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返り咲くトランプ(1)【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2024/12/10 10:29
配信元:FISCO
*10:29JST 返り咲くトランプ(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)フレイザー・ハウイーの考察を2回に渡ってお届けする。
返り咲くトランプ
ドナルド・トランプの2度目の大統領選勝利について、歴史家たちは今後何十年にもわたって議論し著述することになるだろう。「もしも」を考え始めたらキリがないが、そもそもバイデンは立候補すべきだったのか?後任候補の指名はカマラ・ハリスでよかったのか?あの瞬間にトランプが振り向かず、暗殺者の銃弾がかすめるだけでは済まなかったら?トランプが既決重罪犯として初めて国の最高職に選出されたという事実は確かに問題ではあるだろうが、犯罪歴がないことが米国大統領になるための必須条件ではない。実際、2016年の選挙では、有権者はトランプがポルノ女優のストーミー・ダニエルズと関係を持っていたことを知りながら彼に投票している。ならば、彼女への口止め料支払いのために事業口座を偽造した程度のことを今さら問題視するだろうか?
共和党は大統領選で勝利し、上院、下院の過半数を制して完勝した。一方、トランプがハリスに勝利したとはいえ、得票率が50%をわずかに下回ったという事実は注目に値する。無所属の候補者のうち得票率が最も高かった候補が約1.6%を獲得していることからも、トランプや共和党が主張するような圧倒的勝利ではなかったことが分かる。アメリカ国内の分断は4年前と8年前にも浮き彫りになったが、その後深刻化する一方だ。アメリカ国外はもとより、国内にいる人々でさえ、この現実に救いを見出す手立ては見つけられそうにない。
分断はあれども、現実としてトランプは勝利した。民主党の指導者たちも民主党寄りの評論家たちも、トランプにならって選挙が盗まれたと主張し、「大嘘」をついて見苦しい姿をさらすことはなかった。彼らは、かつてトランプが投票日の夜に行ったように、選挙結果の確定前から「大規模な選挙不正」を主張することもない。トランプが明確に、ただし僅差で勝利したことで、危険な事態は回避されたと言えるだろう。仮にトランプが敗北していれば、2021年1月6日にワシントンDCの議事堂に支持者たちが押し寄せたときよりもさらに過激な暴言を吐いていたに違いないからだ。
今後の動き
世界中のあらゆる国が、「トランプ2.0」のもとで次に何が起こるか神経をとがらせている。「アメリカ第一」を掲げるトランプは、同盟や同盟国を重視する気配がない。トランプにとっては何もかもが取引であり、すべての国がその対象だ。中国に対する新手の大型関税もあり得るだろう。バイデン大統領は中国に対する制裁と関税を継続、強化したが、トランプはメキシコとカナダに対してもすでに、就任初日に25%の関税を課すと予告している。これら国との現行の貿易協定は、自身の大統領施政時代にUSMCAの下で取りまとめたはずだが、当の本人は忘れてしまったのだろうか?
こうしたことは前回経験済みだという意見もある。世界は第一次トランプ政権を乗り切ったが、今回は何が違ってくるのか。トランプは本質的に、協調的政策や効果的政策を重視するタイプの人間ではない。その極端に過激なレトリックを敢えて政策と呼ぶとして、これについて不安に思うのは杞憂である。なぜなら、トランプ流のカオス的な政権運営のスタイルに加え、支持者や任命した人物間での内紛が続けば、結果として深刻なダメージが生じることはないと予想されるからだ。第二次トランプ政権は無秩序を極め、最終的にはエンターテインメントと化すだろうというのが最も楽観的な見方だ。
そう、トランプには「エンターテイメント」という言葉が相応しい。トランプを支持する有権者の多くは彼を成功した実業家だと思っているが、そのイメージはリアリティ番組『アプレンティス』(The Apprentice)によって作られたものだ。1980年代を通じてトランプは多数のカジノやリゾートを経営し、結果、立て続けに破産して多数の労働者や業者への未払いが残った。常に実物よりも大きく見えがちな、まさに「アメリカらしい」人物ではあるが、ビジネスの成功という点では実際それほどではなかった。ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、ウォーレン・バフェット、ジャック・ウェルチといった現代アメリカの偉大なビジネスリーダーたちとトランプを同列に扱う者などいないだろう。
ならばトランプは実際に何をするというのか?彼は何をしたいのか?そしてその政策を実行するにふさわしいチームを本当に擁しているのか?前回も今回も明らかなのは、トランプ政権というものはまるで中世の宮廷で、有能で経験豊富な政治家や専門家で構成される近代的な政権とは異なることだ。トランプがさまざまな役職に据えた人々については、すでに一部で疑念を生じ、実際に懸念の種となってもいる。最初に指名した司法長官、マット・ゲイツは未成年者の性的人身売買や未成年者との性行為の噂が絶えなかったため、指名発表からまもなく辞任を余儀なくされた。疑惑が証明されたわけではないが、このような人物を政府の最高法務職に推薦しようという考え自体、信じがたいことだ。他の候補者たちはそこまで酷くはないが、やはり安心とは程遠い。国家情報長官に指名されたトゥルシー・ギャバードは、まるでロシアの操り人形のようだ。また、軍のトップには元テレビ司会者で元軍人のピート・ヘグセスが指名されている。いずれの人物もこれほど大規模で複雑な組織を運営した経験はなく、トランプが、自分に都合の良いことを語る人物を選んでいることがよく分かる。トランプにとっては、国の重要機関の運営トップを務めるにはテレビのご意見番で十分なのだ。もう一つ注目すべきは、ロバート・F・ケネディ・ジュニアの指名である。保健省長官に就任することになるが、長年ワクチン陰謀論を唱えており、このような役割にはまったく相応しくない人物である。その他についてはさほど物議を醸すものではない。トランプへの忠誠と、トランプ路線の徹底を重要視しているにすぎないからだ。そのなかで読めないのが、イーロン・マスクの役どころである。トランプが「偉大なるイーロン・マスク」と呼ぶ彼は、資金をつぎ込んでアメリカ権力の中枢に入り込み、今のところトランプの応援団長的な存在となっている。テスラ社もスペースX社も政府からの契約や助成金によって多大な恩恵を受けてきたが、彼はいまや政府効率化省(Department of Government Efficiency、DOGE)の共同責任者に指名されている。ただしこれは実際には省ではなく、政府支出の2兆ドル削減を目指す諮問機関というべきものである。肥大化した省庁のスリム化、不要な規制の撤廃、税法や事業規制の簡素化は必要であり、多くの人々にとって魅力的なことは確かだ。しかしトランプとその側近たちは効率化という名目で、消費者の保護や権利など多くのものを切り捨てようとしているかに見える。
「返り咲くトランプ(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
Donald Trump(写真:AP/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
<CS>
返り咲くトランプ
ドナルド・トランプの2度目の大統領選勝利について、歴史家たちは今後何十年にもわたって議論し著述することになるだろう。「もしも」を考え始めたらキリがないが、そもそもバイデンは立候補すべきだったのか?後任候補の指名はカマラ・ハリスでよかったのか?あの瞬間にトランプが振り向かず、暗殺者の銃弾がかすめるだけでは済まなかったら?トランプが既決重罪犯として初めて国の最高職に選出されたという事実は確かに問題ではあるだろうが、犯罪歴がないことが米国大統領になるための必須条件ではない。実際、2016年の選挙では、有権者はトランプがポルノ女優のストーミー・ダニエルズと関係を持っていたことを知りながら彼に投票している。ならば、彼女への口止め料支払いのために事業口座を偽造した程度のことを今さら問題視するだろうか?
共和党は大統領選で勝利し、上院、下院の過半数を制して完勝した。一方、トランプがハリスに勝利したとはいえ、得票率が50%をわずかに下回ったという事実は注目に値する。無所属の候補者のうち得票率が最も高かった候補が約1.6%を獲得していることからも、トランプや共和党が主張するような圧倒的勝利ではなかったことが分かる。アメリカ国内の分断は4年前と8年前にも浮き彫りになったが、その後深刻化する一方だ。アメリカ国外はもとより、国内にいる人々でさえ、この現実に救いを見出す手立ては見つけられそうにない。
分断はあれども、現実としてトランプは勝利した。民主党の指導者たちも民主党寄りの評論家たちも、トランプにならって選挙が盗まれたと主張し、「大嘘」をついて見苦しい姿をさらすことはなかった。彼らは、かつてトランプが投票日の夜に行ったように、選挙結果の確定前から「大規模な選挙不正」を主張することもない。トランプが明確に、ただし僅差で勝利したことで、危険な事態は回避されたと言えるだろう。仮にトランプが敗北していれば、2021年1月6日にワシントンDCの議事堂に支持者たちが押し寄せたときよりもさらに過激な暴言を吐いていたに違いないからだ。
今後の動き
世界中のあらゆる国が、「トランプ2.0」のもとで次に何が起こるか神経をとがらせている。「アメリカ第一」を掲げるトランプは、同盟や同盟国を重視する気配がない。トランプにとっては何もかもが取引であり、すべての国がその対象だ。中国に対する新手の大型関税もあり得るだろう。バイデン大統領は中国に対する制裁と関税を継続、強化したが、トランプはメキシコとカナダに対してもすでに、就任初日に25%の関税を課すと予告している。これら国との現行の貿易協定は、自身の大統領施政時代にUSMCAの下で取りまとめたはずだが、当の本人は忘れてしまったのだろうか?
こうしたことは前回経験済みだという意見もある。世界は第一次トランプ政権を乗り切ったが、今回は何が違ってくるのか。トランプは本質的に、協調的政策や効果的政策を重視するタイプの人間ではない。その極端に過激なレトリックを敢えて政策と呼ぶとして、これについて不安に思うのは杞憂である。なぜなら、トランプ流のカオス的な政権運営のスタイルに加え、支持者や任命した人物間での内紛が続けば、結果として深刻なダメージが生じることはないと予想されるからだ。第二次トランプ政権は無秩序を極め、最終的にはエンターテインメントと化すだろうというのが最も楽観的な見方だ。
そう、トランプには「エンターテイメント」という言葉が相応しい。トランプを支持する有権者の多くは彼を成功した実業家だと思っているが、そのイメージはリアリティ番組『アプレンティス』(The Apprentice)によって作られたものだ。1980年代を通じてトランプは多数のカジノやリゾートを経営し、結果、立て続けに破産して多数の労働者や業者への未払いが残った。常に実物よりも大きく見えがちな、まさに「アメリカらしい」人物ではあるが、ビジネスの成功という点では実際それほどではなかった。ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、ウォーレン・バフェット、ジャック・ウェルチといった現代アメリカの偉大なビジネスリーダーたちとトランプを同列に扱う者などいないだろう。
ならばトランプは実際に何をするというのか?彼は何をしたいのか?そしてその政策を実行するにふさわしいチームを本当に擁しているのか?前回も今回も明らかなのは、トランプ政権というものはまるで中世の宮廷で、有能で経験豊富な政治家や専門家で構成される近代的な政権とは異なることだ。トランプがさまざまな役職に据えた人々については、すでに一部で疑念を生じ、実際に懸念の種となってもいる。最初に指名した司法長官、マット・ゲイツは未成年者の性的人身売買や未成年者との性行為の噂が絶えなかったため、指名発表からまもなく辞任を余儀なくされた。疑惑が証明されたわけではないが、このような人物を政府の最高法務職に推薦しようという考え自体、信じがたいことだ。他の候補者たちはそこまで酷くはないが、やはり安心とは程遠い。国家情報長官に指名されたトゥルシー・ギャバードは、まるでロシアの操り人形のようだ。また、軍のトップには元テレビ司会者で元軍人のピート・ヘグセスが指名されている。いずれの人物もこれほど大規模で複雑な組織を運営した経験はなく、トランプが、自分に都合の良いことを語る人物を選んでいることがよく分かる。トランプにとっては、国の重要機関の運営トップを務めるにはテレビのご意見番で十分なのだ。もう一つ注目すべきは、ロバート・F・ケネディ・ジュニアの指名である。保健省長官に就任することになるが、長年ワクチン陰謀論を唱えており、このような役割にはまったく相応しくない人物である。その他についてはさほど物議を醸すものではない。トランプへの忠誠と、トランプ路線の徹底を重要視しているにすぎないからだ。そのなかで読めないのが、イーロン・マスクの役どころである。トランプが「偉大なるイーロン・マスク」と呼ぶ彼は、資金をつぎ込んでアメリカ権力の中枢に入り込み、今のところトランプの応援団長的な存在となっている。テスラ社もスペースX社も政府からの契約や助成金によって多大な恩恵を受けてきたが、彼はいまや政府効率化省(Department of Government Efficiency、DOGE)の共同責任者に指名されている。ただしこれは実際には省ではなく、政府支出の2兆ドル削減を目指す諮問機関というべきものである。肥大化した省庁のスリム化、不要な規制の撤廃、税法や事業規制の簡素化は必要であり、多くの人々にとって魅力的なことは確かだ。しかしトランプとその側近たちは効率化という名目で、消費者の保護や権利など多くのものを切り捨てようとしているかに見える。
「返り咲くトランプ(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
Donald Trump(写真:AP/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
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