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暗号資産後進国、日本:重要なのは頭脳、インナーサークルと気概(橋本欣典氏との対談)(3)【実業之日本フォーラム】

配信日時:2021/11/25 14:49 配信元:FISCO
【編集後記】対談を終えて

白井一成

今回は、暗号資産やブロックチェーン界隈では「カナゴールド」として有名である橋本さんにお話をお聞きしました。私は、数年前に橋本さんにお目にかかった際、橋本さんの能力に惹かれ、すぐに仕事をご一緒させていただきました。

橋本さんは会社のスタッフと一緒に、2021年10月に日本からシンガポールへ移住されました。対談でお話されていた、日本の暗号資産業界の経営環境と税制がその理由とのことです。ちょうど、ノーベル賞候補にも名前があがる藤嶋昭氏がチームごと中国に引き抜かれ、ノーベル賞の真鍋俊郎氏も日本に戻らないという発言が世間を賑わせました。藤嶋昭氏は研究環境、真鍋俊郎氏は研究環境と日本の組織文化面が原因だと思われますが、このお二人に限ったことではなく、多くの日本の優秀な方々が海外に流出しており、また海外の優秀な方々も、日本よりアメリカやシンガポールなどの国を選択することが多いように思います。第四次産業革命時代を見据えると、日本の未来の稼ぎ頭を失っているという事実であり、解決すべき喫緊の課題でしょう。

橋本さんが対談で日本の金融行政について指摘していますが、これは行政に限ったことではなく、企業を含めた日本の組織全体で見られる傾向であり、マックス・ウェーバーの官僚制組織の弊害[o1] そのものに陥っているのではないかと考えております。そもそも、官僚制組織を採用する意義は、組織が目的を達成するために、合理的に意思決定と行動が制定されたルールを遵守することが有効であると考えられるためですが、ロバート・キング・マートンが指摘しているように、行き過ぎた官僚制は組織の目的そのものを変える必要があるなどといった想定外の問題の対処には、逆に機能してしまいます。

日本は、世界トップクラスの貿易立国ですが、巨額の貿易黒字を稼いでいた以前の状況から、基幹産業の優位性を減退させながら莫大な外貨を保有した成熟債権国へとシフトしており、他方では、第四次産業革命による急速なパラダイムシフトに直面しています。

藤野英人さんとの対談でも議論しましたが、成長産業の育成と富の形成は表裏一体です。成長分野を見極めつつ需要を喚起し、そこへ投資を促すことで産業を発展させる必要があり、国家としてはそのような環境整備が必要です。シリコンバレーのテック企業の躍進はまさに、それを地でいく好例だと思います。

今後の国家の舵取りいかんによっては、国富や国民の資産形成が大きく減退することも考えられるため、新たな時代の変化に対応したダイナミックな資産形成戦略を考え、行動に移す必要があります。世界の人々に先んじて果敢に投資し、海外からの資本を積極的に受け入れるべきであり、そのためにも日本の組織のあり方を考え直すべきでしょう。

そもそも富というのは相対的なものであり、日本円などの法定通貨であっても、他のあらゆる資産と比べて評価すべきです。資産運用は、資産ポートフォリオによる安定運用が一般的ですが、大きなパラダイムシフトが起きている場合は、そこへ傾斜配分を行うことが資産増加の鍵となることが多いでしょう。

フェイスブックやテスラなどのテック企業大手の創業メンバーや投資家、数年前からビットコインに投資している人などは、数年間でその資産が数十倍、数百倍に膨れ上がっているはずですが、その方々の投資資産を基準にすると、法定通貨や物価が急落しているように見えるはずです。大きなパラダイムシフトであっても、一日一日の変化はごく僅かであり、変化そのものに気づかないのです。世の中の変化に気づいたときには既に乗り遅れているという場合が多く、資産形成においてもそれらの変化と軌を一にしています。すなわち、変化を止めた瞬間に富は相対的に減少し、新興勢力にあっという間に追い抜かれることになるのです。藤野さんとの対談でのアメリカのテック企業と日本企業との時価総額比較や、井上智洋さんとの対談の編集後記で示した日米の家計資産の推移がそれを端的に物語っています。変化を拒み、急速に富を築いた人や産業を批判するのではなく、大局観をもって能動的に変化を起こし、富の増大を図っていく必要があります。

また、対談で橋本さんが指摘しているように、投資対象の時価総額が高くなってから、その上値を追って投資することは、取得単価が低い人の単価を引き上げることとなり、彼らに高値での売却の機会を与えることになります。本来は、単価が安いアーリーステージで投資して、その資産を他人に高値で買ってもらうことが肝要です。藤野さんとの対談の編集後記では、アメリカの株式市場への投資資金の流入が、アメリカの富の増加を促していることを記しました。井上先生との対談の編集後記では、2018年の日本の対内直接投資のGDP比は、諸外国のそれと比べてあまりにも低いということを述べさせていただいておりますが、日本には、まだ投資を受け入れる余地が十分にあるということなのか、それとも投資妙味に欠けるのかは分かりません。しかし、今後の日本を考えれば、イノベーションを起こす産業を育成しつつ、海外からの日本への投資を促し、富を増大しつつ経済を刺激する必要があります。

話題は変わりますが、橋本さんは対談の中でスマートコントラクトのバグの発生確率が2分の1と言及されていました。これは驚くべき数字で、ブロックチェーンの社会実装が時期尚早であり、人類のナレッジの積み上げにはもう少し時間がかかることを示しているのかもしれません。

しかしながら、2021年7月にスマートコントラクトを実装することを発表したデジタル人民元を軽視すべきではなく、中国の戦略を仔細に分析する必要があります。中国が進めるブロックチェーンサービスネットワーク(BSN)は、簡単かつ安価にブロックチェーンアプリケーションをつくることができるプラットフォームであり、多くの参加者によって自然発生的にさまざまなシステムが構築されることが期待され、最終的にはデジタル人民元とデジタル経済がブロックチェーンによってシームレスに統合運用されることが予想されます。中国政府が金融と経済のプラットフォームを用意することによって、民間のイノベーションの活力を生かしつつ、中国政府の統制の効くデジタル社会への移行が可能となります。

2021年7月、中国人民銀行は2019年から開始したデジタル人民元の実証実験が11都市、省に拡大し、2000万人以上がウォレットを開設し、取引額が345億円に達したと発表しています。2021年9月、中国銀行が17種類の外貨をデジタル人民元に交換できるATMを発表し、北京冬季オリンピックで利用可能になると発表しました。このように中国国内ではデジタル人民元の社会実装が着実に進んでおり、近い将来、中国国内と関わりを持つ人や企業はデジタル人民元ウォレットを持ち、経済活動で中国のブロックチェーンアプリケーションを利用することになり、中国のブロックチェーン経済圏に組み込まれていく未来が想定されます。

中国は、CBDC(中央銀行デジタル通貨)のクロスボーダー決済においても先行しています。BIS(国際決済銀行)と香港金融管理局、タイ銀行によって始められたInthanon-LionRockプロジェクトでは、2021年9月に終了した第2フェーズから中国人民銀行も参加しており、現在のクロスボーダー決済の3日から5日かかる時間を2分から10分に短縮することを実現しています。

また、現行のクロスボーダー決済でも、2015年にCIPS(Cross-border Interbank Payment System)を導入しています。アメリカが実質的に支配しているドル建ての国際送金を担うSWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication 国際銀行間通信協会)を回避し、人民元圏を形成することを企図しています。

このように中国は、現状のシステムと次世代の技術であるCBDCの両方で金融覇権の獲得を進めていますが、一帯一路やテクノロジーの動向などの経済政策、軍事面も含めて中国の戦略を検討するべきでしょう。

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