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窪田製薬HD Research Memo(4):「PBOS」は第三者機関の性能確認試験データを待ってパートナー契約交渉へ
配信日時:2022/04/06 16:04
配信元:FISCO
■窪田製薬ホールディングス<4596>の主要開発パイプラインの概要と進捗状況
2. 遠隔眼科医療モニタリングデバイス「PBOS」
(1) PBOSの特徴と競合状況
「PBOS」は、ウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫等の網膜疾患の患者が網膜の厚みを患者自身で測定し、撮影した画像をインターネット経由で担当医師に送り、治療(投薬)の必要性の有無を診断する遠隔眼科医療モニタリングデバイスとなる。
従来、こうした患者は定期的に通院してOCT※検査を行い、必要に応じて治療(眼内注射)を行っていた。「PBOS」では、在宅で手軽に検査できることから検査のための通院の必要性がなくなるほか、適切なタイミングで治療を受けることが可能となり、症状が悪化するリスクを低減できるといったメリットがある。距離や経済的な問題で定期的に通院できず症状を悪化させる患者も多いだけに、在宅で手軽に検査できるデバイスの潜在的なニーズは大きいと見られる。病院側でも検査よりも治療に充てる時間を増やしたほうが経営面でプラスとなるほか、製薬企業にとっても適切な投薬が実施されることで従来よりも販売量が増える可能性があるなど、すべての関係者がメリットを享受できる仕組みとなっているのが特徴だ。
※OCT(Optical Coherence Tomography):赤外線を利用して網膜の断面を精密に撮影する検査機器のこと。緑内障や加齢黄斑変性等の網膜疾患患者の診断用として使用される。
特にここ最近はコロナ禍の感染防止対策という面からも、在宅OCTのニーズが増している状況にある。このため、米国医師会では2020年7月1日付で在宅OCTの活用を推進するため、保険適用に必要となる手続きのガイドラインを発表しており、普及する条件は既に整っていると言える。
在宅OCTを商用化している企業はまだなく、開発済みの企業としては同社のほかNotal Vision, Inc.など数社に限られる。同社製品は、操作ボタンの大型化や操作方法を音声ガイダンスでサポートする機能を実装するなど、高齢の患者に配慮した設計となっているほか、競合のNotal Visionと比較すると検査時間も短く手軽に利用できるのが特徴となっている。
(2) 今後のスケジュール
現在の開発状況については、2020年8月から取り組んできたスイス最大規模の眼科大学病院との共同研究が完了し、テーマとしていた網膜浮腫の測定精度向上やAIを活用した網膜断面の3D画像生成機能等のソフトウェア改良を終え、機能面での開発についてはほぼ完了した状況となっている。現在は使用感を確認するための小規模な臨床研究を、国内の医療機関(鹿児島園田眼科・形成外科)で進められている段階にある。医師主導の臨床研究であるため終了時期は未定だが、2022年1月より40例を目標に実施していることから、比較的早期に終了する可能性はある。
なお、本臨床研究の責任者である院長の園田祥三医師は、眼科医療にAIを活用するための研究開発を積極的に行っており、2020年に新設された日本眼科AI学会の評議員にもなっている。「PBOS」もAIによる画像生成を行うため、臨床現場でのAI活用の一環として臨床研究を実施することとなった。今回の臨床研究で得られたエビデンスをもって、同社は開発販売パートナー候補先企業との協議を進めていくことにしている。OCTと同等性能が得られることが確認できれば契約締結に向けて大きく前進することになる。また、パートナー契約が締結されれば米国にて治験を実施していくものと予想され、パートナー候補企業としては加齢黄斑変性等の治療薬を開発する複数の製薬企業のほか、日本の企業も関心を見せているようだ。
同社資料より、2018年に実施した在宅OCT市場に関する調査※によると、在宅OCTに関心を持つ眼科医や患者の割合はいずれも50%以上となっており、また眼科医のうち、患者が在宅OCTを受け入れると推定した割合も米国で38%、日本で30%となっている。コロナ禍が続く現状ではさらに関心が高まっているものと思われ、米国での開発に成功すれば、欧州や日本でも展開していくものと予想される。
※加齢黄斑変性治療薬を手掛けている大手製薬企業であるノバルティスが2018年に作成した在宅OCT市場に関する調査。
(3) ビジネスモデルと市場規模
米国でのビジネスモデルは、患者の初期負担が軽減されるレンタルサービスとして、毎月利用料を徴収する方式となる可能性が高い。保険適用されれば患者負担も大幅に軽減できるため、普及も加速していくものと考えられる。加齢黄斑変性などの網膜疾患は根治療薬がないことから、一度「PBOS」を使うと失明しない限りは継続して使用される可能性が高く、ストック型ビジネスとして将来的に安定した収益源に育つ可能性がある。
潜在的な市場規模は、当面は米国におけるウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫等の患者が対象となる。同社資料※1によれば、加齢黄斑変性の米国における患者数は2010年の206万人から2030年に266万人、2050年に544万人と2.7倍に拡大すると予測されている。このうちウェット型は約10%程度となる。また、ドライ型でも黄斑部が地図上に委縮して症状が悪化する患者数はウェット型と同規模いると見られており、こうした患者も対象となる。このため2050年の対象患者数は110万人程度になると予想される。一方、北米の糖尿病患者数は2021年の5,100万人から2045年に6,300万人に増加すると予測されている※2。日本では糖尿病患者のうち糖尿病網膜症の有病率が15~23%で、そのうち約20%が糖尿病黄斑浮腫を併発するとの報告があり※3、米国でも同程度と仮定すれば米国における糖尿病黄斑浮腫の患者数は2045年時点で180~230万人程度と予想され、「PBOS」の対象となる加齢黄斑変性の患者と合計した米国での潜在的な利用者数は現在の約200万人から2050年前後には300万人になると推計される。
※1 出典:Market Scope, The Global Retinal Pharmaceuticals & Biologic Market, 2015.
※2 出典:世界糖尿病連合「IDF糖尿病アトラス」第10版, 2021
※3 中野 早紀子,第114回(公財)日本眼科学会総会2010:135(糖尿病黄斑浮腫は糖尿病網膜症患者の20%に発生するという報告に基づく)。
「PBOS」の月額利用料を千円、2050年時点の普及率を50%と仮定すれば、2050年時点で180億円の市場規模となり、その時点では欧州や日本でも普及している可能性が高いことから、世界市場としてはその数倍規模になるものと予想される。加齢黄斑変性等の網膜疾患は主要な失明原因の一つとなっており、高齢者人口が今後も増加の一途を辿ることを考えれば、「PBOS」の潜在的な成長ポテンシャルは極めて大きいと弊社では考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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2. 遠隔眼科医療モニタリングデバイス「PBOS」
(1) PBOSの特徴と競合状況
「PBOS」は、ウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫等の網膜疾患の患者が網膜の厚みを患者自身で測定し、撮影した画像をインターネット経由で担当医師に送り、治療(投薬)の必要性の有無を診断する遠隔眼科医療モニタリングデバイスとなる。
従来、こうした患者は定期的に通院してOCT※検査を行い、必要に応じて治療(眼内注射)を行っていた。「PBOS」では、在宅で手軽に検査できることから検査のための通院の必要性がなくなるほか、適切なタイミングで治療を受けることが可能となり、症状が悪化するリスクを低減できるといったメリットがある。距離や経済的な問題で定期的に通院できず症状を悪化させる患者も多いだけに、在宅で手軽に検査できるデバイスの潜在的なニーズは大きいと見られる。病院側でも検査よりも治療に充てる時間を増やしたほうが経営面でプラスとなるほか、製薬企業にとっても適切な投薬が実施されることで従来よりも販売量が増える可能性があるなど、すべての関係者がメリットを享受できる仕組みとなっているのが特徴だ。
※OCT(Optical Coherence Tomography):赤外線を利用して網膜の断面を精密に撮影する検査機器のこと。緑内障や加齢黄斑変性等の網膜疾患患者の診断用として使用される。
特にここ最近はコロナ禍の感染防止対策という面からも、在宅OCTのニーズが増している状況にある。このため、米国医師会では2020年7月1日付で在宅OCTの活用を推進するため、保険適用に必要となる手続きのガイドラインを発表しており、普及する条件は既に整っていると言える。
在宅OCTを商用化している企業はまだなく、開発済みの企業としては同社のほかNotal Vision, Inc.など数社に限られる。同社製品は、操作ボタンの大型化や操作方法を音声ガイダンスでサポートする機能を実装するなど、高齢の患者に配慮した設計となっているほか、競合のNotal Visionと比較すると検査時間も短く手軽に利用できるのが特徴となっている。
(2) 今後のスケジュール
現在の開発状況については、2020年8月から取り組んできたスイス最大規模の眼科大学病院との共同研究が完了し、テーマとしていた網膜浮腫の測定精度向上やAIを活用した網膜断面の3D画像生成機能等のソフトウェア改良を終え、機能面での開発についてはほぼ完了した状況となっている。現在は使用感を確認するための小規模な臨床研究を、国内の医療機関(鹿児島園田眼科・形成外科)で進められている段階にある。医師主導の臨床研究であるため終了時期は未定だが、2022年1月より40例を目標に実施していることから、比較的早期に終了する可能性はある。
なお、本臨床研究の責任者である院長の園田祥三医師は、眼科医療にAIを活用するための研究開発を積極的に行っており、2020年に新設された日本眼科AI学会の評議員にもなっている。「PBOS」もAIによる画像生成を行うため、臨床現場でのAI活用の一環として臨床研究を実施することとなった。今回の臨床研究で得られたエビデンスをもって、同社は開発販売パートナー候補先企業との協議を進めていくことにしている。OCTと同等性能が得られることが確認できれば契約締結に向けて大きく前進することになる。また、パートナー契約が締結されれば米国にて治験を実施していくものと予想され、パートナー候補企業としては加齢黄斑変性等の治療薬を開発する複数の製薬企業のほか、日本の企業も関心を見せているようだ。
同社資料より、2018年に実施した在宅OCT市場に関する調査※によると、在宅OCTに関心を持つ眼科医や患者の割合はいずれも50%以上となっており、また眼科医のうち、患者が在宅OCTを受け入れると推定した割合も米国で38%、日本で30%となっている。コロナ禍が続く現状ではさらに関心が高まっているものと思われ、米国での開発に成功すれば、欧州や日本でも展開していくものと予想される。
※加齢黄斑変性治療薬を手掛けている大手製薬企業であるノバルティスが2018年に作成した在宅OCT市場に関する調査。
(3) ビジネスモデルと市場規模
米国でのビジネスモデルは、患者の初期負担が軽減されるレンタルサービスとして、毎月利用料を徴収する方式となる可能性が高い。保険適用されれば患者負担も大幅に軽減できるため、普及も加速していくものと考えられる。加齢黄斑変性などの網膜疾患は根治療薬がないことから、一度「PBOS」を使うと失明しない限りは継続して使用される可能性が高く、ストック型ビジネスとして将来的に安定した収益源に育つ可能性がある。
潜在的な市場規模は、当面は米国におけるウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫等の患者が対象となる。同社資料※1によれば、加齢黄斑変性の米国における患者数は2010年の206万人から2030年に266万人、2050年に544万人と2.7倍に拡大すると予測されている。このうちウェット型は約10%程度となる。また、ドライ型でも黄斑部が地図上に委縮して症状が悪化する患者数はウェット型と同規模いると見られており、こうした患者も対象となる。このため2050年の対象患者数は110万人程度になると予想される。一方、北米の糖尿病患者数は2021年の5,100万人から2045年に6,300万人に増加すると予測されている※2。日本では糖尿病患者のうち糖尿病網膜症の有病率が15~23%で、そのうち約20%が糖尿病黄斑浮腫を併発するとの報告があり※3、米国でも同程度と仮定すれば米国における糖尿病黄斑浮腫の患者数は2045年時点で180~230万人程度と予想され、「PBOS」の対象となる加齢黄斑変性の患者と合計した米国での潜在的な利用者数は現在の約200万人から2050年前後には300万人になると推計される。
※1 出典:Market Scope, The Global Retinal Pharmaceuticals & Biologic Market, 2015.
※2 出典:世界糖尿病連合「IDF糖尿病アトラス」第10版, 2021
※3 中野 早紀子,第114回(公財)日本眼科学会総会2010:135(糖尿病黄斑浮腫は糖尿病網膜症患者の20%に発生するという報告に基づく)。
「PBOS」の月額利用料を千円、2050年時点の普及率を50%と仮定すれば、2050年時点で180億円の市場規模となり、その時点では欧州や日本でも普及している可能性が高いことから、世界市場としてはその数倍規模になるものと予想される。加齢黄斑変性等の網膜疾患は主要な失明原因の一つとなっており、高齢者人口が今後も増加の一途を辿ることを考えれば、「PBOS」の潜在的な成長ポテンシャルは極めて大きいと弊社では考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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