いま日本の経済社会を覆っている思想は悲観主義であろう。歴史を振り返ると、楽観主義を礼賛する偉人たちの格言が我々を勇気づけてくれる。何れも成功体験に裏打ちされた説得力があり、心を打つ。  【ウィンストン・チャーチル】 “The pessimist sees difficulty in every opportunity. The optimist sees opportunity in every difficulty.”「悲観主義者はあらゆる機会に困難を見る。楽観主義者はあらゆる困難に機会を見出す」  【アラン】 “Pessimism comes from our feelings; optimism comes from our will”「悲観は気分に、楽観は意志に由来する」  【デカルト】 “An optimist may see a light where there is none, but why must the pessimist always run to blow it out?”「楽観主義者は光のないところに光を見出すのに、何故、悲観主義者はその光消しに奔走するのだろうか?」  【ヘレン・ケラー】 “Optimism is the faith that leads to achievement. Nothing can be done without hope and confidence.”「楽観主義は事を達成に導く信念である。希望と自信なしには何事をも成し遂げられない」  【アインシュタイン】 “I'd rather be an optimist and a fool than a pessimist andright.”「私は正しい悲観主義者よりは愚かな楽観主義者でありたい」  【斎藤茂吉】「楽観的になりたいなら、客観的になることだ」   英エジンバラの運用会社ベイリー・キフォードで38年かけて世界最大の日本株式ファンドを育て上げた伝説のファンドマネージャーのサラ・ウイットリー氏は、何が成功の秘訣でしたかとの私の問いに「楽観論、これに尽きる……貴方もそうでしょう」と答えてくれた。 (2)悲観思想に塗りつぶされてしまった日本 ●悲観思想に塗りつぶされてしまった日本  このように楽観主義が正しい思想であるのに、いまの日本は悲観主義思想の定着により、人々は希望と将来への挑戦心を失ってしまっている。その思想が自己実現的に日本経済を委縮させてきた。高市早苗氏の挑戦は、この間違った経済思想を根底から作り変えることから始まる。ACADEMISM(アカデミズム)、メディア、投資家に蔓延する悲観論の一掃が勝利の鍵になるであろう。高市氏の主張する「世界の真ん中で咲き誇る日本」の建設は可能なのだと説得する必要がある。ちなみに、米国でもトランプ大統領は「アメリカの黄金時代が始まる」と楽観論を唱え、多くのコメンテーターや学者・エコノミストの批判を引き起こしている。 ●悲観論を定着させた「学習性無力症」(Learned Helplessness)  日本人を無気力感に突き落とした悲運が重なった。  1)米国の日本叩き、超円高で戦後日本を成功に導いたビジネスモデル、つまり米国由来の技術・製品を安く作り、米国市場に販売するというシステムが完全に否定された。国内経済に失望した工場や資本が海外に流出した。賃金は国際競争力喪失に対応した長期低迷を余儀なくされ、労働分配率が低下し、消費を委縮させた。  2)バブル崩壊が行き過ぎて株価・不動産価格が異常に下落し(負のバブルが形成され)、巨額の値下がり損失によりアニマルスピリットが死滅した。それにデフレが重なり、企業も家計も貨幣の偏愛(キャッシュイズキング)、過度のデレバレッジ(レバレッジ取引の解消)が進んだ。金融資産は家計保有分も企業保有分も際限なく高まったが、流通速度は急激に低下した。異常な資産価格の下落、円安への手当は金融政策の責任範疇であり、米国ではバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が異常な資産価格の下落を立て直すために、禁じ手と批判された量的金融緩和に踏み切った。それに対して日銀は全く手を打たなかった。  3)少子化・高齢化の下で日本は成長できないという宿命論、人口オーナス論が喧伝された。日銀元総裁の白川方明氏は当時の民主党政権とともに、日本の経済停滞は少子高齢化による潜在成長率の低下だ、と責任を宿命論に転化した。  こうして日本全体が「学習性無力症」(Learned Helplessness)に陥った。「学習性無力症」とは、度重なる悲運により努力しても結果が変わらない状況を繰り返し経験することで、「何をしても無駄だ」と思い込み、自発的な行動をしなくなる心理状態であり、心理学者のマーティン・セリグマン氏によって提唱された概念である。日本は国全体として他の国には見られない1億総自信喪失状態に陥った。行動の抑制、自己評価の低下、感情の不安定化というマスヒステリー状態になった。この悲観論を日銀の無策が増幅し、財務省がそれに便乗した。 (3)悲観論に便乗した経済政策 ●悲観論に便乗した財務省  財務省は悲観論に便乗して、国民に高負担を受け入れさせてしまった。そのキーワードが「社会保障と税の一体改革」、キーパーソンは「野田佳彦氏」である。「社会保障と税の一体改革」とは、「少子高齢化の進行とともに年金や社会保険の支出が高まる一方、働く人口は減っていく。したがって、十分な給付を続けるためには増税による財政基盤の強化が必要だ」、「景気変動に影響されない安定財源である消費税増税が不可欠(消費税の福祉目的化)」というもの。その大キャンペーンの仕掛け人が財務省、主唱者が2012年に法案を成立させた当時の野田首相、現・立憲民主党党首であった。野田氏は3党合意をタテに解散を遂行し(2012年)、安倍政権下での2度の消費税増税を約束させた。  「一体改革」導入前の2011年の国民負担率(国民所得に対する租税と社会保険料負担率)は38.8%であったが、2022年には48.4%と世界にも例のない10年で10ポイントの急上昇となり、家計消費を直撃したのである。家計実質消費は2014年3月の消費税増税(5→8%)直前の2014年1~3月の304兆円がピークで、その後一度もそれを上回らず、現在(2025年2Q)でも依然として10年前のピークに比べ4%減の水準で低迷している。この間、企業利益は2.4倍、株式時価総額は3.7倍、一般会計税収は1.8倍になったわけで、家計がひとり犠牲にされてきたと言える。 ●悲観論を覆す大きな変化  しかし、ここで嬉しい驚きが起きた。悲観主義では想定していなかった想定外のインフレが起き、円安も伴って名目GNI(名目GDP+海外所得)は4%の成長が定着し、税収が著しく増え、経済のバランスが大きく崩れたのである。2021年以降、税収は当初予算を6~10兆円上回ることが常態化している。税収上振れ額はGDPに対して1.0~1.6%に相当する。これを財政再建ということで政府内に留保しているので、民需は著しい押し下げ圧力を受けている。  実際、OECD(経済協力開発機構:6月経済見通し付属データ)の一般政府財政収支対GDPをG7で比較すると、最も経済成長率が低い日本の財政赤字縮小が際立っていることが分かる。日本の「財政赤字/GDP」は2022年が4.2%、2023年は2.3%、2024年は2.05%、2025年(予)が1.6%と、G7中で最小の赤字となっている。仮にインフレによる税の増収分がまるまる家計に還元されるとすれば、日本は米国並みの高成長が可能ということになる。  加えて、米国国債保有の為替益40兆円、日銀ETF(上場投資信託)投資含み益50兆円、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)累積運用益166兆円など、巨額の隠れた投資原資もある。いかに高市政権の船出が財政余力に恵まれているかは、クリスタルクリアであろう。 (4)高市政権の経済的使命、耐乏を正当化する浅薄な正義感からの解放 ●高市政権の経済課題、減税による消費回復  高市政権はこの残された課題、減税による消費の引き上げに手をつける。何故、減税が鍵になるのか。第一に財政に余裕があり消費が著しく低迷しており国民の不満が強まっていること、第二に減税は先進国における景気対策の世界標準であること、第三に減税は景気拡大と税収増をもたらすこと、がほぼ明らかだからである。そうなると、日本経済は消費主導で成長率を高めるだろう。既に片山さつき蔵相、城内実成長戦略担当相、自民党税調の入れ替え、経済財政諮問会議民間議員に若田部昌澄早大教授、第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミスト、日本成長戦略会議の民間委員にPwCコンサルティングの片岡剛士チーフエコノミスト、クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストなど積極財政派が選任された。  しかし、反減税派は依然健在、大手新聞の社説は批判一色である。  ・「国の財政目標 緩める動き、慎んで」(11月3日付朝日新聞社説)  ・「衆院予算委員会 野放図な財政出動は許されぬ」(11月8日付読売新聞社説)  ・「ガソリン減税合意 与野党は財源に責任持て」(11月6日付産経新聞社説)  ・「緩む財政規律、収支黒字『単年度でなく数年』 試される市場の信認」(11月7日付日本経済新聞)  財政健全化路線堅持派、黒田日銀による異次元金融緩和に反対した経済論壇の主流派も健在である。この人々はアベノミクスを批判し、アベノミクスの完成・成就を阻んできた。東京大学名誉教授の吉川洋氏は「大規模緩和『全てが間違い』」(1月11日付朝日新聞)、政策研究大学院大学客員教授の井堀利宏氏は「参院選後の政権の課題、危機的な財政状況を直視せよ」(8月8日付日本経済新聞)と論じ、日本の債務残高が世界最悪、ギリシャよりも悪いという石破茂前首相の発言を正当化した。 ●隠されてきた減税メリット、減税乗数と税収弾性値  それにしても減税を議論する時、財政赤字増加と将来世代への借金の付け回しというデメリットのみが語られて、メリットがほとんど俎上に上ってこなかったのは不思議である。減税のメリットは、減税乗数と税収弾性値という二つの変数に依存する。減税乗数とは、1の減税がどれだけ最終需要を生むかという変数、経験的に2~3と見られている。また税収弾性値とは、1%のGDP成長率が何%税収を増やすかであり、財務省の公式見解はこれまで1.1、今年1.2に修正されたが、著しく実態から乖離している。この点を指摘した日本維新の会前参院議員・柳ケ瀬裕文氏への政府答弁(2025年2月4日)で過去10年間の平均税収弾性値は3.23であることが明らかになった。  この二つの変数によって減税が経済と税収にどのような変化をもたらすのか、試算してみよう。仮に6兆円(対GDP比1%)減税すると、最終需要は12~18兆円、2~3%増加する。これに柳ケ瀬議員に対する答弁3.23を乗ずると、税収は6.46~9.69%増加する。2025年の税収を80兆円と見積もると、2026年の税収は5.17~7.75兆円増加すると計算される。つまり、減税分はまるまる将来の税収増で回収できるのである。 (2025年11月10日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン391号」を転載) 株探ニュース

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